<追求!世界平和>もう打ち止めにしませんか!枝葉しか見ない「反省なき論議」―浅野勝人・元外務副大臣(上)

Record China    2014年6月7日(土) 9時8分

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戦時下の慰安婦に対し、軍の関与の下に名誉と尊厳を深く傷つけたことを心から詫び、反省を表明した河野洋平官房長官談話を検証する方針を、政府が示しているのは歴史認識をあいまいにする試みと誤解される懸念がある。中国雲南省にある日本軍慰安所の跡地。

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「合格を待ちて逝きたる孫思い 泥にまみれし写真を洗う」―。 石巻市の阿部敬子さんの歌を毎日新聞の「余録」が紹介しています。

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東日本大震災から3周年となる2014年3月11日の朝刊各紙は、涙して文字が曇る記事が少なくありません。もう、丸3年、悲しみを新たにします。

ちょうどこの日、菅義偉内閣官房長官が記者会見で、「河野談話の見直しはしない」と明言しました( 1993年8月4日:戦時下の韓国などでの慰安婦に対し、軍の関与の下に名誉と尊厳を深く傷つけたことを心から詫び、反省を表明した宮沢内閣・河野洋平官房長官談話 )。 性懲りもなく見直しを求める木を見て森の見えない党内外の議論を打ち止めにしたいという菅長官の腹の内が明確に示されています。

ところが、その一方で作成経過を検証する方針を示しているのが不可解です。おそらく安倍政治に対する理念ファンへの配慮でしょうが、政局を考慮する二律背反的整合性の追求は、諸外国からは理解されません。もっと正確に言えば、外国人には理解できないでしょう。アメリカの懸念を払しょくして近隣外交の立て直しを目指すためには、歴史認識をあいまいにする試みと誤解されるような姿勢はとるべきではありません。

 

翻って、戦時下の慰安婦問題が再燃したのは、旧日本軍が強制、管理に関与したかどうかを調査すべきだという指摘に端を発しています。反語として、軍の関与はなかったから「河野談話」は根幹に誤認があると示唆しています。主として、自民党右派と維新の会の主張のようです。

 そもそも、慰安所の設置や慰安婦の扱いについて、当時、強制連行・管理した詳細を記録に残す軍人ないしは軍属がいたとは到底思われません。そんな事実が判明したら軍の権威は失墜し、後々に計り知れない汚点を残す結果となります。もし、仮に正直に記録していた軍関係者がいたとしても、敗戦が色濃くなった状況下では、秘密書類の中でも真っ先に焼却・処分して撤退するのが軍の常識です。一番知られたくない文書だからです。したがって、戦後70年経った現在、調査してみたところで証拠となる文書が見つかるはずがありません。ヒョッコリ見つかろうものなら、改めて、公式に旧日本軍の恥を世界にさらすだけです。ですから、軍の関与を再調査せよという人の神経が私には理解できません。

 

「河野談話」をまとめる段階で、韓国側とすり合わせをしたかどうかを問題視する感覚についてです。

 事実関係は知る由もありませんが、およそ外交文書、外交上の重要文書を関係国同士が水面下で折衝を繰り返してまとめあげるのは常識です。共同声明作りが、下準備の事務レベル交渉の段階で決裂して発表されなかった例は幾らもあります。「河野談話」は日本政府の声明ですから、確かに韓国側と事前折衝をする類の文書にはなじみません。しかし、問題を解決するための声明ですから、発表して事態が却ってこじれてしまったのでは声明の意味がありません。仮に、内々、韓国側の了解を求めた経緯があったとしてもむしろ当然の外交的思慮でしょう。

作成過程の再検証とは、河野談話の取りまとめに骨を折った当時の関係省庁の官僚ないしはOBに韓国側との接触の有無を問い質すことを意味しているのでしょうか。あるいは日韓双方の担当当事者に確認する作業を想定しているのでしょうか。そんな幼稚なことをホントにやろうとしたら、日韓関係は決定的な不信感に陥り、抜き差しならない泥沼にはまって、改善を求めるアメリカも匙を投げるでしょう。

作成の過程を調査するには、韓国や中国、オランダの戦時慰安婦の方々に対する事情聴取は避けられません。生存しておいでの方が少なくなった高齢の婦人に、今さら、昔の痛みを根ほり葉ほり聞き質して、堪えがたい苦痛を改めて与えるつもりなのでしょうか。かつて、軍の関与を示す証拠がないという理由から河野談話が批判された折、元慰安婦の人たち十数人が恥を忍んでソウルの日本大使館の前で「証拠ならここにいる」と叫ぶ姿が世界にキャリーされています。(下に続く=8日配信予定)

<追求!世界平和>第1回(上)

浅野勝人(あさの・かつひと) 1961年NHK入局、政治記者として自民党、外務省、首相官邸各キャップや解説委員を務めた後、政界に転じ衆参両院議員(自民党)、第一次安倍政権で外務副大臣、麻生政権で官房副長官などを歴任。現在、一般社団法人・安保政策研究会理事長、東北福祉大学特任教授。著書に「北京大学講義録 日中反目の連鎖を断とう」(NHK出版)、「成熟」(時評社)など。

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