<日中100人 生の声>高野山から世界へ―新型コロナウイルスの終息を祈る―静慈圓 高野山真言宗前官

和華    2022年5月20日(金) 18時30分

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高野山は大阪の「なんば」から南方へ南海電車で2時間、和歌山県にある。写真:蟠龍庭に史上初の曼荼羅芸術(写真/片岡司)

高野山は大阪の「なんば」から南方へ南海電車で2時間、和歌山県にある。海抜900メートルの山上に1200年前に弘法大師空海(774~835)が開いた仏都で、全国に3800カ寺の末寺を持つ真言宗の大本山である。空海の開創以来常に日本政治の中央と関係してきた宗教都市であるので、日本の歴史資料、文化財の多くを有している。

信仰の山であり年間百数十万人の参詣がある。2020年2月コロナウイルスが発生、途端に信徒の参詣が無くなった。山内には参詣者の泊まる53カ寺の宿坊があるので、山内住人は皆々自粛し、大阪等に出られなくなった。大阪に行きコロナをもらって帰山するとそれこそ一大事になるからである。多く来ていた外国人の観光者もなく山内は不思議な静寂空間となった。

私も山籠りの生活となったが、コロナ禍と真面に対決せねばならない。「新型コロナウイルスが猛威をふるっている。じっとしていればウイルスにやられてしまう、人間の側からエネルギーを出していかねばならない」と考えた。

私の尊敬する日本を代表する高名な写心作家・小川勝久氏と相談した。小川先生は、写真は「心」を写すものであるとして強いて「写心作家」と自称している方である。小川先生が提唱する小川先生制作の「屏風写心アート」に私が即興で墨書し、琴演奏家の方于(まさこ)リラさんが即興演奏をつけるという「立体曼荼羅」を創る計画をした。空海は京都東寺の講堂に仏像を並べ、立体曼荼羅を造った。これは、仏は人間そのもの、つまり人間がいる世界は立体曼荼羅そのものということも表現している。曼荼羅を見る側に五感と六感(直感)を通じて癒しを感じてもらえればとの構想である。

エネルギーといえば、弘法大師空海である。厳しい山林修行をし、荒れ狂う海を渡り、唐長安で密教を継承し帰朝した。このエネルギー、生命力を、曼荼羅芸術として表現し、みなさまに向けて発信したい、と思ったからである。

屏風写心アートについて、テーマは「海」とした。小川先生は、早速空海が修行した四国の土佐室戸崎へ飛んだ。空海が瞑想した洞窟ミクロ洞の中から海を見ると海と空だけが見える。まさに空海の名前そのものである。その日は海は荒れ波しぶきがたっていた。写真を撮った。正面に赤い石が見える。小川先生は、六曲一双の屏風の真ん中にこの石を配置し屏風を制作した。

素晴らしい屏風が完成した。右隻は、水一線の彼方に太陽が光り輝きながら顔をだし海上を照らしている。左隻は、波が乱れ遣唐使船が彼方に見える。大きなエネルギーが充満している六曲一双の屏風が出来上がった。

さて曼荼羅芸術の発信は、金剛峯寺のご配慮で金剛峯寺境内「蟠龍庭(ばんりゅうてい)」で行うこととなった。白い砂に飛石を配置し龍に象った広さ日本一の庭園である。この庭に六曲一双の屏風を立て掛け、そこに即興墨書することとした。

2020年6月15日に実行、6月15日は空海生誕の日である。蟠龍庭で曼荼羅芸術を開始した。私は、右隻に「空」、左隻に「海」と大書した。そして右隻には、若いお大師さまが室戸崎で修行中に遭遇し、自分の中に飛び込んだという明星を感知し「勤念土州室戸崎 明星来影」と書いた。左隻には、空海入唐(にっとう)・日本の五島列島西端を離れ海上で暴風雨に遇い、九死に一生を得た句を書いた。


波が乱れ遣唐使船が彼方に見える左隻の屏風に「海」と大書した筆者(写真/片岡司)

句にいわく「既に本涯(ほんがい・この岸の意)を辞して 中途に及ぶ比(ころおい)に、暴雨 帆を穿ち 戕風(しょうふう) 柁(かじ)を折る、高浪 漢に沃(そそ)ぎ 短舟 裔裔(えいえい)たり」と書いた。

即興墨書中、方于リラさんは、琴の即興で宇宙からの波長を引きだし演奏した。制作作品の前で、私は次のメッセージを発信した。

発信文

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、我が国に留まらず、世界的な危機に瀕しております。地球上では、187カ国において630万人の患者、38万人を超える方々の尊い命(2020年6月現在)が失われております。

感染の現場で、ご自身のリスクを背負いながらも、懸命に働いておられる医療従事者の方々をはじめ、関係者の皆様方のご尽力に、心から感謝の意を表します。

この度私たちは、ご縁をいただいて、総本山金剛峯寺蟠龍庭において前代未聞の苦境の最中に、少しでも皆様方の不安な思いを癒やすことが出来るならばと、「写心芸術と墨書と音」のマンダラ芸術でコロナ終息を祈らせていただきます。

高野山を開かれました弘法大師空海、お大師さまの御誓願は、高野山で行われた万灯会(まんどんえ)の願文に明らかであります。空海は「虚空尽き 衆生尽き 涅槃尽きなば、我が願いも尽きなん」と言いました。すなわち、虚空がなくなり、生きとし生けるものがいなくなり、悟りがなくなるまで、私の救済は続くとの願いであります。

コロナウイルスは、全世界に広まり、社会全体が大きな病苦に陥ろうとしています。世界中の人々に、心を癒やし生きる力を育んでいただき、少しでも病む心を和らげていただけますようにと、祈ります。

この高野山から、弘法大師のご誓願に基づき、世界に向けてコロナウイルス災禍の終息、そして力を合わせて共に生きる人々へ、世界平和のメッセージを発信致します。

※本記事は、『和華』第31号「日中100人 生の声」から転載したものです。また掲載内容は発刊当時のものとなります。

■筆者プロフィール:静慈圓(しずかじえん)


高野山真言宗前官、高野山清凉院住職。1942年徳島県出身、高校卒業後は高野山大学、同大学院に進学。1989年、学修灌頂入壇、伝燈大阿闍梨職位を受ける。2008年、高野山大学の名誉教授へ就任。2018年に高野山真言宗最高僧位の法印(第519世)に就任。現在、高野山大学名誉教授、博士(仏教学)、高野山清凉院住職、西泠印社名誉社員。著書に『性霊集一字索引』(東方出版、1991)、『空海入唐の道』(朱鷺書房、2003)など。

静慈圓 紹介サイト(https://shizuka-koyasan.com/)

小川勝久オフィシャルサイト(https://www.st-azur.co.jp)

※本記事はニュース提供社の記事であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。すべてのコンテンツの著作権は、ニュース提供社に帰属します。

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