中国新聞社 2022年6月1日(水) 23時0分
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2021年5月に他界した袁隆平氏(胸像写真)は、中国で極めて尊敬されている農学者だ。袁氏が中国や世界の食糧問題を解決するために開発と普及に心血を注いだハイブリッドイネとは、どのようなものだろうか。
2021年5月に他界した袁隆平氏は、中国で極めて尊敬されている農学者だ。中国が米の生産量で世界第1位になったことにも、袁氏が心血を注いだハイブリッドイネが大きく貢献したとされる。湖南省農業科学院などが発起して設立された農業ハイテク企業である袁隆平農業高科技の楊遠柱副総裁はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じてハイブリッドイネの普及状況などを説明した。以下は楊副総裁の言葉に若干の説明内容を追加するなどして再構成したものだ。
■世界各国の米生産がハイブリッドイネの導入で劇的に向上
ハイブリッドイネの開発に最初に成功したのは1970年代だった。中国政府はそれ以来、国連開発計画(UNDP)や国連食糧農業機関(FAO)などの国際機関および世界の主要稲作国に対して一連のハイブリッドイネ技術援助を展開してきた。FAO は90年代初頭にハイブリッドイネの普及を発展途上国の食糧不足問題を解決するために最優先する戦略措置を定めた。
中国のハイブリッドイネ技術は現在、少なくとも世界40カ国以上で試験や実証を展開している。大規模に普及したのは米国、インド、フィリピン、パキスタン、ベトナム、インドネシアなど十数カ国で、年間栽培面積は600万ヘクタールを超えた。生産量は一般的に、現地の在来種より1ヘクタール当たり2トン増加している。
中国のハイブリッドイネ技術を最初に導入した国は米国だ。79年には米国の種苗会社が中国からハイブリッドイネ3品種を導入して試験栽培したが、単位面積当たりの収穫量は当時の米国の優良品種より65%から80%も高かった。米中は80年にハイブリッドイネの育種技術移転協定を結び、中国は専門家を米国に派遣して技術を伝授した。現在までに米国のハイブリッド水稲の作付け面積は約60万ヘクタールに達した。栽培比率は60%近くだ。
ベトナムも、中国のハイブリッドイネを最も早く導入した国の一つだ。多い時には年間栽培面積が70万ヘクタールを超えていた。パキスタンではイネの作付面積の20%以上がハイブリッドイネだ。インドでは、ハイブリッドイネの作付け面積が水稲作付面積の8%に相当する330万ヘクタールを超した。
■各種問題には、相手国の状況などに応じて「戦略的」に解決
ハイブリッドイネの国際的な普及では解決せねばならない問題も出現した。例えば中国のハイブリッドイネは初期の段階では、南アジアや東南アジアなどの熱帯地域の細菌性病害とイネウンカに対する抵抗性が弱かった。
また、これらの地方の水田の土壌は痩せている上に施肥が十分でなかった。これでは、増産は限定的になってしまう。また、中国のハイブリッドイネは炊飯した際に粘りが多く出る。南アジアでは手を使って米を食べるが、そのような食習慣には向いていない。
対応策としては「研究開発先行戦略」を確立した。フィリピン、パキスタン、インド、ベトナムに海外ハイブリッドイネ研究開発センターを設立した。現地の状況に適合した品種を開発するためだ。
そして2021年までに、海外向けのハイブリッドイネを31品種開発した。同年の海外ハイブリッドイネ種子の販売量は6800トンを超えた。それらはすべて、現地で開発されたものだ。
次に、中国の種苗企業の実力不足の問題だ。資金面の問題などから相手国での研究開発は不十分だった。中国から種子を輸出していたのでは、生産コストが上昇して利益は落ち込んでいく。つまり、持続可能な発展は難しい。
この問題を解決するために、対象国でハイブリッドイネを産業化するための会社を設立した。このことで生産の現地化が進み、種子生産コストが引き下げられた。中国から輸出する場合と比べて、販売価格は30%程度低くなった。
第3の問題は、発展途上国で農業従事者の科学技術のレベルが立ち遅れていたことだ。理解不足のためにハイブリッドイネの普及は遅れた。また、正しい方法で栽培せねば、ハイブリッドイネも能力を十分に発揮できない。
この状況を打開するために中国政府商務部、同農業農村部、同科学技術部がハイブリッドイネの国際研修プロジェクトを実施した。弊社(袁隆平農業高科技)は商務部が指定する「中国ハイブリッドイネ技術対外援助研修基地」として、ハイブリッドイネ国際研修クラスを100回以上実施した。その成果として、100カ国以上の約1万人の農業官僚、農業技術専門家が研修に参加した。
■世界の食糧事情の改善のためには国際的な視野と実践が必要
遺伝資源は品種改良にとって物質的基盤だ。しかし、一つの国あるいは一つの地域に存在する品種だけで、全ての遺伝資源をそろえることは難しい。中国はハイブリッドイネの研究開発を半世紀以上続けたことで、現在までに世界で最も多い遺伝資源を有するようになった。東南アジアや南アジア地域の遺伝資源も利用した改良が、今後も海外のハイブリッドイネ品種育成を大きく加速させることは間違いない。
遺伝資源における国際協力は優れた遺伝子の発掘と遺伝改良を促進し、画期的な品種の育成を加速する。このことは、世界の食糧安全保障を確保する上で非常に役立つ。
中国でハイブリッドイネの研究に力が入れられたのは、まず第一に国の食糧安全保障という切実な問題があったからだ。十数億人の中国人の食の問題の解決は、袁劉平先生がハイブリッドイネの研究を始められた初心であり、生涯持ち続けられた使命感だった。
袁先生をはじめとする多くの研究者が、地に足をつけて土を耕した。彼らが残した最も尊い論文とは、「大地に生えるイネ」だ。だからこそ、中国のハイブリッドイネの技術は飛躍的に高まった。国もハイブリッドイネを非常に重視し、強力に支持した。
米国人の環境活動家であるレスター・ブラウン氏はかつて「だれが中国を食べさせるのか」と、中国の食糧問題に懸念を表明した。ハイブリッドイネは、ブラウン氏の懸念に対して、中国人科学者が示した解答だ。「中国人は自らが作った食べ物を自らの食器に盛る」――。このことは、中国の世界に向けた厳かな約束であり、同時に世界の食糧問題に対する貢献だ。
世界の食糧事情はまだまだ厳しい状態が続くだろう。われわれは、袁隆平先生が抱いた「ハイブリッドイネで世界をカバーする」という夢の実現に向け、そして世界の食糧事情を好転させるために、中国の知恵、中国の方法、中国の力で貢献する。(構成 / 如月隼人)
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