中国の伝統地方劇「晋劇」―名優が語る新たな時代における伝承と普及の努力とは

中国新聞社    2022年6月11日(土) 14時0分

拡大

中国には350種を超える伝統地方劇が存在する。しっかりと伝承したいし海外にも紹介したい。山西省に伝わる晋劇の場合には“地縁”の関係があり、関羽(写真)が登場する演目が海外への紹介では効果的という。

中国の伝統劇と言えば京劇が有名だ。日本の歌舞伎との大きな違いは役者が歌うことで、そのため「Beijing Opera(北京オペラ)」と紹介されることもある。また、中国には地方ごとに伝統劇が存在し、全国では350種以上にも上るとされる。山西省を代表する伝統劇が晋劇だ。関羽役などを演じる名優と知られる晋劇俳優の武凌雲氏はこのほど、中国メディアの取材に応じて、晋劇など中国の伝統劇の状況などについて説明した。以下は武氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■古い特徴を残すと同時に高い芸術性を獲得した山西省の「晋劇」

中国の伝統劇の基礎となったのは民謡や民間器楽、民間舞踊などの大衆芸能だ。それらを総合して芝居として演じるようになった。すると「もっとよい芝居にしたい」との意識による「芸術化」が発生した。晋劇の場合もそうのなのだが、各地の教養人も地元の伝統劇の改良に貢献してきた。なお、各地の伝統劇には、複数の名称が存在する場合が多かった。晋劇とは、中華人民共和国の時代、すなわち新中国になってから定められた統一名称だ。

中国北部の民間芸能は、荒々しさや豪快さという特徴がある。晋劇もそのような特徴があり、さらに人々の知恵や哲理を盛り込むことで芸術文化として結晶した。

中国の伝統劇にとって、音楽と台本の文学性は共に極めて重要だ。中国の民族音楽は、新中国になってから大きな改良が加えられた。楽器そのものも合理的な作りになり、新たな演奏法も多く加えられた。西洋音楽を参考に、過去よりも大人数での合奏も行われるようになった。晋劇の音楽も、本来の味を残しつつ進化を遂げることになった。

晋劇の舞台効果については、役者の衣装の色の鮮やかさや図案の複雑さにも特徴がある。晋劇で使う衣装には中国のより古い時代の舞台装束の特徴が残っており、芸術的な価値は高い。

■現代に生きる人々に知ってもらうには工夫と努力がまだ足りない

高い境地に達した晋劇だが、その伝承が安泰であるわけではない。と言うのは、社会は常に発展し、人々が多くの文化に接するようになったからだ。例えば漫画などに比べれば、晋劇は人々への普及において立ち遅れている。

また、晋劇の中国国外での認知度を高めようとしたら、動画配信は特に重要な手段だ。動画の場合には、カメラの切り替えによって演技の神髄をよりよく伝えることができる。一方で、観客は、カメラに切り取られた情景を表示する画面だけに頼って鑑賞するので、観客にもたらされる舞台の全体性や臨場感、観客の主体的な劇空間への参画感が大きく制限されてしまう。私の考えでは、ルートや方法の問題を含め、晋劇を海外に伝える仕事は、さまざまな面で遅れている。

中国の地方伝統劇は、その土地の言葉を使うのが基本だ。海外では標準中国語でも理解できる人が多くないのに、方言となると理解はなおさら困難だ。価値観の違いも障壁になる。中国人ならば感動する内容でも、海外の人が共感するとは限らないからだ。

晋劇を中国国外で評価してもらおうと考えるならば、晋劇の伝統的な特徴をしっかり残さねばならないのは当然として、観客側の美的感覚にも配慮するなどが必要だろう。字幕などに使う翻訳術の向上や、脚本の見直しなども必要だ。

■関羽を媒介に中国伝統劇を知り中国文化を知ってもらう

ただ、方法はある。例えば、海外でも知名度が高い歴史上の人物である関公(関羽)が登場する芝居だ。関公を演じることで表現する人としての品格は、共感してもらえるはずだ。もう一つ重要なことがある。関公の生地は現在の山西省だ。山西省で生まれた晋劇を知ってもらうために、山西省で人物が登場する作品を上演する。まさにぴったりではないか。

私の両親は二人とも晋劇の役者だ。私は8歳の時に芝居を学び始め、12歳で劇団入りした。役者として父の指導も受けた。父は常々、関公の品格を学び、関公のような人間になってこそ、舞台の上で生き生きとした関公が演じられると言っていた。

私は関公を演じ続けて、もう30年以上になった。だからこそ、関公を通じて晋劇の海外普及を促進していきたいと考える。私が初めて海外で関公を演じたのは2019年10月18日の、マレーシアのクアラルンプールで踏んだ舞台でだった。現地で行われた関公文化祭に伴う公演だった。

世界のどこでも中国系住民、すなわち華人は関公を知っており、深く尊敬している。2019年のクアラルンプールでの公演も大成功だったし、その後はベトナム、フィリピン、シンガポール、日本などでも私は関公を演じた。

今は感染症の影響で海外公演ができないが、オンラインで関公の芝居を発信している。なぜなら、関公の芝居を鑑賞したいとの希望が次々に寄せられるからだ。

海外への普及や浸透に努力している中国伝統劇は晋劇だけではない。例えば崑曲だ。崑曲の発祥の地は現在の江蘇省蘇州市内の崑山地区だ。ただし、崑曲は芸術性が極めて高まり、さまざまな場所に伝わり上演された。また、崑曲はさまざまな地方伝統劇の模範にもなった。だから崑曲を江蘇省だけに特有の劇と理解したのでは、少々違うことになる。

その崑曲の代表的演目の一つに「牡丹亭」がある。脚本家であり崑曲の保存と普及に力を入れている白先勇さんが練り直した「青春版・牡丹亭」は2006年に米カリフォルニア大学バークレー校で上演された。この公演は「米ロサンゼルスタイムズ」紙が「めったに見られない偉大な公演だった」と書いたように、現地メディアに高く評価された。

海外における中国の伝統劇の理解は、無理解から理解へ、部分的理解から全体的理解へ、観衆にとって奇異に思える部分から本質部分へ、そして与えられた「機会を利用して」という受動的な鑑賞から、自ら求めて鑑賞という能動的な受け入れと、進化している。我々としては、まだできていないことも多いが、成果は出てきている。海外の人に中国の伝統劇を知ってもらうことは、中国の伝統文化の全体像を理解してもらうことにつながる。これはさらに意義深いことだ。(構成 / 如月隼人

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携