中国新聞社 2022年6月14日(火) 20時30分
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文学作品を他の言語に翻訳するとは、どのような作業なのだろうか。原作品の価値は損なわれないのだろうか。外国人が中国の文学作品を読んだ場合、何を得ることができるのだろうか。
日本でも中国でも、近代化の必要から多くの外国の書物が自国語に訳された。文学作品も多かった。しかし日本も中国も世界から「重要な国」と見なされるようになると、日本語や中国語で書かれた多くの書物が外国語に翻訳されるようになった。ドイツの著名な中国学者であるマルティン・ベスラー氏は、中国近現代文学の多くの作品のドイツ語訳や英訳を手掛け、さらに古典の「紅楼夢」の初の完全なドイツ語訳を行うなど、中国作品の多くを世界に向けて紹介してきた。ベスラー氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、中国の文学作品の場合を中心に翻訳という仕事が持つ意味を説明した。以下はベスラー氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
■中国文学は歴史を通じて、常にレベルが高かった
中国文学は歴史を通じて高い水準を維持してきた。例えば「紅楼夢」や「阿Q正伝」は書かれた当時の最高佳作の文学作品の代表例と言ってよい。中国では1920年代に、世界のトップレベルの文学作品が登場した。その理由の一つは、中国人作家が世界の文学作品と盛んに接触したからだ。現在に至っても世界が知る価値がある作品は多い。
私が中国現代文学に魅了されたもう一つの理由は、作品中に地方の特色が存在することだ。例えば1952年生まれの賈平凹の作品には方言や故郷特有の地方の伝統などがふんだんに盛り込まれている。このような特徴を外国語に訳すのは難しいが、中国国外に広める価値はある。
中国現代文学は極めて多彩だ。魯迅(1991-1936年)は言文一致の文体、すなわち白話文の形成に大きく貢献した。当時、魯迅はノーベル文学賞の候補に挙げられなかったが、実際には魯迅作品のレベルはノーベル文学賞の評価基準よりも高い。魯迅の「阿Q正伝」「孔乙己」「狂人日記」などは、当時の世界文学の中でも最も進んだ作品だ。私は魯迅作品の一部を英訳した。英語版の魯迅全集を出版することは、私の大きな夢だ。
王蒙(1934年-)は、文学における意識の流れの実験的発展に大きな貢献をした。私は彼の作品の一部を翻訳した。また、韓少功(1953-)の「空院残月」や「怒目金剛」を翻訳では大いに楽しんだ。
■中国の文学作品を読めば「その時代の中国人の目線」を理解できる
中国の近現代文学は中国とその文化を理解する最も良い方式だ。作家は読者にその考えを理解させ、読者を彼らの考えに参加させる。読者は中国人の視点で中国を見ることができるようになる。
中国の近現代文学には、中国の古典文学と外国文学のぶつかり合いの火花が見られる。魯迅の「吶喊」を例にするならば、辛亥革命から五四運動期までの社会生活をリアルに描き、さまざまな深いレベルの矛盾を明らかにし、中国の旧制度や旧式の伝統観念を深く分析して批判した。読者は新しい角度から中国の近現代文化と時代の特徴を理解することができる。
より新しい時代について語るならば、中国では1980年代生まれの作家による「80後文学」などと呼ばれる文学が登場した。これは21世紀の初頭の中国における最も重要な文化現象だ。代表的作家の一人として1982年生まれの韓寒を挙げることができる。
■文学は翻訳されても価値を失わない、ただし訳者の高い能力が必要
文学作品を他の言語に翻訳すれば、本来の魅力を失うと言う人もいるが、これは偏見だと思う。ただし、翻訳者は作品を十分に理解し、鑑賞できなければならない。中国人が書いた作品だから中国人でなければ真の理解はできないと考えるのも偏見だ。成功した文学作品の翻訳の多くは、訳出先言語を母語とする翻訳者、つまり中国の作品ならば外国人、外国の作品ならば中国人が手掛けた仕事だ。
中国の古典文学作品の外国語訳と比べれば、現代中国作品の翻訳は、まだ“砂漠”のような状態だ。中国文学は国外で十分に知られていないために不当な扱いを受けている。
ドイツで読まれている非ドイツ語文学は文学全体の12.5%で、中国文学は文学全体のわずか0.3%だ。私が翻訳の仕事をする前は、毎年中国文学作品がドイツ語に翻訳されていた。私はドイツで若い中国文学の研究者たちを集めて翻訳ワークショップに参加させ、年平均10冊ほどの本を中国語からドイツ語に翻訳している。そのほとんどは文学作品だ。この活動を開始したのは10年ほど前で、中国語からドイツ語に翻訳される本の数はおおむね2倍になったことになる。
近代から現代にかけてさまざまな人が中国語から外国語へ、外国語から中国語への翻訳活動を行った。たとえば四書五経など中国の古典の多くを英語訳したジェームズ・レッグ(1815-1897年)はロンドン伝道協会の宣教師として香港に来た。
朱生豪(1912-1944年)は中国でシェイクスピア作品を比較的早く翻訳した人物の一人で、訳文の質と風格には非常に特色があり、国内外のシェイクスピア研究者に公認されている。文学者、考古学者、歴史学者、さらに政治家として極めて幅広い分野で活躍した郭沫若(1892-1978年)はゲーテ作品の最初期の中国語訳者の一人だ。
近現代の東西文学交流は中国文学の発展を促進しただけでなく、世界文学を豊かにした。西洋文学は種類が豊富で、中国人の読書に対して多くの選択肢を用意している。中国文学は西洋に、西洋とは異なる視野や体験をもたらす。ノーベル文学賞を受賞した莫言氏(1955年-)は多くの外国の古典を読んだ経験がある。莫氏はその上で、自分の郷土を舞台した多くの作品を書き、西洋の読者に中国を実感させた。
中国の文学作品が外国語に訳されることはますます多くなっている。読書界という市場が中国の作品を必要としているからこそ、中国作品の世界に対する影響力が増しているのだ。(構成 / 如月隼人)
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