中国の「人類を創造した女神伝説」―専門家がその位置づけを語る

中国新聞社    2022年9月16日(金) 12時30分

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中国神話の「女媧」は、人をつくり、さらに文化や礼制などを人々にもたらしたとされる女神だ。写真は 河北省邯鄲市渉県にある唐王山女媧廟。

世界のさまざまな民族の伝説や神話に女神が登場する。そして女神は特に古い神話などで、男神より重要な役割りを果たすことが珍しくない。例えば日本神話だったら天照大神が代表格だろう。中国の伝説神話には、人類を創造したとされる「女媧」が登場する。天水師範学院伏羲文化研究院執行院長の霍志軍教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、女媧の位置づけやその変遷などを紹介した。以下は霍教授言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■中華文明における極めて特殊な神の「母なる女媧」

人類にとって神話は、太古の社会の記憶であり知恵だ。中国の神話も同様だ。中国の神話は純真で素朴な特徴を保持しており、後には中国文学のテーマの一つにもなった。女神は古人の気まぐれなでっち上げではなく、現実の生活や労働に根差している。

中国の神話で、人類を創造したとされる女神が女媧だ。女媧は泥をこねて人をつくったとされる。同じく、人類が出現した時に存在した男神の伏羲の妹であり、伏羲と結婚したとされる。女媧はまた、楽器の「笙」などを作り、婚姻制度を整えたともされる。

原始時代の人々の生活は非常に厳しかった。人々にとって最も大切だったのは、子を産み育てて、次の世代の労働力を確保し、さらには子孫を残すことだった。女媧が「人をつくった」という物語には、生殖という人の行いについての当時の人々の想像と崇拝が反映されており、さらには祈りが込められている。「生殖を司る女神」に対する信仰は、世界のさまざまな民族に見られる。

女媧が「人をつくった」ということは、女媧が神でありながら、人との「仲介役」であったことも示す。つまり現実の世界と神秘の世界の仲介役だ。このような仲介役を果たす存在は、「英雄」ともみなされるものだ。

女媧は楽器を創造したことから、「音楽の女神」としてもあがめられることになった。そしてさまざまな礼制も定めたとされる。つまり人としての行いの規範を作った。そして一種の「万能の神」とみなされるようになった。人々は女媧を敬慕した。

女媧は「夢の女神」と形容されることがある。これには、人々が女媧を純潔さの象徴とも考えるようになったことも、影響している。中国の神話には、他にも多くの女神が登場する。西王母、嫦娥、麻姑、織女、媽祖などだ。しかし、女媧の地位は特別だ。なにしろ人類を創造した女神なのだから。

■女媧神話に反映されている、西洋とは異なる「中華文化」の発想

女媧にまつわる神話の舞台は極めて広い。北は東北平原、南は雲南高原、さらに北西部の辺境から南東部の沿海地域まで、中華の地のほとんどすべてで女媧の神話が伝えられている。神話がとりわけ多く伝わるのは黄河流域だ。

女媧崇拝の発祥地とされているのは、甘粛省天水市内の秦安県隴城鎮だ。この地には漢代(紀元前202-紀元220年)に創設された女媧の祠(ほこら)や、女媧が生まれた場所や生活した場所、葬られた場所とされる言い伝えがある。まさに女媧崇拝の聖地だ。この地では、旧暦の1月15日に、女媧の祭りが執り行われる。祭りは朝から夜まで続き、人々はさまざまなやり方で「人類の母」への思慕をあらわす。この祭りは2000年以上続いてきたとされる。

女媧神話は、世界で最も素晴らしい英雄物語の一つと言える。母としての献身や、さまざまな方法ですべての人に幸福をもたらしたこと、あらゆる面で大衆に尽くし、私利私欲なく人々のために貢献したことなどが語られている。

西洋の神話が語る女神、例えばギリシャ神話に登場する知恵や戦争の女神のアテナ、結婚と出産の女神であるヘラ、愛の神のアフロディテなどは、いずれも性格が異なり、それぞれ特定の分野で「神威」を発揮する。これは、自由と個人主義を重んじる西洋の発想に関係していると思う。一方で中国の女媧は、自らを犠牲にしてでも人々に恩恵をもたらした。これは中華民族の「集団に価値を置く」考え方を反映したものではないか。

■「男性社会」の出現で女媧の地位が低下、しかし現在は状況が改めて変化

伝説における中華民族の歴史的記憶は、女神から始まった。女媧の神話は、人類初期の母系社会に関係している。一方で、伏羲の神話は父系社会に関係する。初期の神話では「人類を創造したのは女媧だった」だが、次第に「伏羲と女媧が共同で人類を使った」に変化した。この変化は、中華民族が母系社会から父系社会へと移行していった過程を反映している。

中華社会ではその後、女性の社会的地位が低下した。男性は社会の生産や生活について、より多くの権利を独占した。その結果、人々は伏羲を重視するようになった。女媧はいわば、伏羲の脇役になった。神話における「女神の時代」は去ってしまった。

しかし、現代では女性が再び地位を取り戻した。社会の規範である法律にも男女平等が明記されている。現代に生きるわれわれにとって女神とは、「優秀な女性の総称」と理解することができる。そして女性の価値を肯定してこそ、社会は調和を保ちながら発展できる。その意味で「女神の文化」は復権したといってよい。現代において、女性の地位の高さは社会文明の進歩を測るバロメーターとも言える。

文化とは、絶えず建設されねばならないものだ。われわれは、新たな時代の社会の発展に役立つ要素を「女媧文化」の中から取り出すべきだ。まずは、「女媧文化」の精神要素と今日の社会を融合させる。さらに「女媧文化」を、これからの文化を建設し中華文明のルーツを探る上で参考に、そして道しるべにせねばならない。(構成 / 如月隼人



※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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