ディズニーが繰り返し取り上げたムーラン、なぜ海外で注目されるのか―専門家が状況紹介

中国新聞社    2022年9月26日(月) 22時30分

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「木蘭(ムーラン)」は世界的に最もよく知られる中国の物語だ。写真は2020年公開の米ディズニー映画「ムーラン」のポスター。セルビアの首都ベオグラード市内で撮影。

「ムーラン」という言葉から、何が連想されるだろうか。2020年のディズニー映画「ムーラン」を思い浮かべる方が多いかもしれない。同作品は1998年のアニメ版「ムーラン」のリメイク作品なので、アニメ版をまず思い浮かべる人も多いだろう。両作品が下敷きにしたのは、「花木蘭(ホア・ムーラン)」などと呼ばれる中国の物語だ。「花木蘭」は中国で多くの文芸作品の土台になった。そして、木蘭の関連文化を収集整理し、木蘭文化博物館の創設も手掛けた葉蔚璋氏によると、ディズニーが木蘭を取り上げたことは偶然ではないという。葉氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、木蘭にまつわる中国内外の状況を紹介した。以下は葉氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■長い歴史を通じて膨らみ続けた物語、女性を鼓舞する役割も果たした

木蘭は、老いて病弱な父に代わって男装して従軍した娘の木蘭が、自軍を勝利に導く物語だ。木蘭が実在の人物かどうかは不明だ。しかし木蘭についての最も古い記述は、南北朝時代(439-589年)の叙事詩である「木蘭詩」だ。この作品は「古詩大観」という詩集に収められた。また、唐代(618-907年)の李冗が記した「木蘭従軍」は、木蘭を「古人」と説明している。当時すでに、木蘭の伝承が非常に古い物語と見なされていたことが分かる。

私は木蘭が実在したか架空の人物であるかの議論について、歴史家の范文瀾さんの意見に共感する。「老父に代わって従軍した娘がいたかもしれない。民間ではこの英雄的な娘を称賛し、物語は次第に大きく膨らんでいった。文学的な味付けも追加された。だから、木蘭という娘が実在して物語のような状況があったかどうかを考証する必要はない」との主張だ。

実際に、最初の「木蘭詩」はわずか400字足らずだが、発表された直後から、木蘭のイメージを膨らませ、物語を充実させる動きが進み、多くの作品が登場した。

木蘭の物語が人々に受け入れられたのは、最初の「木蘭詩」の段階から、木蘭の忠孝兼備で勇猛果敢などの性格により、英雄的な女性像が確立されていたからだ。特に「老父に代わって従軍」という「孝」の要素は、人々の価値観に合致した。その後に追加されていった物語では、木蘭が軍功の恩賞として高い地位を与えられることを辞退して、故郷に戻って両親に仕えたと脚色された。「忠」を尽くした上で、「節」や「孝」といった徳も加えられたわけだ。

木蘭は当初、「姓」についての記述がなかったが、明代に書かれた伝統劇では「花木蘭」とされた。このため「花木蘭」の名で呼ばれることも増えた。現在もしばしば上演される木蘭関連の演目としては、京劇の「木蘭従軍」や、河南省などで盛んな豫劇の「花木蘭」がある。ディズニー作品の「ムーラン」は、特に豫劇の「花木蘭」に注目したようだ。木蘭の物語はさらに、映画やテレビドラマでも取り上げられるようになった。

木蘭の物語でもう一つ重要なのは、女性の意識の覚醒が明記されていることだ。最初の「木蘭詩」でも「2匹のウサギが並走しているのと同じこと。私の雄雌を弁別することができようか」といった具合に書かれている。豫劇の「花木蘭」には「誰が女は男に及ばないと言うのか」という台詞がある。女性の働きや能力を認める木蘭の物語は、時代時代の女性を鼓舞し、激励してきた。

■清代には米国にも伝わった、日本では注釈付きの原文が読まれた

ディズニーは偶然に、木蘭を取り上げたのではない。私の考証によると、米国への木蘭文化の伝播は、少なくとも清朝(1168-1912年)にまでさかのぼることができる。官立の外国語学校だった「京師同文館」で教師をつとめた米国人宣教師のW.A.P.マーチンは1881年に、「木蘭詩」を英文詩に訳した。この訳詞は米国で出版され、何度も重版された。

中国の話劇(新劇)の先駆者となった洪深や張彭春らは、ハーバード大学に留学中の1921年、英語の舞台劇に仕立てた「木蘭従軍」を上演した。このように、木蘭は100年以上も前から、米国に広まった中国の物語だった。

日本には木蘭の物語がさらに早く伝わった。例えば1829年に日本で出版された「古詩大観」には、「木蘭詩」が収められている。しかも本文全文だけでなく、細かい注釈が添えられている。

近代日本の著名な画家だった橋本関由紀は1918年に、故郷に帰った木蘭が林間で休息する様子を描いた「木蘭」を発表した。2012年には、日中合作で制作されたミュージカルの「木蘭 ムーラン」が、日中両国それぞれで上演された。

■人類共通のテーマを扱うからこそ木蘭の物語は外国でも受け入れられる

木蘭の物語には英雄主義、勇敢な精神、祖国愛、戦争と平和など、人類全体にとって永遠のテーマが含まれている。したがって外国人にとっても木蘭の物語は受け入れやすく、理解しやすい。もちろん、各国で作られた木蘭関連の作品には、人物像の作り方や価値観の掘り起こし方に違いがある。しかし木蘭の物語は総じて、世界に対して中国文化を探求する窓口を提供したと言える。

私は、テーマが鮮明で民族融和性の強い優れた伝統文化であれば、世界の人々の共感を呼ぶと考えている。木蘭はすでに、中国における国家と民族の集団記憶であるだけでなく、中国内外に向けての中国文化のシンボルにもなっている。

木蘭伝説は2008年6月に、国家級無形文化遺産リストに登録された。人類共有の文化遺産として、われわれは核心的な文化的要素をしっかりと保護した上で、さまざまな文化芸術として関連作品を普及させ、伝えていく責任がある。新時代における木蘭文化の価値を掘り起こし、その革新と伝承を継続させることが、今後の努力の方向であるはずだ。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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