八牧浩行 2022年9月29日(木) 14時30分
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1972年9月に日中両国が国交を正常化して、50年になる。日中両国は激動の時代を迎えているが、経済的な協調と軍拡抑制の道を具体化する必要があろう。29日、都内で経団連などの共催による式典が開かれた。
1972年9月29日に日中両国が国交を正常化して50年になる。半世紀前、中国は戦後賠償を放棄し、日本は中国の経済成長を支援した。以来日中経済関係は急激に拡大。中国は日本にとって最大の貿易相手国となり、両国を行き来する人はコロナ前には年間1000万人を超えた。日中両国は激動の時代を迎えているが、経済的な協調と軍拡抑制の道を具体化する必要があろう。
◆35年前の北京取材を想起
私は1987年9月、日中経済協会の中国訪問団(団長=斎藤英四郎経団連会長)の随行記者として中国入りし、中国産業界要人や中国人民銀行(中央銀行)首脳などを取材、知られざる中国経済の実態を記事にした。
北京天安門の人民大会堂の応接室で、2カ月後の首相就任が内定したばかりの李鵬氏に抱負と政策方針を取材することもできた。同氏は「日本と中国の経済交流の必要性」を何度も強調。最後に固く握手した手は温かく、日本への期待の大きさが伝わってきた。
その後も日中間は蜜月が続き、残留孤児を主人公に描いた小説「大地の子」(山崎豊子著)のNHKドラマが視聴者の感涙を誘ったのは記憶に新しい。日本と中国は、貿易が急拡大し、日本企業の工場進出ブームが到来するなど切っても切れない関係となった。
さまざまな日中交流組織ができた。経済専門家や政策担当者が経済運営、産業構造改革、日中経済協力などについて討議する日中経済知識交流会もその一つ。日中経済知識交流会の創立30周年記念誌「志」(2011年発刊)に温家宝・中国首相が「世界的にも重要な経済国として、お互い重要なパートナーである日中両国はチャンスを逃さず、協力しながら共に発展していくべきだ」とのメッセージを寄せている。
◆経済界が結んだ信頼関係
私も参加した前述の中国訪問団も含め多くの海外経済ミッションで同道した関澤秀哲・元新日本製鉄副社長(元中央労働災害防止協会理事長)は、日中国交回復前の1957年以来の同社と中国の関係について詳述。稲山嘉寛氏(元新日鉄社長)はじめ新日鉄の経営幹部が1958年、周囲の反対を押し切って訪中し、周恩来首相と会談、その後の宝山製鉄所建設プロジェクトなど経済協力に繋げたという。1978年10月に来日したトウ小平氏が、新日鉄君津製鉄所を視察。その際接遇した関澤氏はトウ小平氏が「今日は休みですか?」と問いかけ、工員が目立たない近代的工場ぶりに驚いていたことを覚えている。
同社をはじめとする多くの日本企業や団体は、その後も一貫して交流促進に尽力し、中国側との揺るぎない信頼関係を築いた。以来中国への取材旅行は10回を数えるが、行くたびに急発展ぶりに驚愕する。
◆中国の世界GDPシェアは33年で9倍に
IMF統計によると、世界全体に占める中国国内総生産(GDP)シェアは1988年にわずか2%だったが、2021年には9倍の18%に達した。この間に米国は28%から24%に、日本は16%から5%に縮小している。中国の貿易総額は199倍に。1人当たりの可処分所得も152倍に達した。IMFによると、2014年に、実態に近い購買力平価(PPP)で米国を追い抜き、世界1位に。消費市場規模でも人口14憶人を背景に米国を抜いた。
世界銀行は名目GDPでも2030年までに拮抗すると予想。消費市場としても実質世界一であり、多くの国にとって貿易相手国のトップを占める。米国、欧州、韓国、東南アジア諸国なども中国のパワーを無視できない。中国の改革開放以来の驚異的な急成長を前に、シンガポール、ベトナム、フィリピン、カンボジアなどのほか、アフリカ、中南米諸国でも中国型の強権的国家モデルを目指す開発途上国が増加している。
日本の貿易総額の相手国別のシェア(2021年)を見ても、中国(香港・マカオ含む)は30年前の4倍の25%に達している。中国に進出している日本企業は2万社以上。日本人約20万人が中国で働き、中国は日本企業にとって重要な収益源となっている。
◆対中デカップリングは起きず
中国に進出している世界多国籍企業を対象とした調査結果(2021年)によると、大半が中国市場の巨大さと成長性に着目。中国ビジネスを「1年以内に拡大する」「2~3年以内に拡大する」が合わせて59%を占め、「現状維持」は32%、「未定」は9%にとどまっているという。米中対立の中でも米中両国の貿易量は伸びており、対中デカップリング(切り離し)現象は起きていない。
人工知能(AI)やロボット、フィンテック(金融技術)、情報技術(IT)など次世代産業を左右するビッグデータ分野やバイオ、宇宙、量子科学、原子力利用、次世代モビリティ、健康分野で、中国の発展は飛躍的だ。
こうした中、経団連の十倉雅和会長と中国の李克強首相が9月22日にオンラインで会談。貿易や投資、金融分野などで日中の経済連携を強化することで一致した。十倉氏は「ハイレベルな対話交流で相互理解を深めていくことは共通する課題解決への協力を拡大させる」と述べ、日中首脳会談の実現を呼びかけた。
会談では今年1月に発効した東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に基づく貿易促進や中国の金融規制緩和、高齢化社会の課題解決に向けた協力などを進めることを確認した。十倉会長は、日本と中国は極めて重要なパートナーであり、日中両国を取り巻く国際情勢が不安定さ、複雑さを増している時だけに両国間の交流や意思疎通が重要であると訴え、李克強首相も「共通の目標は両国の関係を安定させることで、それは世界の平和に資することだ」と呼応した。
◆「人類運命共同体」「永遠の不戦」目指せ
日本は明治維新になってから、日清、日露、日中・太平洋戦争と1945年の第2次世界大戦敗戦まで約9年間に1度戦争していた計算。そして戦後73年、主要国で日本だけが戦争をしなかった。戦後の平和は貴重である。日米同盟を基軸としながらも、強固な経済相互依存関係にある中国と連携し「永遠の不戦」を目指すべきである。
一方、中国は文字通り「世界のリーダー」に躍り出た今、習近平主席が提唱する「人類運命共同体」の理念をさらに進化させ、軍拡より経済を通じた世界貢献を追求するべきである。
日中韓とオーストラリア、ニュージーランド、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の合計15カ国が加盟する地域的包括的経済連携(RCEP)協定が今年1月に発効した。世界最大の多国間自由貿易圏協定(FTA)で、日本が中国、韓国との間で締結する初めての協定となる。関税削減や統一ルールにより自由貿易を推進する枠組みで、低潜在成長率に陥っている日本にとって貴重な「追い風」になると期待されている。
日中両国は国交正常化交渉や戦略的互恵関係文書などで実質合意している(1)尖閣諸島問題の棚上げの継続(2)東シナ海の共同開発―などを推進する必要がある。経団連や各種団体による民間交流のさらに活発化させるほか、首脳同士の対話も不可欠である。経済的な協調と軍拡抑制の道を具体化すべきだ。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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