Record China 2022年10月18日(火) 10時30分
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日中国交正常化50周年記念フォーラムが開催された。日中関係の在り方や平和と経済発展の方策などについて、両国の学識経験者らが討議した。東アジアでもEUのような多国間連携が必要との意見が提示された。
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2022年10月15日、日本華人教授会議主催の「日中国交正常化50周年記念フォーラム」が東京・三田の慶応大で開催された。ウクライナ危機をはじめ、米中関係の悪化など世界情勢が不安定な中、今年で日中国交正常化50周年を迎えたのを機に、日中両国の実態や日中関係の在り方、平和と経済発展の方策などについて両国の学識経験者らが討議した。東アジアでもEU(欧州連合)のような多国間連携が必要との意見が提示された。両国の約400人がリモートとリアルで出席、日本政治法律学会が共催しNPO中日学術交流センターが協賛した。
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日中国交正常化50周年記念フォーラムは冒頭、熊達雲会長(山梨学院大学特任教授)が挨拶、楊宇駐日中国臨時代理大使、垂秀夫駐中国日本特命全権大使が講演(代読)した。
セッションでは、朱建栄東洋学園大学教授、程子学会津大学教授・前副学長、杜進拓殖大教授らのコーディネートの下、日中の教授らが研究成果や主張を交わした。
◆「変化」を直視し、「ボトムライン」設定を
川島真東京大教授は「変わったもの・変わらないもの:50年の日中関係を振り返る」と題して報告。「1972年の国交正常化以来の協調時代を経て日中両国を取り巻く情勢が変化し、特に2010年代以降、合意形成が難しくなってきた」と分析。50年前の原点に立ち返り、戦略的互恵関係文書など日中両国で締結した4つの合意文書を踏まえて国内政治、経済、世界と東アジアの国際関係などについて、再確認すべきだと訴えた。
その上で、50年前に比べ日中共に中央(首相官邸や共産党)に権力が集まっているが、対話が滞っていると指摘。「中国は巨大化し経済安全保障の概念が出てきて政経分離も難しくなっている」と強調した。前提が大きく変化したため、これに対応して新たな現実を直視すべきであるとし、台湾、領土、歴史などの懸案問題について継続して解決に導く方策を模索する必要があると提唱。衝突しないための「ボトムライン(最低線)」の設定と首脳間をはじめあらゆるレベルでの対話を求めた。
◆アジア版「エラスムス計画」枠組みを
白鳥浩法政大教授は「地域志向の東アジアへ向けて:第二次冷戦を超えて」をテーマに報告。世界はコロナ感染とウクライナ戦争で「分断の時代」を迎えていると分析。今年は日中国交回復と沖縄返還から50周年で意義深い年だが、どう乗り越えていくか課題が山積していると懸念した。日本と中国は地政学的に引っ越すことができない関係であり、東アジアでも日米、日中、日韓など2国間の「線」から欧州のような「面」の関係に発展させるべきである提唱した。「EU統合」が手本になるとし、アジアにおける多国間の連携の必要だと訴えた。「EUのような共通体験をどう作っていくか。アジア版「エラスムス計画」(EU主導による高等教育運営の枠組み)をつくるべきだ」とも語った。
その場合、自由貿易の堅持が必須であり、その場合、RCEP(包括的経済連携協定)、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)、「一帯一路」が中心になると位置付けた。TPPは東に進みむ一方で一帯一路は西へ進展しており、相互補完的であるとし、RCEPが共通キャップとして機能すると構想した。米国主導で進められているIPEF(インド太平洋経済枠組み)は不透明で分裂を深めると懸念した。地域の信頼醸成が最も重要であり、国益だけでなく地域益を考えるべきで、コロナ後の「第二次開国時代」への取り組みが重要と提唱した。
◆最大の財産は戦後の「和解」
劉傑早稲田大教授は「回顧と展望:50年の日中関係が創出したもの」と題して報告。「日中間では多くを創り出してきており、共有できる公共財を残した」と指摘。日清修好条約から150年が経過、最近50年は最も平和な期間と位置付けた。最大の財産は戦争を乗り越えた和解であり、世界に誇ることができると語った。
さらに負の遺産をポジティブに転換することが重要だとし、戦略的で知的レベルの和解、中国の改革開放を成功させた日本の協力が特筆されると指摘した。大平正芳元首相が「豊かな中国が世界の繁栄につながる」と語ったのは重要であり、トウ小平氏の「遅れていることを認識しすべての先進国から学ばなければならない」との言葉も尊重すべきだと述べた。日中は相互依存と災害時の助け合いが重要で、留学生や研修生などのネットワークをさらに広げるよう提唱した。
◆「日中の富士・泰山コンファレンス」を提唱
川勝平太静岡県知事(元静岡文化芸術大学長)は平和をつくる人材育成を目的とした「日中の富士・泰山コンファレンス」を提唱した。報告内容の要旨は以下である。
(1) 平和への道=
世界には今日のウクライナ戦争など紛争が絶えない。20世紀には2度の世界大戦があった。第二次大戦の終結後、不戦を確保するためにユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が創設され、教育科学文化の振興を促しているユネスコ憲章は人間の心に「平和の砦」を築くことを求めている。
(2) オリンピックの精神=
オリンピック憲章はスポーツ文化教育の融合を謳いあげている。
不戦の意志を共有し、「富士山の持つ平和、調和文化芸術」の源泉としての普遍的な価値に立脚することが重要。「日中の富士・泰山コンファレンス」を立ち上げ、定期的に日中の霊峰のふもとに集い、叡智を結集し東アジアに平和と調和を築き、広く国際社会に貢献したい。最大の目的は平和を担う「有徳の士」の掘り起しである。
◆懸念は米国デカップリングと中国の「ステルス経済制裁」
丸川知雄東京大教授は「日中経済関係:過去50年と今後の30年」をテーマに報告した。1970年代の中国にとって貿易総額に占める日本との貿易総額は25.7%を占め、日本は鋼材、化学肥料などの基礎的な工業製品や機械設備を提供、貴重なパートナーだった。一方日本にとって中国は貿易額のわずか3.3%に過ぎなかったという。80年代に入ると、日本は中国の家電産業の発展に貢献。生産ラインの輸出、基幹部品の現地生産などで協力した。2001年に中国のWTO加盟が実現すると、日本では「中国は世界の工場」と評価、生産拠点になったと指摘した。
中国は中所得時代を駆け抜け産業競争力が向上、2021年には一人当たりGDPでタイ、レーシアを抜いた。21年のアジアにおける一人当たりGDPはシンガポール、香港、日本、韓国、台湾、中国の順で、中国の製造業付加価値は2002年に日本、2010年に米国を抜いて世界一に。文字通り「世界の工場」となったという。
同教授は楽観できない動きとして、米国からの対中デカップリング(切り離し)圧力と2018年に発生した重要インフラからの中国製品排除の動きを挙げた。一方で中国のステルス(非公式)経済制裁は、対韓、対豪州、対台湾で発動され、懸念材料となるという。「日本が次のターゲットにならないようにするためには、中国にとって日本の重要性を高めることが必要だ」と強調した。さらに日本は円安更新にもかかわらず輸出増に繋がっておらず貿易赤字が拡大。再生可能エネルギーを拡大する一方、重要な基幹産業に外国人労働者を増やす必要があると語った。
このほか、魯雲千葉大学教授が「次世代新材料の研究開発と人材育成」、任向実高知工科大学教授が「Human engaged computingの視点から見た未来型人材」、馬欣欣法政大学教授が「人的資本の開発と福祉」、金堅敏富士通チーフデジタルエコノミストが「イノベーションのパラダイムシフト:DX、GX、そしてSXへ向けて」と題してそれぞれ報告した。
島田敏男NHK文化研究所研究主幹(元NHK解説副委員長)が「まとめ」として報告。2007年に日中ジャーナリスト交流で副首相時代の習近平氏を取材した際の印象について「柔和だが厳しい目をしていた」などと語った。その上で「ロシアのウクライナ侵攻はやりすぎだと(プーチン大統領にモノ申し停戦実現のために)コントロールしてもらいたい。停戦を仲裁したら国際社会の中国に対する見方が変わる」とし、習氏のイニシャティブに期待した。
最後に、段瑞聡慶応大教授が日本華人教授会議の新任代表として閉会の挨拶。「改革開放以来、我々中国の留学生を日本が受け入れ支援してくれた。かつて魯迅は日本留学時に藤野先生に世話になったが、我々それぞれに指導してくださった『藤野先生』がいる」と感謝した。(八牧浩行)
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