松野豊 2022年11月16日(水) 5時0分
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中国が今後も経済成長を続けていくためには、成長を牽引する新たなエンジンが必要な状況だ。その候補の一つがカーボンニュートラル戦略だろう。写真は北京。
中国は、直面する課題群に対応していくために、何よりも継続的な経済成長が不可欠である。中国のこれまでの経済成長は、主に貿易黒字と総固定資本形成が担ってきており、民間個人消費も一定の貢献をしてきた。しかし今後も経済成長を続けていくためには、成長を牽引する新たなエンジンが必要な状況だ。
その候補の一つがカーボンニュートラル戦略であろう。当該領域への重点的な投資により国際的な産業競争力を高め、これを次の経済成長のエンジンにしていくことを目論んでいる。中国は、2020年の国連総会においていわゆる「双碳」(2030年に排出量をピーク化、2060年にカーボンニュートラル化)を世界に宣言した。
2019年にスペイン・マドリードで開催されたCOP25(気候変動枠組条約第25回締約国会議)と、2021年に英国・グラスゴーで開催されたCOP26(同第26回会議)は、地球温暖化による平均気温上昇を産業革命前より2度未満(可能なら1.5度)に抑えるという一連の合意がなされた画期的な会議である。
これらの会議に向けて各国は、2030年までの具体的なCO2削減目標を提出している。中国は2020年の双碳宣言の前には、「2030年の単位GDP当たりのCO2排出量を2005年比で60~65%削減する」と約束していた。そのため国家の基本計画である第14次五か年計画で示されている数値目標の中には、単位GDP当たりの排出量削減率という指標がある。
これで各国の削減目標値がほぼ出揃った。地球の温度上昇を1.5~2度未満にするためには、2030年の排出量(中間目標値)を2013年比で46%に低減しなければならない。筆者は主要排出国が提出した削減目標値をもとに、世界の2030年におけるCO2排出量を積算してみた。
その結果、各国のCO2排出量削減目標値を積み上げても、2030年の中間目標値にまで削減できず約53%の超過になりそうであることがわかった。各国は今後、さらに排出量の削減量を上積みしていかなければならない。
ところで主要国の目標値はどこも総排出量の削減率で示されているが、中国とインドだけは「単位GDP当りの排出量」の削減率が設定目標になっている。つまり中国やインドの場合は、2030年ごろまでは国の総排出総量はまだ増加させてもらうということなのだ。
図1は、主要排出国の単位GDP当たりCO2排出量の推移を示したものである。排出量の多い中国とインドの数値はまだまだ高く、2030年に向けて米独日のレベルにまで低減させていかなければならない。このためには相当な技術革新などが必要になるだろう。
また中国の双碳宣言では、2030年までに排出量がピークに達してその後減少に向かうことになっている。しかし筆者が最新のデータを使って試算してみたところ、2030年までのピーク化は容易ではなさそうだ。図2に中国のCO2総排出量の予測値を示した。(筆者の試算であるため、公式資料とは少し数値は異なる)。
2020年の新型コロナ感染拡大、2021年の世界の物価上昇などの外乱要因があったため、特にここ2年は排出量削減があまり進んでいない。そのためか図2に示したように、計算上は2030年までの排出量ピーク化はみられない(経済成長率5%の場合)。もし2020と2021年の値が平常値だったら、計算上は確かに2030年より前にピークアウトする。
また中国が総排出量のピーク化を推計したとき、その前提となる経済成長率の設定値についても注意が必要だ。図2には経済成長率による総排出量の違いも示した。最近の五か年計画の資料などを見ると、中国政府は今後の経済成長率として5~6%を見込んでいると思われるので、図2の赤い線が当面のターゲットだろう。
図2では、もうひとつ重要な視点が読み取れる。もし中国の景気が回復し7%の経済成長率になれば、CO2の総排出量はピークアウトどころか大きく増加してしまう。また逆に成長率が3%程度にまで下がると、総排出量のピークはもっと早く達成できるだろう。このように、中国では経済成長とCO2排出量削減は一種のトレードオフの関係にあるため、両立は容易ではないことがわかる。
中国には、経済成長を犠牲にしてまでCO2排出量を減少させるという選択肢はないだろう。一方で、地球全体の温暖化防止に対する中国の責任はとても大きい。2030年の中間目標値の場合でいえば、他国が目標以上にCO2排出量を削減できたとしても、中国一国が目標達成をしなければ全世界の中間目標値の達成はおぼつかないのである。
中国がカーボンニュートラル戦略の推進で総排出量を削減して温暖化防止に貢献するとともに、同時にこれを経済成長のエンジンにしていこうとするなら、さらなる構造改革と政策措置が必要になる。次稿以降では、この点について考察してみたい。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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