中国のカーボンニュートラルは経済成長と両立するのか(2)CO2の排出をもたらす要因

松野豊    2022年12月16日(金) 6時0分

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中国はどのようなCO2削減手法をレベルアップさせていけばよいのだろうか。

前稿では、中国のCO2排出量と経済成長がいわばトレードオフの関係にあることを示した。つまり一定の経済成長を続けつつ、CO2排出量の削減目標を達成することは容易なことではない。

筆者の試算によれば、中国の国際公約である「2030年までにCO2排出量をピークアウトさせる」ためには、今後の経済成長率の上限は5%程度ということになる。ただしこれは、現在のCO2排出量削減手法を前提にしている。もし近い将来、CO2削減技術がより進歩するとするなら、5%以上の経済成長も許されることになる。

では中国はどのような削減手法をレベルアップさせていけばよいのだろうか。ここではCO2の排出をもたらしている要因を分析するために、「茅恒等式」を援用してみる。これは東京大学の茅陽一名誉教授がIPCC(気候変動に関する政府間パネル)に提示したもので、以下のような構造になっている。

CO2排出量=「経済成長」×「産業構造」×「排出強度」×「エネルギー消費原単位」

(注:大連理工大学の寧亜東教授が一部修正したもの)

ここでは式の詳細な説明は省くが、式の右辺にある変数がCO2排出量の増加や減少に関係する要因である。寧亜東教授が2016年に当時の最新データを用いてCO2排出量を試算したところによれば、2001~2013年におけるCO2排出量の最大の増加要因は「経済成長」であり、最大の減少要因は「エネルギー消費原単位」であった(「中国におけるCO2排出特徴の要因分析」、寧亜東、社会科学論集、2016.8)。

つまりエネルギー消費原単位(単位GDP当たりのエネルギー消費量)の削減率を高めていけば、経済成長によるCO2排出量増加分を相殺することができる。中国がこのエネルギー消費原単位の削減率を五か年計画のKPI(定量目標値)にしてきたのは、これが直接的にCO2排出量の制御に有効だからであろう。

しかし中国の統計データで試算してみると、中国では近年、エネルギー消費原単位の削減率は低下しつつある。つまりこれまでの省エネ技術に新たなブレイクスルーが必要になってきているということである。

では、今後CO2排出量を制御していくためには、どのような手法が有効になのだろうか?ここで上述の茅恒等式における2番目の「産業構造」と3番目の「排出強度」の2つの変数に注目してみよう。

「産業構造」という変数は、産業全体における第2次産業の比率のことである。第2次産業の比率を下げる、すなわち経済のサービス化を進めていけばCO2排出量の抑制が可能になる。しかし残念ながら、中国は現在でも世界の工場としての製造業を重視しており、第2次産業の比率は今後も下げられないのが現状であろう。

もうひとつの変数、「排出強度」についてはどうであろうか。この変数では、各産業活動で使用するエネルギーの種類ごとに排出量を計算するので、使用するエネルギー種類を変えればCO2排出量の抑制は可能になる。例えば発電所や工場での石炭使用を減らしてこれらを再生エネルギーに転換していけば、CO2排出量を抑制することができる。

以上を概括すると、中国が今後も一定の経済成長を続け、その中でCO2排出量の削減も進めていくためには、製造業の生産プロセスにおける省エネルギー化や使用エネルギー転換を進めていく必要がある。

また同じ製造業の中でも、よりCO2排出量の少ない産業への構造転換も進めていかなければならないだろう。例えば重化学工業から知識産業、データ産業などへの転換である。

中国は発電部門を除けば、現在でも製造業の重化学工業部門がCO2排出量の過半を占めている。中国のカーボンニュートラル政策と聞けば、新エネルギー開発や電気自動車の普及といったテーマが大きく取り上げられることが多いが、産業全体のCO2排出量削減においては、既存製造業のさらなる省エネルギー化、生産プロセスの改善といった地道な改革が鍵となることを肝に銘じておく必要がある。

■筆者プロフィール:松野豊

大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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