高野悠介 2023年2月8日(水) 6時30分
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TikTokショップの世界展開と新勢力「東方甄選」の台頭を取り上げ、2023年のオンライン通販とライブコマース界を占ってみよう。
中国のライブコマース(直播電商)の産業化はアリババの「淘宝直播」に始まる。その後、ショートビデオ投稿、シェアアプリが加わり、淘宝、TikTok(中国版は抖音)、快手の3強体制が形成された。それがここへきて、新しい潮流がいくつも芽を出し始めた。その中からTikTokショップの世界展開と新勢力「東方甄選」の台頭を取り上げ、2023年のオンライン通販とライブコマース界を占ってみよう。
中国ライブコマースの歴史は2016年に始まり、まだたった7年しかない。ただしその前段として、インフルエンサーや「網紅」と呼ばれる有名ライブ配信者(以下ライバー)が独自に活動していた。それが淘宝直播のスタートを契機として急速に組織化が進み、爆発的成長を遂げた。この間、プラットフォーム、超人気ライバー、MCN(multi-channel networ=ユーザー生成コンテンツ作成者支援機構)などが瞬く間に増殖していった。
そして中国ではネット通販からSNS、ニュースサイトなど、どこにでも動画が付くようになる。当初、抖音や快手などのショートビデオアプリはそれらへの添付動画の作成を担っていた。それが2018年ごろから、自らライブコマースの運営に関わり始める。先行したのは快手だった。自社プラットフォーム内でオンライン取引を完結させたのだ。そして淘宝直播から微婭と李佳[王奇]、快手から辛巴という超人気ライバーが出現する。抖音はそれを追いかける形になった。
抖音(TikTok)の「電商」が本格化したのは2020年だ。同年4月にコロナ禍のロックダウンに苦しむ武漢市、湖北省当局や商務部と協力し、「抖音援湖北復興計画」をスタートした。100のライブ放送室を設置し、湖北産品の販促、生産再開をサポートした。同年6月に正式に電商部門を設立し、11月に独自の独身の日セールを開催した。2021年からは「全民好書計画」「富知計画」「富域計画」「富芸計画」など、文化的、社会的価値にフォーカスしたプロジェクトを連発していく。
さらに同年4月には「興趣電商」なる概念を発表した。興趣電商とは、ユーザーの潜在的ニーズを満たす新しい商品やサービスを、抖音プラットフォームを通して“発見”し、提案するツールだ。購入履歴だけではなく、ビデオ投稿や視聴の履歴、検索などのあらゆる履歴からさまざまなユーザーニーズへ対応する。
翌2022年6月、抖音のトップは、多様な分野の相互接続により、すべてのニーズに対応できる段階に入ったと自信を見せた。
TikTokショップは2021年にインドネシアと英国に進出した。翌2022年にはベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポールで業務をスタートし、11月には世界最大のユーザー数を持つ米国でテストを開始した。
ベトナムのネット通販市場には、Shopee(テンセント系)、Lazada(アリババ系)、TikiやSendo(ローカル系)などがある。しかしTikTokショップの浸透ぶりはすさまじい。2022年11月の売り上げは1兆6860億ベトナムドン(約95億円)で、32万の売り手が1300万点の商品を販売した。これはLazadaの80%、Tikiの4倍相当という。
オンライン教育企業は繁栄を極めたが、2021年7月の「双減政策」により暗転した。各社は義務教育段階の補習サービスの停止に追い込まれた。その結果、最大手の「新東方在線」は2022年5月期決算(2021年6月~2022年5月)で、売り上げは前年比36.7%減の8 億9900万元、利益は5億3400万元の欠損、前年比67.6%増と大きく落ち込んだ。しかし、ライブコマース部門の売り上げは2460万元を計上している。変わり身が早く、2021年12月にはライブコマースプラットフォーム「東方甄選」を立ち上げた。
それが2022年下半期以降にゾーンに入ってきた。同年6月に元人気英語講師の菫宇輝氏による、英語フレーズを繰り返しつつ行う中英2カ国語ライブが大きな話題を呼ぶ。SNSで拡散され、中国中央テレビ(CCTV)のインタビューも受けた。これをきっかけに大ブレークし、ライブコマースに新しい要素を加えたと評価された。
そして同社の2023年上半期(2022年6月~11月)決算は、売り上げが20億8000万元、利益が5億8500万元と大きく改善した。ライブコマースのGMVは48億元(約930億円)に達した。そのうち抖音プラットフォームを経由した分も17億6580万元あり、両者は良好な関係にある。そして新東方在線は1月の取締役会で社名を「新東方甄選」に変更した。成長戦略の要として、ライブコマースを選択したのだ。
TikTokショップと東方甄選の成長スピードはすさまじい。TikTokショップの興趣電商はAI時代の最先端と言ってよいが、東方甄選はライバーがコンテンツを革新しただけで、ハイテクを駆使したわけではない。しかし、ライブコマースの潜在力を示したことでは共通している。あのアマゾンが98%減益(2022年4Q)となるなど、世界中でオンライン通販の環境は激変している。アマゾン、アリババ、京東などが古めかしい既成勢力に見えてしまうほどだ。新次元のステージへ入ったライブコマースのプラットフォーム競争だが、残念ながら日本企業の姿はない。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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