中国で日本の異色作品が公開、称賛さく裂

呂 厳    2023年2月14日(火) 19時0分

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中国の動画プラットフォームで最近、日本発の異色の作品が公開された。写真は2023年1月の平遥国際映画祭。「ケイコ 目を澄ませて」は観客賞を受賞。

2月、中国の映画館はかなりのにぎやかさだ。多くのハリウッド映画が美しさを競い合い、奇観や特殊効果を駆使したシーンが繰り広げられている。ただ、中国ではこうした映画に「満腹感」を示す観客も少なくない。

そんな中、中国の動画プラットフォームで最近、日本発の異色の作品が公開された。映画・ドラマ情報サイトの豆瓣(douban)では評価に参加したユーザーの9割近くが四つ星、五つ星を付け、スコアは10点満点中8.3点という高得点。称賛さく裂のこの映画こそ、日本で昨年12月に公開された「ケイコ 目を澄ませて」(中国語タイトル:恵子、凝視)だ。

中国山西省で開かれた第6回平遥国際映画祭のガラ部門に参加した同作は、上映時に会場が埋め尽くされ、廊下に座って一目見ようとした観客もいたと伝えられている。また、日本では重量級の賞を含む数々の映画賞を受賞。うち、日本の映画界で最も権威あるキネマ旬報ベスト・テンでは、日本映画作品賞、主演女優賞、助演男優賞、読者選出日本映画監督賞に選ばれている。

この映画は、日本で初めて聴覚障害のある女子プロボクサーとなった小笠原恵子氏の自伝「負けないで!」を原案としている。女性によるボクシングと言って取り上げずにいられないのは、同じく日本の監督による9年前の映画「百円の恋」だ。「百円の恋」で安藤サクラが演じた一子は生活においては絶対的な敗者。だらしなく、堕落した日々を過ごすが、あるチャンスの下、ボクシングを学び始める。そして、そこから人生の物語は新たな方向を得る。

「百円の恋」のストーリー展開が前後で衝撃的な対比を生んでいるのに対し、「ケイコ 目を澄ませて」は淡々とした物語だ。せりふは極めて少なく、音楽もかなり抑制され、味気ないトレーニングの場面は丁寧に映像で表現される。これは多くの観客に重苦しさを抱かせるが、意図的な処理のようにみえる。監督は背景の音を低くし、せりふをできるだけ減らしている。

ケイコは両耳が聞こえず、このことはプロボクサーへの道がより険しいことを意味している。まず、ジムに入ることすら難しい。試合中、コーチの指導もレフリーの指示も聞こえない。さらに複雑な気持ちにさせられるのは、勝利したケイコのぼうぜんとした様子だ。歓声が聞こえないため、ケイコは自分が試合に勝ったことが分からない。他人に肩をたたかれ注意を促されてはじめて、ケイコはぼんやりと戦闘状態から抜け出す。

「ケイコ 目を澄ませて」は伝統的なスポーツ伝記映画の構造的な落とし穴から脱却しており、三宅唱監督はケイコという人物の多くの周辺情報を盛り込まずに、そのもがきや疲れを直接持ち込んだ。映画全体も完全にケイコが中心になっているわけではなく、ケイコの物語を通してジムという空間、関連する人物が深く掘り下げられている。物語全体の大筋は、リング上の成功と失敗というよりも、ケイコの心の起伏だ。なぜなら、ケイコは自身を納得させ、自身がなぜ戦い続けるかをはっきりさせねばならないからだ。

表面上、「ケイコ 目を澄ませて」は女性のボクシングにフォーカスしているが、実際は社会の隅にいる人の心細さが細やかに表現されている。作品が静かに指摘するのは、生活は結局のところ、逆転の結末が早くから埋め込まれた、ひたすら前向きな物語ではないという点だ。現実において、努力や熱血が必ず実を結ぶとは限らない。唯一確実なのは、日々の生活だけだ。ケイコがボクシングを選んだのは夢などではなく、心の秩序を保って生きていく方法を見つけたにすぎない。頑張って生きる必要だけがある―。ならば、いつかまたリングに立つ機会があるはずだ。


■筆者プロフィール:呂 厳

4人家族の長男として文化大革命終了直前の中国江蘇省に生まれる。大学卒業まで日本と全く縁のない生活を過ごす。23歳の時に急な事情で来日し、日本の大学院を出たあと、そのまま日本企業に就職。メインはコンサルティング業だが、さまざまな業者の中国事業展開のコーディネートも行っている。1年のうち半分は中国に滞在するほど、日本と中国を行き来している。興味は映画鑑賞。好きな日本映画は小津安二郎監督の『晩春』、今村昌平監督の『楢山節考』など。

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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