中国経済、GDPで米逆転へ、50年・75年も世界一=中間層人口・技術特許・生産性で伸びしろ

八牧浩行    2023年12月28日(木) 11時0分

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中国経済の行方が注目されている。写真は上海。

中国経済の行方が注目されている。中国国家発展・改革委員会によると、今年第1-3四半期(1-9月)に国内総生産(GDP)が前年同期比で5.2%増となり、世界の主要国の中でトップクラスの上昇幅となった。物価水準は安定し、1-10月の消費者物価指数(CPI)は同0.4%の上昇にとどまり、欧米諸国の高インフレ傾向と対照的だった。雇用情勢も全体として改善し、10月の全国都市部調査失業率は5%で、高水準だった2月より0.6ポイント低下。国際収支も基本的にバランスを保った。

生産・供給が緩やかに回復

農業も好調で、2023年通年では穀物が再び豊作になる見込みだ。工業生産も加速し、1-10月には一定規模以上の工業企業(年売上高2000万元以上の企業)の付加価値額が同4.1%成長した。サービス業の伸びが好調で、サービス業生産指数は同7.9%上昇し、1-9月の経済成長に対するサービス業の寄与度は63%に達した。

1-10月の小売総額は同6.9%増加し、1-9月の経済成長に対する最終消費支出の寄与度は83.2%に達した。1-10月の製造業への投資は同6.2%増加し、このうちハイテク製造業への投資は同11.3%増加した。

太陽光電池、電気自動車が原動力に


さらに新たな原動力の成長が加速し、1-10月の太陽光電池と電気自動車(EV)の生産量はそれぞれ同63.7%増、同26.7%増となった。製造企業の利益が持続的に回復し、第3四半期(7-9月)には、一定規模以上の製造企業の利益が5四半期続いた前年同期比減少から増加に転換した。

IMF予測、23年、24年ともに上方修正

こうした中、国際通貨基金(IMF)は中国のGDP成長率予測を引き上げた。2023年は従来予測の5.0%から5.4%に引き上げ、2024年は4.2%から4.6%に引き上げた。経済協力開発機構(OECD)も最近、23年の中国GDP成長率予測を5.1%から5.2%に引き上げた。

柴田金融庁研究参事、不動産「システミックリスクは発生せず」

地域経済活性化支援機構常務取締役で、金融庁研究参事の柴田聡氏は日本記者クラブで中国の不動産市場や中国経済の現状と今後の見通しについて講演、「先入観にとらわれない状況認識が大事だ」と強調した。中国は不動産不況と地方債務拡大という難題に直面しているものの、政府が適切な政策対応を続ければ中長期的には切り抜けられると予測した。

日本では中国の「不動産バブル崩壊」が取り沙汰されるが、柴田氏は「日本のバブル崩壊をイメージすると違うのではないか」と指摘。東京を含めた全国で地価が急落した日本と違い、北京や上海では大きな問題にはなっていないという。中国恒大集団など不動産大手の経営危機が喧伝され各地で契約済みの住宅の工事中断が相次いだものの、購入者に確実に住宅を引き渡す「保交楼」の取り組みが進み、事態は「かなり落ち着いた」と分析した。


柴田氏は中国の不動産問題について、2008年のリーマン・ショック後から続く長期的な問題だと解説。返済期限の延長や大手国有銀行へのリスク移転により時間を稼いで解決するのが中国政府の戦略だと指摘した。柴田氏は中国政府の政策対応能力の高さを評価、「経済のシステミックリスクは発生していない」と述べた。

2015年に上海株急落や人民元切り下げによる「中国ショック」が金融市場で起きたが、柴田氏は「今、中国のマクロ経済はそこまで追い込まれていない」と断言。「中国は過去10年以上にわたって地方債務問題による大規模な経済的混乱を回避してきており、その債務管理能力や政策対応能力は相当高い」とし、「地方債務問題のリスクは経済基盤の脆弱な地域に集中しており、全体としては、地方政府の目先のキャッシュフローを確保し時間を稼ぐことで、当面の経済的な混乱を回避することは可能だ」と分析した。その上で、最大の貿易投資対象である中国市場で引き続き利益を得るためにも、日本は中国との対話のチャンネルを維持するべきだと訴えた。

7月上旬には日本国際貿易促進協会の訪中団、7月中旬には日中投資促進機構の代表らが訪中し、いずれも王文濤商務部長が会見するなど歓待を受けた。キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹は、夏場以降、多くの日本企業で社長、役員、あるいは経営企画、法務など内部管理部門の責任者に至るまで中国出張を再開。政府高官とのアポも入りやすくなっているという。中国政府の日本企業誘致姿勢は過去に例がないほど強まっている。

潜在成長率が高く世界の技術特許数でもトップ

瀬口氏によると、中国の実質GDP(国内総生産)成長率は今後10年程度にわたり4%台から3%台へと緩やかな下降局面が続く見通し。この成長率は2010年代の8~6%に比べれば低いが、日米欧の先進国の成長率と比較すれば2~3倍高い水準だ。このため、世界の一流企業の多くは「今後10年程度の間は中国に代わる魅力的な市場はほかに見当たらない」と見ているという。

中国市場に巨額の資本を投下し、継続的に利益も出ている世界の一流企業の対中投資姿勢は基本的に変わらず、中国EU商会によれば、2022年のドイツの対中直接投資はBMW、メルセデス・ベンツ、フォルクス・ワーゲン、BASFのトップ4社で投資額全体の約8割を占めている。

同氏は、日本企業の中国投資に関するネガティブなニュースが流布されるため、表面的には中国ビジネスの魅力が低下するように見えるが、高い競争力や技術力を備える企業は世界の大手・中堅・中小企業を問わず投資拡大が続くと指摘。日本からの対中直接投資額全体は増勢を維持する可能性が高いと喝破している。


その上で、「中国市場に足を運び、自分の目で市場ニーズを見て、自ら戦略を考え、それを実行に移すための方法を考えてチャレンジする経営者の企業は中国でも大きく発展する。中国政府による強力な支援を得やすい今こそ、そうした経営者が中国市場を開拓する大きなチャンスが到来している」と呼びかけた。

国際ロボット連盟(IFR)によると、2022年に世界で導入された産業用ロボットの半数を中国が占めた。労働者1人当たりのロボット台数でみると、自動化率は今やトップクラス。人口が今後緩やかに減少するため、中国はロボット超大国になることによって課題をカバーすることを目指している。

中国が新規導入したロボットの多くはプログラミングによって生産ラインでの部品の溶接や穴あけ、組み立てのできる機械式アームだが、農業や介護分野など産業のオートメーション化以外の用途で人間の作業を手伝う「サービスロボット」も開発しており、22年の生産台数は600万台を超える。

米金融大手ゴールドマン・サックスの予測によれば、名目GDPは2022年に米国、中国、日本、ドイツの順だったのが、将来米中が逆転、2050年には中国が米国を抜いて1位となり、米国、インド、インドネシアの順に。2075年には中国のトップは変わらず、2位がインド、米国は3位に転落するとされている。

経済成長の要素は、人口、技術革新、生産性の3点。中国は潜在成長率が高く、世界の技術特許数でもトップを占める。人口は鈍化するものの米国の4倍以上あり、経済生産活動に寄与する中間層は毎年増大。都市と地方の格差も縮小傾向にある。ある米シンクタンク首脳は「GDPの製造業で米国を凌駕しており、中国は伸びしろが大きい」と見通している。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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