松野豊 2023年2月22日(水) 5時0分
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これまで3回にわたり、中国のカーボンニュートラル政策とその課題について述べてきた。最後にこれらをまとめて、中国の取るべき道について提言したい。写真は新エネ車。
これまで3回にわたり、中国のカーボンニュートラル(CN)政策とその課題について述べてきた。最後にこれらをまとめて、CN戦略に関して中国の取るべき道について提言したい。
中国は、国内外に様々な課題を抱えていながら、現在も経済成長を続けている大国である。しかし逆に言えば、経済成長を続けているからこそ、国内外の課題に対峙していくことができているという言い方もできよう。
中国にとって「発展」を意味する経済成長は、必要不可欠なものである。先進国の場合でも経済成長はもちろん必要であるが、例えば日本のように長い間にわたり国の総付加価値(GDP)が増えもせず、またかといって大幅に減りもしないでいる国は、社会が「安定」していて抱える問題も中国に比べたらましだ(読者のご反論はあると思うが)。
さて中国は、経済成長を続けるために国の産業政策を総動員している。同時にこれまでは発展途上国だったために、輸出や資本投資をたゆまなく増加させて経済成長ができたが、経済の成熟化に伴って、生産性向上やイノベーションなどにより質的な成長に移行していく時期にきた。
本稿で取り上げてきた低炭素化社会を目指す「CN化」は、中国が次世代の経済成長エンジンとして狙いを定めている戦略のひとつである。CN化は地球環境の持続性のためでもあるので、それ自体は理にかなったものである。
しかしこれまでのように特定の成長産業にターゲットをあててきた政策との大きな違いは、CN化が社会や産業活動全体を扱うために、経済成長にも資するが同時に成長抑制にもなり得る戦略であることである。
またCN化は、COP(気候変動枠組条約締約国会議)などで各国がこれまで目標設定をしてきているが、昨今のウクライナ情勢や新型コロナ問題のために、現在では各国のエネルギー転換計画に狂いが生じてきているだろう。
中国の場合も新型コロナ問題で経済成長の未達が続いたため、2030年までのCO2排出量ピーク化が果たして達成できるのかなど、情勢は流動的だ。前稿で述べたように従来型経済成長を進めれば、CO2排出量は確実に増加するからである。
また中国の自動車産業の電化(EV化)は、販売量や技術開発で世界をリードしていることは間違いないが、中国の現市場は参入者が殺到して競争激化になっており、EV産業の付加価値や労働生産性はあまり高くなっていない。中国の今のようなEV産業の状況では、CN化につながっていくとは言い切れないと思う。
前々稿で示した「茅恒等式」を再度引用してみよう。CN化に向かうためには、この右辺の4項目を減少させていかなければならない。
CO2排出量=「経済成長」×「産業構造」×「排出強度」×「エネルギー消費原単位」
中国が経済成長を諦めないのであるなら、国全体が低炭素化(=CN化)に向かうためには、1.「産業構造」の転換、例えば産業のサービス化、2.「排出強度」の低下、すなわち再生エネルギーへの全面転換、3.「エネルギー消費原単位」の低減、すなわち製造業の省エネルギー化促進、の3つが重要になる。
1は、筆者の過去の投稿を見てもらえるとわかるが、日本の1970~90年代と比較すると、中国の産業構造はまだうまく転換ができていない。3の省エネルギー化は、個々のプロセスでは進んできたが、製造プロセス全体(例えばゼロエミッション)や工業園区全体の省エネルギー化などは、まだ途上である。中国が進んでいるのは2のみである。
中国は、第2次産業の付加価値が大きい「工業立国」であり、産業のCN化は「いばらの道」だと言えよう。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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