中国新聞社 2023年3月12日(日) 16時20分
拡大
中国には、漢族以外の民族が発展させ継承してきた伝統医学もある。中でも重要な医学の一つがチベット医学だ。写真はチベット医学の古典としてとりわけ重要な「四部医典」など。
中国には、漢族以外の民族が発展させ継承してきた伝統医学もある。中でも重要な医学の一つがチベット医学だ。チベット医学はインド医学のアーユルベーダを源流としており、漢族による中医(日本では「漢方」の名が知られる)とは別の体系を持つ。チベット医学で最も重要な書籍が「ギュ・シ」だ。この名称はチベット語で「四つの経典」といった意味なので、中国でも日本でも「四部医典」と呼ばれることが多い。チベット医学の薬学専門家で、医学史文献の研究者でもあるデジツォム氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、「四部医典」の価値とその評価について説明した。以下はデジツォム氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
「四部医典」は2018年5月に、「世界の記憶-アジア太平洋地域リスト」に登録された。このことで、世界的に「四部医典」に対する注目度がさらに高まった。研究の範囲は医学だけでなく「四部医典」の記載に関係する文化学や人類学などの分野にも広がった。
「四部医典」は内容が豊富で、理論面もしっかりしている。中でも特筆すべきは解剖学や生理学の内容だ。扱う症例は1616種で、2258種の薬の調合法が記載されている。これらの内容は「四部医典」が編纂(へんさん)された8世紀のチベット医学の高い水準を示しているだけでなく、当時のチベットの高度な科学知識や技術、文化、歴史、伝統、文学、芸術、工芸の集大成でもある。「四部医典」は英語、ドイツ語、モンゴル語、日本語、ロシア語などの多くの言語に訳されることになった。
「四部医典」には、金属製錬、薬物製錬、陶磁器容器、手術器具などの製作工程も幅広く記録されている。各種鉱物から金、銀、鉄、アルミニウム、鉛、スズ、青銅、水銀などを精製する方法や、各種の穀物を発酵させて薬にしたり、薬物間の化学反応を促す方法、各種の鉱石、動物、植物生薬の調合及び無毒化方法、各種手術についてや手術器具の製作規格、使用材料、構造などが詳しく記されている。
そして、チベット医学は東アジア内陸部や南アジアのブータン、ネパール、インド、中央アジアのトルコ系民族に伝わって大きな影響を及ぼした。
「四部医典」は古典チベット語で書かれており、難解だ。欧州ではハンガリー人のケーレシ・チョマ・シャンドール(1784-1842年)が「チベット語-英語辞典」と「チベット語文法」を著したことで、チベット学研究の扉が開かれた。チョマは1930年に「四部医典」を初めて西洋に紹介した。その後は、日本、英国、米国、フランス、ドイツ、イタリア、インド、ロシア、オーストラリアなどの多くの研究者が、チベット医学の発展史や「四部医典」の起原、チベット医学古代医療法の起源などの研究を行うようになった。
チベット医学は本質的に、生活に由来し生活に用いる経験医学だ。「四部医典」は、自らを捨てて多くの人を利する精神道徳思想を説き、天と人が調和する宇宙観を提唱している。また、西洋の科学や医学は対象を細かく分解分析する傾向が強いが、「四部医典」は人という存在の全体性を重視している。さらに、慈悲や衆生に利すること、差別心を持たないこと、善行を目指すことも説いている。「四部医典」は天文暦計算、儀式と信仰、行動規範などとも結びついており、チベット劇や仏教美術のタンカ、壁画などの伝統的な表現形式を通じて広まった。
チベットの庶民の生活習慣の多くは「四部医典」から来ている。例えば、チベット族の主食は大麦を炒ってから粉にするツァンパだ。ツァンパは栄養が豊富で、各種の微量元素を含んでおり、常食すると体を丈夫にすることができる。ツァンパの機能はすべて「四部医典」に記録されている。また、大規模な流行病が発生すると、人々は自発的に他人を訪問することを少なくして、来客は断る。この方法も、「四部医典」に記載された内容と一致する。チベット暦の7月には、川や渓流に入って体を水で清める。この習慣は病気にかかることを少なくするためのもので、やはり「四部医典」に由来する。
中国政府は一連の政策により、「四部医典」などの文献や遺産の保護、伝承、発展に力を入れている。チベット自治区政府は今、チベット医学やチベット医薬に関連する立法措置の研究を進めている。チベット医薬の発展と保護のための条例の策定を急ぎ、知的財産権保護の意識をさらに強化するためだ。また、チベット医学の特徴に基づいてチベット医薬の標準化や規範化推進し、統一された科学的なチベット医薬標準体系を確立する方針だ。
古典的なチベット医学書の復刻版の出版も進められている。代表例としては、チベット医薬大学が編纂(へんさん)した「中国チベット医薬影印古籍珍本(1-60巻)」や、チベット自治区チベット医学病院が編纂した「雪域チベット医学暦算大典(1-130巻)」などがある。
「四部医典」の注釈書は200点以上が出版されてきた。代表例としては、近代チベット医学者・訳学者であるトル・ツェナム(1926-2004年)による「四部医典大詳解(1-6巻)」や、チベット出身者として国が定める「国医大師」の称号を初めて得たチャムパティンラ(1929-2011年)による「チベット医四部医典八十幅曼唐釈難・藍瑠璃の光」がある。現在もなお、「四部医典」の注釈書は次々に発表されている。
さらにチベット自治区チベット医学病院は「チベット医暦計算資源センター」などと天文暦計算デジタル化プラットフォームを利用して、「四部医典」のデジタル化運用を推進し、教育、文化、医学、科学研究などさまざまな分野に携わる者が利用しやすい環境を整えている。(構成 / 如月隼人)
この記事のコメントを見る
Record Korea
2023/3/8
Record China
anomado
ピックアップ
we`re
RecordChina
お問い合わせ
Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら
業務提携
Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら
この記事のコメントを見る