<中国経済主導の李強首相>民間重視のビジネス通「改革開放で経済再建」

八牧浩行    2023年3月15日(水) 13時0分

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中国全人代が閉幕、習近平国家主席が3期目をスタートし、経済政策のかじ取りはナンバー2の李強首相に委ねられた。

中国全人代が閉幕、習近平国家主席が3期目をスタートし、経済政策のかじ取りはナンバー2の李強首相に委ねられた。副首相を経験せずに抜擢されたため“経験不足”を懸念する声もあるが、浙江省や上海など産業の先端地域で要職を務め、ビジネスに精通した実務派。李強氏はこれまでの首相とは大きく異なる。

◆「相互依存強まる米中は協力を」

李強首相は13日、就任直後に記者会見し、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済の再建に最優先で取り組む姿勢をアピールした。「改革開放を揺るぎなく深化させる」と明言。2023年の国内総生産(GDP)成長率を5.0%前後とした目標について「達成は容易ではなく努力が必要だが、達成は可能」と強調した。

その上で、米中分断の動きをけん制。2022年の米中貿易額が過去最高を更新し、相互依存関係が深まったことを明示し、「米中は協調すべきで、その意義は非常に大きい」と訴えた。

「民間の起業家や企業は環境の改善と発展余地の拡大を享受できるだろう。われわれは、全ての種類の市場組織のために公平な環境を整備する。民間起業家の成長と繁栄を支援するため、さらに努力する」などと力を込めた。「経済発展は雇用創出の根本的な解決策だ」とし、今後も「雇用第一」の戦略を追求すると言明した。

◆「人材ボーナス」は継続する

「民間」重視の姿勢も目立った。「経済成長の安定と自立自強という政府目標を達成するには、民間部門の参加が明らかに必要だ。民間部門は中国の国内総生産伸び率の半分以上に寄与し、雇用の大半を占めている」と語った。さらに「昨年のある時期、民営経済の発展についての間違った言説や議論が、一部の企業家の不安を招いた。実際のところ、民営経済に関する党中央の方針と政策は一貫して明確だ」と指摘し、「民営経済の発展環境はますます良くなり、発展の空間もどんどん大きくなる」との見通しを示した。

中国は人口減少に転じ、人口増加が経済成長に寄与する「人材ボーナス」がストップするとの指摘に対し反論。「中国の労働適応年齢の人口は9億人近くで、現在も毎年1500万人が新たな労働力として増加している。豊富な人的資源は依然として中国の大きな優位性だ。中国では高等教育(大学)を受けた人口が2億4000万人を超え、毎年の新規労働力の平均就学年数は14年に達しているが、これは重要なポイントだ。つまり、中国の経済成長を支える『人口ボーナス』は終了しておらず、『人材ボーナス』の形成は続いており、発展の推進力は依然として大きい」と解説した。

また、李強首相は台湾問題について、「両岸同胞は家族だ。血は水よりも濃い。われわれは『一つの中国』の原則と『九・二共識(92年コンセンサス)』に基づいて両岸の経済・文化交流と協力を推し進める」と強調。より多くの台湾同胞や台湾企業が大陸に来ることを望み、より良く発展できるよう後押しをしていく。両岸の正常な往来を一日も早く実現し、協力関係を回復・常態化させることは、私たちの共通の願いであり、共に努力することが必要だ」と訴えた。


テスラの工場を誘致

米国や日本企業が多く進出している地域である上海時代にはEV自動車メーカー「テスラ」のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)に会い、同社初の海外工場建設につなげた実績もある。

63歳の李強氏は先進地域の浙江省の沿岸都市、温州生まれ。中国の改革開放路線が敷かれたばかりの1980年代、温州では民間経済が台頭。輸出用の靴やたばこライターなどの小さな工場が相次ぎ誕生し、急成長を遂げた。温州で党の要職を歴任した李氏は2002年に市のトップに上り詰めた。李氏と会談した上海のIT企業幹部は「浙江省の起業家精神が骨の髄まで育まれているようで、ビジネスライクだった」と語っている。浙江省などで親交を深めた日系進出企業の中国トップも「気配りの人だった」と述懐している。

地方勤務が長いため知名度が低く、来歴も温家宝李克強ら党中央エリートだった歴代の首相と大きく異なる。いきなりナンバー2に躍り出たため、経済のかじ取り役としての実力を疑問視する向きも多く、前途には多くの壁が立ちはだかるが、「持ち前のパワーと現場主義で乗り越えるだろう」と期待する声も内外で多い。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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