八牧浩行 2023年4月25日(火) 7時0分
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中国ではコロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策から「アフターコロナ」に移行し、景気が持ち直している。写真は上海モーターショー。
中国ではコロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策から「アフターコロナ」に移行し、景気が持ち直している。産業政策も「改革開放路線」に回帰しており、世界最大となった経済マーケットに、日米欧をはじめとする各国の産業人を引き付けている。自動車ショーや交易会など各種イベントは外国企業関係者で大盛況だ。
米中経済摩擦が課題だが、「ビジネスチャンス最大市場の中国バスに乗り遅れるな」との米産業界や金融界の声を受けて、米国要人による「緩和」を求める動きが活発化している。
4月19日に発表された中国の1~3月の実質国内総生産(GDP)は前年同期比4.5%増となり、22年10~12月の2.9%増から急加速した。不動産業が1年9カ月ぶりに前年同期比で増えた。新型コロナウイルスを抑え込む「ゼロコロナ」の終了で宿泊・飲食業や交通運輸業なども増加に転じ、全12業種がプラス成長となった。景気回復と政策金融機関による融資強化で、銀行の貸し出しも拡大。1~3月の人民元建て新規融資は前年同期を27%上回り、伸び率は20年4~6月以来最大となった。
今後は景気回復のさらなる拡大が課題。1~3月はサービス消費が好調だったが、自動車など耐久消費財の販売が低迷。生産も緩やかな回復にとどまった。
こうした中、上海市で4月中旬、第20回「上海モーターショー」が開催され、日米欧をはじめ世界中から関連企業が集結した。中国市場では、2022年に前年の約1.8倍にあたる約536万4000台のEVが販売された。中国の専業メーカーや欧米勢に後れを取った日本勢も相次ぎ電気自動車(EV)を投入し、巻き返しを図る。
日本からもトヨタ自動車がEV「BZ」シリーズの新型コンセプト2モデルを、日産自動車も新たなEVコンセプトモデルを初公開。EVのプロトタイプやコンセプトモデル計3車種を展示するとともに、EV比率を2035年に前倒しして100%にする方針を示した。世界一のEV市場である中国では米テスラや中国メーカーが販売を伸ばすが、日本メーカーも反転攻勢に打って出る。
BZスポーツクロスオーバーは、トヨタと比亜迪(BYD)の合弁会社・BYDトヨタEVテクノロジーカンパニー(BTET)と一汽トヨタ、豊田汽車研究開発センター(TMEC)との共同開発車。BZフレックススペースは、トヨタと広州汽車集団(GAC)、広汽トヨタ、TMECの共同開発車で、それぞれ一汽トヨタ、広汽トヨタが生産と販売を担う。トヨタの中嶋裕樹副社長は「中国は電動化と知能化で先頭を走る市場だ。今後も中国専用EVの開発を現地で強化・推進していく」と語っている。
ホンダは、中国専用のEVブランド「e:Nシリーズ」の第2弾となる「NP2」などを世界初公開した。動力性能やデザイン、機能性など従来の枠にとらわれないEVならではの新たな価値観を打ち出した。ホンダはこれまで「35年に80%」としていた中国新車販売に占めるEV比率を同年に100%にする方針も発表した。「30年以降に投入するモデルは全て電動車にする」としていた計画も「27年以降」に前倒しする。
日産自動車は、次世代EVのコンセプトモデル「アリゾン」を発表した。低重心な車体に自動調光のサンルーフやセンターピラーレス構造を採用して開放感を演出したことが特徴だ。乗員ごとに最適な情報を提供するパーソナルアシスタントシステム「エポロ」も搭載した。
マツダは上海モーターショーに先駆け開いたイベントで電動化方針を表明。長安マツダ、長安汽車、マツダが共同開発した電動車を24年末に導入し、EVとプラグインハイブリッド車(PHV)を設定する。「CX-50」にハイブリッド車も追加する。
EV転換は中国が先頭を走っている。新車のEV比率は欧州主要18カ国で15%なのに対し、中国では22年に20%に達した。販売台数は日本の新車市場全体を上回る規模に拡大している。
一方、伝統の第133回中国輸出入商品交易会(広州交易会)が4月中旬に広州市の広州琶洲国際エキシビションセンターで開催された。過去最大規模となり大にぎわいだった。
中国の出展企業はハイテク製品、スマート製品を数多く出展。中国の工作機械会社幹部は「もう技術面で日欧と差はない、あとはブランド力」と語り、先端技術を前面にアピールし受注を狙う。ゲーム機会社幹部も、新製品を海外の取引先に紹介し、「さらに多くの提携・受注につなげたい」と意気込む。
中国企業の特徴についてロボット製造企業幹部は次の3点を列挙している。
(1)技術開発力
機械本体だけでなく、数値制御(NC)装置やCAD/CAM(コンピューターによる設計・製造)ソフト数値制御などほぼすべてを社内で研究開発している。
(2)製造技術の高さ
工程内の管理を徹底することで、工作機械に使用する部品の精度をマイクロメートル(マイクロは100万分の1)水準で管理している。
(3)アフターサービスの提供
機械を納入した現場にはさまざまな課題があり、そこにフィールドエンジニアが出向くことで新たな「カイゼン」提案をしている。
中国にはBATH(百度、アリババ集団、テンセント、華為技術)を筆頭に、IT(情報技術)大手が存在。こうした中でおびただしい数の中堅企業やセットアップ企業が独自の製品やソフトウエアを開発して競っている。
国際通貨基金(IMF)が4月中旬に発表した「世界経済見通し」によると、2023年の世界経済成長率(GDP)の最新予測は2.8%と、前回1月予測比で0.1ポイント下方修正された。米欧でくすぶっている金融不安が再燃すれば、成長率はさらに2.5%まで低下するとIMFは見ている。ウクライナ危機や根強いインフレ、各国の中央銀行による金融引き締めなどが減速の背景だ。
IMFは2023年にドイツと英国がマイナス成長に陥ると予測。日本、ブラジル、インドの成長率も前回1月予測から引き下げた。日米とも1%台に低迷する中、中国は5.2%と5%台を維持する。
中国政府はトウ小平以来の改革開放路線に回帰している。李強首相は3月13日、就任直後に記者会見し、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済の再建に最優先で取り組む姿勢をアピールした。「改革開放を揺るぎなく深化させる」と明言。2023年のGDP成長率を5.0%前後とした目標について「達成は容易ではなく努力が必要だが、達成は可能」と強調した。
その上で、米中分断の動きをけん制。2022年の米中貿易額が過去最高を更新し、相互依存関係が深まったことを強調し、「米中は協調すべきで、その意義は非常に大きい」と訴えた。
「民間の起業家や企業は環境の改善と発展余地の拡大を享受できるだろう。われわれは、全ての種類の市場組織のために公平な環境を整備する。民間起業家の成長と繁栄を支援するため、さらに努力する」などと力を込めた。「経済発展は雇用創出の根本的な解決策だ」とし、今後も「雇用第一」の戦略を追求すると言明した。
国際通貨基金のゲオルギエバ専務理事は4月13日、世界銀行との春季総会で記者会見し、各国は「第2の冷戦」を避けるべきだと訴えた。増大する軍事費やサプライチェーン(供給網)などの分断が経済的なコストに跳ね返ると警鐘を鳴らした。国際社会の分断が自由貿易を阻むコストが世界経済の0.2〜7%に達するとの分析を例示して、IMFのような国際機関を通じた対話の重要性を訴えた。IMFは世界経済が米欧などの「米国ブロック」と東南アジアなどを含む「中国ブロック」に分断した際のシナリオを分析。貿易の制限が企業投資の減少につながると警告している。
またイエレン米財務長官は4月20日、米ワシントンでの講演で、中国に対して「健全な経済競争は長期にわたって両国に利益をもたらす」と協議に応じるよう要望。訪中への意向を表明したうえで、保護主義的な経済慣行の是正や途上国の債務問題の分野で協力するよう訴えた。
一般市民にとって重要なのは生活であり、経済活動が活発になることが生活向上につながる。最近の一連の動きは、今後の中国経済の方向を指し示すと言えよう。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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