中国語生かし「日中親善の架け橋」に、女性目線の新作にも挑戦=真打昇進決定の林家つる子

Record China    2023年5月14日(日) 10時20分

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落語の世界は男社会で女流は珍しいが、林家つる子は真打昇進が約束された。中国語が堪能。落語の主人公は男性中心だが「おかみさん目線」でヒロインにスポットを当て、噺を作り替えることにも挑戦している。

伝統的な話芸、落語の世界は男社会で女流は珍しいが、入門10年ちょっとの短期間で真打昇進が約束された女性落語家がいる。林家つる子で、落語協会より来年3月21日からの真打昇進が発表された。落語の主人公は男性中心だが、「おかみさん目線」でヒロインにスポットを当て、噺を作り替えることにも挑戦している。

林家つる子は「落語の主な登場人物は男性だが、女性にしかできない落語がある」と熱弁を奮う。伝統的な落語の定番「芝浜」の主人公は勝五郎だが、「つる子落語」では妻・おみつが主人公。おかみさん目線で創り出した新作だ。「落語は日常のストレスを面白おかしく笑いに変える演芸です」と話し、「働く女性にも笑ってもらえる噺を作ってみたい」と明るくアピールした。

小学校4年生の時にNHK中国語会話番組を一年間にわたり視聴。毎週見て中国語を勉強した。中国・旧満州(現在の中国東北地方)に住んでいた祖父からも中国語を学んだという。中央大学文学部人文社会学科で中国言語文化を専攻、卒論は中国の話芸「単口相声」をテーマとしたというから、根っからの中国通だ。「日中親善の架け橋になれればうれしい」と熱く語った。

林家つる子は、最初は演劇系のサークルを目指したが、勧誘してくれた先輩たちの落語を聴いて素直に面白いと思い、落語研究会に入部。「江戸時代の話が今でも現実の世界」として蘇ることに驚いた。演出も含めてすべて「自分の考えを反映できるのが楽しくてのめり込んだ」と話す。


学生落語の全国大会で決勝進出、審査員特別賞を受賞。大学卒業後はそのまま落語家になると決め、アルバイトをしながら寄席通いを続ける。

大学卒業後、寄席に通ううち、古典落語に真摯に向き合う姿勢にひかれ、2010年に九代林家正蔵に入門した。

大学時代の教授を通して正蔵に会うことができたが、当時(2010年)正蔵は初めて女性の弟子(林家なな子)を取ったばかりで、女性の弟子をどう育てればよいか悩んでいたという。「『女性の弟子がもう一人入ることで、弟子同士も師匠もやりやすくなるんじゃないか』というお考えがあって入門できたと思う」と謙虚に述懐する。

前座の期間は師匠のもとで下働きをしつつ、寄席ではトップバッターとして短い落語を披露して場を温めるのが仕事だった。

19年、第11回前橋若手落語家選手権優勝。21年3月、第20回さがみはら若手落語家選手権優勝。演目は「しじみ売り」。21年11月、「令和3年度NHK新人落語大賞」決勝進出。22年11月、「令和4年度NHK新人落語大賞」決勝進出。

高座や独演会をこなすほか、笑点特大号 女流大喜利(BS日テレ)など多くのテレビ・ラジオに出演。朝日、スポーツ紙など新聞にも登場。「月刊文藝春秋」や「月刊PHP」などにエッセイを寄稿し、人気沸騰。多忙な日々だ。(八牧浩行


◆落語の主人公に寄り添い、常に笑いを絶やさないようにしたい

林家つる子インタビューは次の通り。(聞き手=ジャーナリスト・八牧浩行)

――来年3月の真打昇進、おめでとうございます。ご心境は?

「まさかお声がけいただけるとは思っていなかったので、驚きました。本当にありがたく頑張らなければいけないと覚悟しました」

――中央大学の落語研究会の頃からプロの落語家を目指されたのですか?

「4年生の時に自分がやりたいことは何だろうと考えました。就活をする中で、自分が本当にやりたいのは落語なんだという気持ちに気付き、また、落語の世界には三遊亭歌る多師匠、古今亭菊千代師匠をはじめとする女性の師匠方もいらしたので、挑戦してみようという気持ちが高まりました。ただ男性社会だったので厳しい道とは考えていました」


 

――名門の九代林家正蔵さんの門下生になるのは大変だったのでは?

「大学を卒業してから入門までに半年かかりましたが、いろんなご縁に恵まれました。当時、中央大学の先輩が、現在落語研究会の顧問でもある黒田絵美子教授を紹介してくださいました。教授は新作落語の台本も書かれている方だったので噺家の師匠方との交流もあり、親身に話を聞いてくださいました。また、中央大付属高校出身の柳家さん喬師匠と教授が新作台本を通じて親しかったので、お二方に相談に乗っていただきました。

その後、さん喬師匠と黒田教授のご支援を得て、林家正蔵師匠に会わせていただきました。卒業後の半年間はとても辛い時期で、他の友達は就職して仕事を始めている期間だったのでどうなるんだろうと不安でした。

師匠はテレビのイメージが強いですが、寄席では古典落語に真摯に向き合われていました。女性のお弟子さんをとられたと伺ったので、女性を育てることにも前向きな方と思いました。

師匠は姉弟子を取ったばかりで、女性がもう一人入門したら相談もできいい効果があるかもしれないと考えたようです。ご縁と幸運に恵まれ入門が許されたと思います」

――ご家族は心配されたでしょう?

「母は応援してくれました。父は女性が男社会の中で通用するのかと心配しましたが、落語家になってからは、母と一緒に応援してくれました。大学1年から中華料理店でバイトしましたが、中国語ができたのでバイト先の方々も応援してくれ、多くの人にお世話になりました。そのことを忘れずに努力したいと思います」


――入門後は苦労されたでしょう?

「右も左もわからない状態で修業が始まり落語どころではありませんでした。師匠やおかみさんのお手伝いが中心でした。師匠のお子さんも3人いて弟子も多く、お宅も大きく、最初は戸惑いました」

「おかみさんも有名な方で、お客さんや取材に来られる方も多かったです。日々勉強の毎日でした。怒られてばかりでした」

――男性目線で演じられる落語を女性目線で演じています。「芝浜」の主人公は勝五郎ではなく妻・おみつ。芝浜は林家つる子がおかみさん目線で語り出した新たな手法の落語ですね。噺家と会場が一体となりこの新作落語は大成功とか。これから「大化けの兆し」と可能性を予見する愛好家が多かったようです。おかみさん目線の芝浜は今後、「十八番」となるでしょう。この熱演はNHKで30分間全国放送され評判になりました。女性目線にした理由は?

「古典の中で登場する回数の少ないおかみさんや女性たちがどうしていたか気になったのがきっかけです。古典落語ではあまり語られない、女性の登場人物の行動や考えに想像が膨らみ、二ツ目になり自由に挑戦できるようになったので、おかみさんを主人公にしてやってみたいと思いました。師匠が、女性にしかできないこともあると思うからやりたいことを挑戦してほしいと、前座の頃から勧めてくださっていたので、チャレンジすることができました」

――男女平等、多様性を大事にする社会づくりは重要です。世界中の人たちが拍手するでしょう!女性真打といい、女性目線の「芝浜」といい、男女共同参画社会を切り開き、画期的な出来事と思います。

「受け入れてもらえるか?どう思われるか怖さもありました。二ツ目の時期で、失敗するにしても今の時期にしかできないと思い挑戦しました。面白いと楽しんでくださる方もあり、多くの方に評価していただきました。NHK「目撃にっぽん!」でドキュメンタリーが放映されたこともあり、それをご覧いただいた多くの方からの反響がありました。中には(落語を)侮辱しているというような否定的なご意見もありましたが、支持してくださるご意見も多くいただきました。挑戦に勇気をもらったという女性もおられて励まされました。今後もいろんな挑戦をしていきたいと思います」

――古典や新作にも意欲的とか。今後の構想は?

「師匠から頭でっかちにならずにいろんな挑戦をするんだよとのお言葉をいただき励まされています。古典や新作落語のほか、落語以外の分野にも挑戦したいと考えています。師匠は、どんな経験も無駄にならないからとおっしゃってくださいます。例えば音楽関係とかリポーターとかいろんな仕事や経験をして、落語に活かすことができればと思います」


――大学では中国語を専攻されたとか?

「小学校4年生の時にNHK中国語会話を一年間毎週見て独学で勉強していました。マンガが大好きで、高橋留美子先生の『らんま1/2』のファンでした。中国が出てくる場面があり憧れました。祖父が戦前旧満州に行っていて、中国語ができました。私が中国に興味があることを知っていた祖父が、NHK中国語会話のテキスト本をくれたのをきっかけに勉強しました。読んだら子供なりに楽しいと思いました。そのころは吸収が早くなんとなくしゃべれるようになり、小学校に交換留学生の子供が中国から来ていて話す機会があり、話が通じてうれしくなり、のめり込みました」

――大学の卒業論文も中国をテーマとしたとか?

「中国の落語に相当する話芸「単口相声」を卒論テーマとしました。中国と落語の二つをテーマに書けないかと思いました。「単口相声」は講談にも近いと思います。落語の『饅頭怖い』は中国の笑い話が基になっているようです」

――将来はNHKの中国語講座のキャスターにも?

「それは子供の頃からの夢でしたので…!もしも機会をいただけましたらこんなに光栄なことはありません。そのためにも、中国語の勉強も続けていきたいと思います」

――中華圏やアジア諸国は日本の演芸やエンタメに大きな関心を寄せています。中国語を生かして進出する意向はありますか?中国、台湾、韓国などは人口も多く巨大な市場があります。

「『キングダム』『鬼滅の刃』『ワンピース』など中国、台湾、韓国はじめアジアで人気があるようですね。いつか、中国語で落語を一席申し上げたいと思っています!そのためには、まだまだ勉強が必要ですが、頑張ります」

――日中の芸能文化を継承し、文化交流を通じて平和友好にもつながるのでは? 日中の架け橋としてご活躍の舞台も広がるのでは?

「是非!お役に立てればと思います」

――中国人は明るい笑いが好きですね。

「歌舞伎やオペラに相当する京劇や中国式掛け合い(漫才)も人気があるようです」


――このほか特にアピールしたいことについて

「コロナ下でも支えてくださった方々にお応えしたいと思います。落語の主人公の多くは弱く辛い人たち。哀感があり、辛い思いを笑い飛ばしたり、話の中で成り上がっていったり、励まされます。今後も山あり谷ありと思いますが、乗り越えたい。常に笑いを絶やさないようにしたいと思います」

「落語の主人公に寄り添っていきたいと思います。人間は同じ共感を抱き、山あり谷ありの人生の中で悲しみを乗り越えていけると考えます」

【林家つる子・プロフィール】

群馬県高崎市出身

中央大学文学部人文社会科学中国言語文化専攻卒業

ぐんま観光特使、高崎アンバサダー

日本舞踊坂東流名取「坂東蝶子」

2010年9⽉九代林家正蔵に弟⼦⼊り

2015年11⽉⼆ツ⽬に昇進

2019年9⽉第11回前橋若⼿落語家選⼿権優勝

2021年3月第20回さがみはら若手落語家選手権優勝

2021年11月NHK新人落語大賞決勝戦進出

2022年9月第33回北とぴあ若手落語家競演会奨励賞

2022年10月NHK新人落語大賞決勝戦進出

2024年3月21日より真打昇進予定

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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