中国新聞社 2023年5月29日(月) 21時30分
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中国全国には計350種以上の伝統劇が伝わっているとされる。北西部に伝わるとりわけ重要な地方伝統劇の一つが秦腔だ。写真は陝西省西安市内にある中国秦腔芸術博物館。
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中国各地には、350種を超える伝統劇が伝わっている。その大きな特徴は、いずれも俳優が歌うことだ。この点、日本の歌舞伎とは大いに異なる。中国北西部の代表的な伝統劇の一つに秦腔(チンチアン)がある。中国の伝統地方劇の重要な一員である秦腔の特徴はどのようなものか。現状はどうなのか。中国でトップレベルの舞台芸術家に与えられる一級演員の称号を持つ陝西省戯曲研究院の李梅院長はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、秦腔について紹介した。以下は李院長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
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秦腔は、明代(1368-1644年)にはすでに、比較的完成された状態になっていた。秦腔の名優の魏長生は、清の乾隆年間(1736-1795年)に3回も北京での興行に出演した。秦腔には感動的な台詞や歌詞が多くあるが、使う言葉は庶民的だ。巧みな演技もあいまって、秦腔は北京っ子を沸かせた。秦腔はその後、他の伝統劇や民間芸術と結合した。また、他の地方に広がり現地化した。中国の北部から中部にかけての各地で「バン子腔」(「バン」は木へんに「邦」)と呼ばれるタイプの伝統劇が多くあるが、秦腔は「バン子腔」の元祖とされる。
秦腔の特徴は荒々しく豪放なことだ。歌の雰囲気はすぐに高ぶり、力強さや悲壮さを表現する。使う声色に「苦音」と「歓音」の2種類があることが、秦腔の大きな特徴だ。扱う題材は幅広く、中華民族の優れた伝統的美徳を反映した古典的な演目が多い。
秦腔は農耕文化に由来する。初期には野外舞台で演じられ、大衆が野外に立って観劇した。役者は観客を引きつけるために、物売りの声や話し声を圧倒せねばならなかった。そのために大きな声量が必要で、しかもできるだけ高い音域で歌わねばならなかった。そのため「吼」と呼ばれる独特の発声法が発達した。ただし秦腔では「吼」だけでなく、役柄によっては嫋々(じょうじょう)たる歌声で、美しいな節回しを歌うことも多い。
秦腔の感情表現は、地元民の伝統的な心情を表している。高ぶった「吼」は芸術的な表現であるだけでなく、地元精神のあらわれだ。豪快で奔放であり、大きく開放的で、地元の人々の気質を余すところなく表現する。
秦腔は西洋のオペラと同様に総合芸術だ。生活に由来し、演技、音楽、美術、舞踊、さらには建築もが融合したものだ。ただし、西洋のオペラでは現実の再現や写実が多いのとは異なり、秦腔など中国の伝統劇は表現性を重んじ、「想像化」や「様式化」が進んだ特徴がある。
想像化とは何か。具体的には演技の方法に見ることができる。中国の伝統劇の演技は生活を基礎にしてはいるが、現実の生活に拘泥するのではなく、仕草を抽象することで超越し、美を求める観衆の心情心に応える。例えば、1本のむちだけで、千軍万馬が千里を進む様子を表現したりする。
様式化とは、現実の生活を土台として、役者の演技と観客の鑑賞の相互作用によって形成されてきたものだ。舞台の上と下での、一種の「お約束」と言ってもよい。例えば登場人物がドアを押して入室することを表現するシーンでは、舞台の上にドアはない。しかし役者は生活の中で実際にドアを押す動作よりもゆっくりと行ったり誇張して演じることで、自分が何をしているかを示す。すると観客はドアを通過するシーンと理解し、また、ドアが見えているように感じる。
秦腔の継続と発展のためにまず必要なことは世代から世代への人材の「リレー」だ。例えば陝西省戯曲研究院では、専門の育成学校に出向いて研修を行い、学生の能力を向上させている。また、若手から中堅までに対して、身に着けた能力を披露する場を提供して、成長を促している。人材不足に陥る前の「転ばぬ先のつえ」というわけだ。また、私たちは全国の有名な芸術家や院内のベテラン芸術家にお願いして、授業や芝居の稽古などを行っている。また、若手向きの一幕ものの演目を数十本用意した。それらの上演は、いずれも好評を得ている。
秦腔の生存する生態環境は変化しつつありる。伝承と発展のために、私たちは多くの革新を行ってきた。伝統劇の整理と改編、新編時代劇と創作現代劇の創作などにより、古い地方劇に豊かで充実した風貌を追加した。しばらく上演されていなかった伝統演目の復活も手掛けた。新旧の演目は多くの観客の支持を得ている。
私が得意としてきた演目を、若い役者に継承させることもしてきた。A組、B組に分かれてリハーサルを行っている。ベテラン役者と弟子が一緒に稽古場に入り、舞台に登場する。このことは、若い役者の急成長を促している。
中国の伝統劇は中国文化を披露する重要な媒体だ。世界各国との交流もますます密接になっており、海外の観客に中国の演劇や中国の伝統文化をより多く認知してもらえるようになった。私たちは外国に公演に招かれるだけでなく、多くの外国の文芸界の人を招いてきた。相互交流の中で、互いに大いに勉強になった。
私たちは約100回、アジア、ヨーロッパ、北米、アフリカなどの地域を歴訪した。オーストラリアやニュージーランドで「歓楽春節」文化交流イベントに参加したり、デンマークでコペンハーゲン国際オペラフェスティバルに参加したこともある。いずれも大きな反響を呼んだ。
世界の多くの人が、中国文化の魅力をますます感じるようになってきた。世界各地の文芸団体や関係者が中国を理解したいという強く思うようになった。彼らの訪中目的の中で、中国の伝統劇文化はすでに不可欠な一部になっている。陝西省戯曲研究院はこの5年間で、パキスタンの100人の青年代表団、インドの青年代表団、中欧と東欧の16カ国のベテラン音楽家からなる団体などを受け入れてきた。
中国と外国の交流が密接になるにつれて、中国と西洋の文化は互いに参考にしながら学び合っている。秦腔の現代劇の創作、特に写実的な題材による現代劇の創作は、生活の変化に合わせて変化すべきだ。創作者は多くの体験を通して、人物の内面と外面から出発して役を創造して、劇の筋を完成させる必要がある。このことについては西洋の演劇から学ぶべきだ。
陝西の伝統劇文化の歴史は悠久で、劇の種類も多い。新しいルートや新しい方式を積極的に切り開いて国際文化交流をうまく展開して、中華伝統文化の魅力をアピールしていきたいと願っている。(構成 / 如月隼人)
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