北朝鮮を暦で読む=今年は建国75周年、朝鮮戦争戦勝70年

北岡 裕    2023年6月28日(水) 20時30分

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北朝鮮のカレンダーで節目を補助線として見ると、情勢の見通しも見えてくる。今年は7月27日に朝鮮戦争戦勝70周年、9月9日に建国75周年を迎える。写真は20年11月の北朝鮮。

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この原稿を書き始めた日は6月25日。朝鮮戦争開戦から73年目の日である。ユギオ(北ではリュギオ。625の読み)とも呼ばれる。

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お世話になっている専門書店の店主のご厚意で、毎年北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国のカレンダーをいただき部屋に飾っている。このカレンダーから祝日を書き出し、追記を行ってみた。※のついた日は祝日ではないが注目すべき日である。

【1月】

1日:正月

※8日:金正恩総書記の誕生日(とされる)

22日:旧正月

【2月】

5日:小正月

8日:建軍節。朝鮮人民軍創建日

16日:光明星節。金正日総書記の誕生日

【3月】

8日:国際婦女節(国際女性デー)

【4月】

5日:清明節。先祖のお墓参りをする日

15日:太陽節。金日成主席の誕生日

25日:朝鮮人民革命軍創建記念日

【5月】

1日:メーデー

【6月】

6日:朝鮮少年団創立節

※15日:6.15南北共同宣言(2000年)

※25日:朝鮮戦争開戦日

【7月】

※8日:金日成主席命日

27日:戦勝記念日(北朝鮮側は休戦ではなく勝ったという解釈をしている)

【8月】

15日:祖国解放記念日

25日:先軍節。金正日総書記が先軍政治を始めた日

【9月】

9日:建国記念日

29日:秋夕

【10月】

10日:朝鮮労働党創建記念日

【11月】

16日:母の日

【12月】

※17日:金正日総書記命日

※24日:金正淑氏(金正日総書記の母親)誕生日

27日:憲法記念日

正月よりも旧正月を大きく祝うのは韓国、中国、台湾と同じ。光復節と祖国解放節は8月15日で、その理由は日本からの植民地解放で同じだが、名称を違えると問題になる。祖国は金日成主席によって解放されたという立場を北朝鮮は明確にしているからだ。カレンダーでひときわ目立つ太字なのは太陽節(4月15日)と光明星節(2月16日)。一方で金正恩総書記の誕生日はいまだ祝日とされていない。

メーデー、国際女性デーが祝日というのも社会主義国らしい。韓国で大きく祝い、滞在している日本人は少し言動に気をつけねばならない3.1節(3月1日。1919年の3.1独立運動を祝う日)は祝日ではなく(カレンダーにも注記はない)、5月27日の釈迦の誕生日と12月25日のキリストの誕生日も祝日ではない。

2022年カレンダー。上部には「偉大なる金日成同志と金正日同氏は永遠にわれらと共にいらっしゃる」と書かれている。西暦と共に北朝鮮独自の主体(チュチェ)年号も併記。2022年は主体111年。

自分と関わる国の暦を知っておくことは人付き合いや共に仕事をする上でとても重要である。特に日本国内において朝鮮総連や朝鮮学校をはじめとする在日の組織も北朝鮮の祝日に沿って独自の休日をとっていることが注意点で、ある朝鮮学校の取材の確認ゲラを学校に送った際に、光明星節が途中に入っていたことを失念し、締め切り直前まで返信がなく冷や汗をかいたことがある。

そして、北朝鮮本国の日本人を始めとする訪朝団を受け入れる朝鮮対外文化連絡協会に太陽節や光明星節などに合わせてメールを送ると、非常に喜ばれ、返事が来ることが多い(通常はメールを送っても返信がないことがある)。

さらに、節目を補助線として入れてみると情勢の見通しも見えてくる。今年は7月27日に朝鮮戦争戦勝70周年、9月9日に建国75周年を迎える。5月31日に発射し失敗に終わった軍事偵察衛星について、朝鮮中央通信は同日付記事で「軍事偵察衛星発射時に事故発生」との見出しで「国家宇宙開発局は、衛星発射で現れた厳重な欠陥を具体的に調査解明し、これを克服するための科学技術的対策を緊急に講じ、さまざまな部分試験を経て、なるべく早い期間内に第2次発射を断行すると明らかにした」と伝えた。第2次発射を行うなら7月27日あるいは9月9日のどちらかの前で、国威発揚につなげたいと推測できる。

その日には大規模な軍事パレードが行われ、新しい武器が見られるかもしれない。芸術公演が行われれば、新しい曲の登場、大胆にアレンジされた曲があるかもしれない。興味のある者の視点でもこの日は要注目である。

今は不可能だが、毎回訪朝する際は節目の日周辺を狙うか外すかで迷う。大規模なイベントがある一方で、海外から多くの訪問客があるため現地の案内員が人手不足となり、見学先の希望が通りにくくなる。イベントを狙うか、あえて外して独自のプランの実現を狙うか。個人的にはオフィシャルな主に議員中心の訪朝団なら節目の日を、観光なら節目を外してわがままなプランを通すことをお勧めしたい。

ところで6月15日の弾道ミサイル2発の発射はショックだった。2000年6月15日。6.15南北共同宣言発表の日、私はソウルにいた。12日夜のニュースでは、13日の南北頂上会談は行われない可能性も伝えられていたが実施された。金大中大統領を金正日総書記が順安国際空港で迎えたサプライズ。朝から学校を休み、バスに乗ってソウル駅の街頭テレビを見にいった。嫌になるくらい暑い日で、ジュースを何杯も飲みながらソウル市民の歓喜の声を聞いた。ちょうどその日、釜山に向かう鈍行列車に乗っていた日本人の友人は「車内放送でずっとラジオニュースが流れている」と興奮気味に話していた。

当時、軍事境界線近くで話を聞いた老人は「軍事境界線の向こうに家族がいる」と話し、「北傀(北朝鮮をひどくののしる表現)の金正日が」と吐き捨てた。この会談後、情勢は一気に融和に傾き、その後金正日国防委員長と韓国内の呼称も変わった。

そして帰国して数年後、日本の朝鮮学校の文化祭を訪れた。ちょうど6月半ばで、この南北共同宣言について多く触れていたことが印象に残っている。朝鮮学校の文化祭はこの時期に行われることが多く、コロナのためここ数年公開は途絶えていたが、今年は各地の朝鮮学校で文化祭が行われたようだ。

南北関係は南北共同宣言の後に悪化し、また好転もしたが、ひとつのマイルストーンとして6月15日は存在していた。「統一6.15」という歌も北朝鮮は出していた。

それだけにその日に合わせた弾道ミサイル発射の意味は大きい。あくまで負の意味として。ここに来て強まる南北関係の緊張を23年前の追憶と興奮と共に、また暦を通じてより強く複雑に感じている。

■筆者プロフィール:北岡 裕

1976年生まれ、現在東京在住。韓国留学後、2004、10、13、15、16年と訪朝。一般財団法人霞山会HPと広報誌「Think Asia」、週刊誌週刊金曜日、SPA!などにコラムを多数執筆。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」でコラム「Strangers in Pyongyang」を連載。異例の日本人の連載は在日朝鮮人社会でも笑いと話題を呼ぶ。一般社団法人「内外情勢調査会」での講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。過去5回の訪朝経験と北朝鮮音楽への関心を軸に、現地の人との会話や笑えるエピソードを中心に今までとは違う北朝鮮像を伝えることに日々奮闘している。著書に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」(角川書店・共著)。

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※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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