村上直久 2023年6月30日(金) 8時0分
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米国は原発の稼働に必要な濃縮ウランの調達でロシアに部分的に依存している。資料写真。
米国は原発の稼働に必要な濃縮ウランの調達でロシアに部分的に依存している。米紙ニューヨーク・タイムズによると、米国は必要量の3分の1をロシアに頼り、これに対して年間約10億ドルを支払っているという。米欧など西側諸国がウクライナ侵攻に対する制裁で石油・天然ガスの禁輸をはじめとする厳しい経済制裁を実施している中で、これらの制裁措置と明らかに矛盾している。
代金の支払いはロシア国有の原子力企業ロスアトム(ROSATOM)の子会社に対して行われており、子会社はロシア軍部と密接な関係があるので、同国のウクライナ戦争遂行資金の一部に使われている可能性がある。このお金の流れは、ウクライナ戦争をめぐる対ロ制裁にもかかわらず、米国からロシアに依然として流れている資金のうち最も目立つものだとされる。
こうした状況の背景には歴史的な経緯がある。ロスアトムは原発で燃やす低濃縮ウランだけでなく、核兵器用の高濃縮ウランも手掛けている。さらにロシア軍によるウクライナのザポリージャ原発の占拠にもかかわっているとされる。
1991年末にソ連が崩壊した後、米国など西側諸国はソ連を継承したロシアによる原子力の平和利用を後押しするようになり、そのうちロシアは世界の濃縮ウラン生産の半分を占めるようになった。こうした中で、米国はウラン濃縮から全面的に撤退。今ではウラン濃縮を手掛けている米企業は存在しない。米国はロシアのほかにフランスなど欧州諸国から濃縮ウランを輸入している。ただ、米国では英独蘭合弁企業が小規模なウラン濃縮を行っている。
濃縮ウランで対ロ依存が目立つのは米国ばかりではない。世界では10カ国以上がロシアに濃縮ウランの調達で半分以上頼っている。
米国で濃縮ウランのサプライチェーン(供給網)を再構築するには何年もかかるとみられている。このため米政府は現在の水準を上回る資金を拠出する必要がある。
米国は地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの削減に向けて、太陽光や風力などの再生可能エネルギーだけでなく、原子力エネルギーの利用を拡大する構えも示している。ただ、後者については民主党の一部を中心に安全性の観点などから反対論がくすぶっている。
米エネルギ―省が世界に公約した温室効果ガス削減目標を達成するには現存の原発の総発電能力を倍増する必要があると見積もっている。
米国内の原発がロシアによる濃縮ウランの供給に依存している状況には危ういものがある。ロシアのプーチン大統領は昨年、ウクライナ戦争に絡んで、欧州への天然ガスの供給を全面的にストップさせ、エネルギー取引を”政治的武器”として利用したことは記憶に新しい。同大統領は濃縮ウランの調達における米国のロシア依存を十分認識しているはずだ。
こうした中で、米エネルギー省は最近、米国は濃縮ウランの調達でロシアへの依存に終止符を打つために新型原子炉の開発・稼働などを通じたウラン濃縮の規模拡大の必要性を強調する提案書の草案をまとめた。
米連邦議会ではマンチン上院議員(民主、イリノイ州)が1990年代に民営化された米ウラン濃縮産業を再構築するために連邦補助金の拡充を求める法案を提出した。
ウラン濃縮は高濃度になれば核兵器生産への転用が可能となるので国際政治の場ではセンシティブな問題だが、第二次世界大戦後、核の軍事・平和利用の両面で世界をリードしてきた米国に、ロシアへの濃縮ウラン依存という”アキレス腱“があることに注目したい。
■筆者プロフィール:村上直久
1975年時事通信社入社。UPI通信ニューヨーク本社出向、ブリュッセル特派員、外国経済部次長を経て退職。長岡技術科学大学で常勤で教鞭を執った後、退職。現在、時事総合研究所客員研究員。学術博士。
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