ドラゴンボート（竜舟）をご存じだろうか。中国に起原を持ち、旧暦5月5日の端午節にはレースを行う習慣がある。日本にも伝わり、長崎などではペーロン（白竜）、沖縄ではハーロンブニ（爬竜船）と呼ばれる。東アジアや東南アジアを中心に、オーストラリアや欧米にも伝わり、全世界で5000万人もの愛好者がいるとされる。ドラゴンボートの魅力の源泉は何なのか。中国内外で長年にわたりドラゴンボートのレースや関連文化の普及に努め、中国の国家無形遺産プロジェクトの「『屈原伝説』省級無形遺産伝承者」でもある鄭承志氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、ドラゴンボートにまつわる状況を説明した。以下は鄭氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

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レース開催は農閑期、地元民も他郷に移った人も参加

ドラゴンボートは屈原（紀元前340－同278年）と密接な関係がある。屈原は戦国時代の楚の重臣で、偉大な詩人として高く評価されている。屈原は、楚が台頭しつつあった秦と手を結ぶことは危険だと説いたが、王らに受け入れられず、楚の将来を憂いて入水自殺した。屈原の死後、楚は秦に攻め滅ぼされる。ドラゴンボートの起源を説く伝承は屈原に関係しており、具体的にはそれぞれ違いもあるが、例えば屈原が入水した直後に妹の屈麽姑が兄が入水した場所に「お兄さん戻って」と叫びながら舟を漕いで向かうと、人々が次にと舟を漕いで屈原を探した。先を争うように舟で向かったのでレースが発生したとの言い方がある。

ドラゴンボートのレースは各地でおこなわれるようになったが、屈原の故郷で入水の場所でもあった湖北省のシ帰（「シ」はのぎへんに「旡」。ただし縦画は上に突き出して左上部分はつなげる）で行われるレースの場合には、他の地と違って川を泳いで屈原の魂を招く儀式などが必ず行われる。

シ帰では古くから、レースについて独特の習慣が確立された。ドラゴンボート・レースといえば旧暦5月5日端午節に催されるものだが、シ帰では旧暦5月15日にも開催される。さらに、試合結果に不満なチームがあれば、25日にも開催される。また、各種の宗教的な儀式が厳格に執り行われる。

シ帰では、故郷を離れて暮らす人も、可能な限り帰郷してレースに参加する。農民にとっては、夏に収獲する穀物の農作業が一段落した時期なので、やはりレースに参加しやすい。また、レースは舟の漕ぎ方などによっても細かく分類されている。シ帰ではドラゴンボート・レースが宗教的な儀式であり、文化であり、スポーツであり、そして娯楽でもある。だからこそ、長年にわたり受けつがれてきた。

国もスポーツ競技としての地位を認め、中国国外にも普及

1950年に結成された世界平和評議会は1953年に「世界の有名文化人」を4人選出した。屈原はその一人だった。ドラゴンボート・レースが海外に広まったことは、屈原が海外でも認められたことにも関係していると思う。しかし、ドラゴンボート・レースが海外普及に最も影響したのは、近代になって海外に移住する中国人が増えたことだ。いわゆる華僑や華人が中国国外にドラゴンボート・レースを伝えた。

歴史上の古い時代には、中国南部からベトナム北部にかけては、「越人」と呼ばれる人々が住んでいた。彼らは統一国家を形成せずに、細かい集団が各地にあったので「百越」などと呼ばれる。つまり中国南部の人々と東南アジアの人々は歴史を通じて密接な関係があった。ドラゴンボートが東南アジアに広がったのは、このことも関係しているだろう。それから、ドラゴンボート・レースは日本でも根付いた。

中国政府の旧国家体育委員会は1984年に、ドラゴンボート・レースをスポーツ競技種目にすることを決定し、全国大会を「屈原杯大会」と命名した。大会が軌道に乗り、大会制度が整備されるにつれ、規模も大きくなり、国際的な大会になった。シ帰のドラゴンボート・レースと端午節の際の屈原に関する習慣は、2009年9月にユネスコの無形文化遺産に登録された。

ドラゴンボートは05年の第7回ワールドゲームズで、初めて公開競技に採用された。同年開催の東アジア競技大会では正式種目に採用された。ドラゴンボートはその後、多くの国際競技大会の正式種目となった。国際ドラゴンボート連合会は次第に大規模になった。競技会は増え、規範性も強化されてきた。現在までに世界の90以上の国と地域でドラゴンボート運動の公式組織が設設立され、ドラゴンボート競技会やドラゴンボート運動の関連イベントを定期的に開催している。

国際ドラゴンボート連合会は07年4月に国際競技連盟連合の正式なメンバーとなり、ドラゴンボートの普及の場はさらに広がった。全世界のドラゴンボートの愛好家は5000万人を超えたとの統計もある。

ドラゴンボートの魅力には強い文化発信力も

ドラゴンボートが海外でも受け入れられている理由の一つは、長い歴史を通じて形成された文化が存在することだ。中国では歴史上の多くの詩人が、ドラゴンボートのレースの光景を描写してきた。大きな旗や太鼓など、視覚面でも聴覚面でも勇壮さを強く感じる作品が多い。今のレースでも、歴史絵巻を再現した光景が繰り広げられる。

もう一つは、ドラゴンボートが、国内外の中華民族の子らが中華文化を伝承し発揚する媒体であることだ。台湾の詩人である余光中先生の作品である「漂給屈原」は、「水のあるところには竜舟があり、竜舟が競えば太鼓を打つ者がいる。あなたは太鼓の音に導かれる。……上流から下流まで太鼓の音が響く。前の端午から次の端午まで響く」と歌っている。

私は17年の端午節に台湾の彰化に招かれて屈原文化祭とドラゴンボート競技の式典に参加して、献礼官も務めた。この時には地元の人々に歓迎された。台湾海峡両岸は同じルーツを持つ。そして血に根ざした共通の精神や伝統文化の遺伝子は相通ずるものだ。

ドラゴンボートは西洋のボートやカヌーと違って、ボートには太鼓の打ち手と舵手も乗り込んでいる。ドラゴンボートには西洋式のボートとは全く異なる競技シーンと雰囲気があり、鑑賞性をより高めている。

ドラゴンボートの関係者は、スポーツ、文化、経済などさまざまな分野で成果を上げることを意識している。ドラゴンボートは本質をしっかり守りつつ革新せねばならない。これは、ドラゴンボートの発展が必ず通らなければならない道であり、そうしてこそドラゴンボートによる文化交流の幅と深さを増すことができる。

ここ数年、中国の多くの地域の団体が国外からドラゴンボートのショーや競技会への招待を受け、同時に中国側は国際的なドラゴンボート競技会を何度も組織してきた。われわれは中国の外に積極的に乗り出す一方で、中国の外からの客人を歓迎する。さまざまなドラゴンボート競技会に参加し、開催することがドラゴンボートというスポーツを通じて世界との対話する道だ。ドラゴンボートは中国が世界に対して自らの文化の奥深さを示す媒体の一つになっている。（構成 / 如月隼人）