中国の新エネルギー車業界は従来型メーカーが健闘、新規参入組は苦戦、淘汰の段階へ

高野悠介    2023年7月7日(金) 5時0分

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中国の新エネルギー車業界は昨年、爆発的に成長したが、2023年に入り、早くも自然淘汰の段階に入った。写真はBYDの「元PLUS」。

中国の新エネルギー車(EV車、燃料電池車、PHEV)業界は昨年、爆発的に成長したが、2023年に入り、早くも自然淘汰の段階に入った。ダイナミックに排除されていく。直近のニュースからトピックを取り上げてみよう。

■業界構造…新規参入続く

新エネルギー車業界はおおむね次のように分類できる。

第1グループはテスラBYD比亜迪)の2トップ。

第2グループは新規設立の「造車新勢力」。小鵬汽車蔚来汽車、理想汽車、哪吒汽車、零跑汽車など。

第3グループは国有、民営の従来型自動車メーカー。広州汽車、上海汽車、第一汽車、長安汽車、長城汽車、東風汽車は国有、吉利汽車奇瑞汽車、江淮汽車は民営(BYDも本来はここ)。

第4グループは他業種からの新規参入組。賽力斯(セレス)、恒大汽車など。

さらに新車未発売の企業がある。第2グループではバイトン(拜騰)、第4グループではシャオミの小米汽車が有名だ。

■2023年の販売実績…第1、第3グループが健闘

今年1~5月の新エネルギー車販売実績は以下の通り。

1位 BYD 100万2000台 97.7%増

2位 テスラ 38万3000台 77.4%増

3位 上海汽車 28万台 6.8%減

4位 広州汽車 18万5000台 113.4%増

5位 東風汽車 13万7000台 1.5%増

6位 長安汽車 13万7000台 93.7%増

7位 吉利汽車 11万9000台 49.1%増

8位 理想汽車 10万7000台 124.9%増

9位 第一汽車 8万3000台 100.6%増

10位 長城汽車 6万5000台 30.5%増

第1、第3グループが健闘し、第2グループは理想汽車のみランクイン、他社は苦戦を強いられている。

■バイトンは破産申請

バイトンを運営する南京知行新能源汽車技術開発が6月中旬に破産申請をした。2017年に設立し、スマートカーや自動運転車の開発を指向した。第一汽車、百度、蘇寧、CATL、BOSCHなどと提携し、工場を南京に、自動運転開発研究本部をシリコンバレーに、設計センターをミュンヘンに設置した。人材をBMVやテスラ、グーグルアップルから招聘するなど世界的な陣容だった。2018年4月に南京工場をオープンし、コンセプトカー作りが始まる。同年7月、第一汽車と部品の調達などで戦略提携。ところが2020年7月、コロナ禍の影響で、Cラウンド融資が集まらず、中国本土での事業を一旦中止する。その後、フォックスコンと協力し、最初のモデルM‐Byteの量産を試みる。しかし、結局84億元の融資を使い果たし、量産車を生産できずに終わった。自社工場を建設するなど、資産の大きなビジネスモデルがあだとなった。

■賽力斯のAITO問界シリーズは苦戦

賽力斯は1986年創業の重慶小康が元になっている。2016年にシリコンバレーに研究所を設立し、中国と米国の双方で研究開発を行ったが、すぐに国内へ回帰した。その後2019年にファーウェイと提携関係を結ぶ。2021年4月に共同開発車をファーウェイの販売チャネルで発売すると発表。同年12月、AITO問界M5(24万9800元~)がデビューした。2022年8月には大型SUVのAITO問界M7(31万9800元~)も登場した。売り上げが伸び、8月単月では初の1万台を達成し、10月は1万2000台となった。通年では7万5000台を販売し、国内勢最大のダークホースといわれた。

しかし2023年に入り、失速する。1月は4475台、2月は3505台、3月は3679台、4月は4585台、5月は5629台と、1万台は遠くなり、賽力斯の株価(上海市場)は昨年7月の最高値から60%以上落ち込んだ。

ファーウェイは3月、「自動車は生産しない」と表明、改めてスマートカーのサプライヤーに徹するとした。ファーウェイの2022年決算における自動車事業の売り上げは20億7700万元で、全体の0.32%に過ぎない。ただし赤字額は82億元に及ぶ。採算ラインには100万台が必要とされ、これはかなり厳しそうだ。

■異業種から参入した恒大は青息吐息

不動産大手、恒大集団の創業者・許家印氏は2017年にEV車へ進出すると、「2035年には年産500万台を達成し、世界最強のEV車企業になる」とぶち上げた。しかし2020年8月以降、周知のように本業が経営再建に追い込まれる。

それでも何とか事業を継続し、2022年10月末に中型SUV「恒馳5」の最初の100台がようやくユーザーの手に渡った。

しかし、従業員解雇や賃金未払い、無休待機、生産停止などの不穏なニュースが後を絶たず、2023年第1四半期の1万台納品計画はまず不可能とみられた。さらに4月に休業が明らかになると、誰もがゲームセットと思った。ところが5月中に生産を再開し、5月末までの累計納品台数は1000台になったと発表した。しぶとさを見せつけたが、月販平均は200台で、EV車業界の最下層にへばりついているだけに過ぎない。さらに新車の発売と量産を実現するには290億元(約5800億円)の資金が必要という。ファーウェイならともかく、今の恒大にこの額が集められるとは誰も思っていない。

■結局、従来型メーカーに集約か

テスラを別にすれば、生産設備を所有する従来型メーカーが健闘している。造車新勢力はよく話題に上るものの、販売上位にランクインしているのは理想汽車だけだ。量産経験の豊富な従来型企業へと集約しつつあるように見える。生産設備の新たな取得はやはりリスクが大きすぎる。結局、造車新勢力を始めとする新規参入組の大部分はEV界に彩りを添えただけのあだ花に終わることになりそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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