メコン川はチベット高原に源を持ち、ベトナムで海に流れ込む国際河川だ。沿岸国は中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの6カ国に及ぶ。大きな国際河川の管理では沿岸国の協調が極めて重要だ。雲南省社会科学学院ラオス研究所の趙ジュ嵐所長（「ジュ」は女へんに「朱」）はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応えて、メコン川をめぐる流域6カ国の協調は極めて良好と説明した。以下は趙所長の説明を整理するなどで再構成したものだ。なお、中国ではメコン川の自国内部分を「瀾滄江（ランツァンジァン）」と呼ぶので趙所長の発言には「瀾滄江」と「湄公河（メコン川）」が入り混じるが、本稿では煩雑さを避けるために「メコン川」に統一した。

メコンを利用した往来で異なる文化に共通性が出現

メコン川は全長4880キロで、流域の約80万平方キロの3億2600万人を養ってきた。メコン川は古くから、輝かしい文明と「世界の穀倉地帯」を育み、沿岸各国の人々の「黄金の水路」でもある。

経済面で言えば、メコン川流域の市場規模は大きく、発展の潜在力も大きい。沿岸の自然資源は極めて豊富だ。メコン川は沿岸国の人や物資が往来する交通の大動脈でもある。

メコン川の流域は、文化も自然も多様という特徴がある。多様な文化背景を持つ人々が、メコン川を行き来してきた。かつては辺境地帯にメコン川以外にめぼしい交通ルートがなかったので、人々は結婚や宗教・祝祭行事に出かけるにもメコン川を大いに利用した。この状況は現在も続いている。

メコン川流域の文化は多様だが、共通部分もある。例えばタイ語でソンクラーンと呼ばれる水かけ祭りは、中国国内ならばタイ族、アチャン族、トーアン族、プーラン族の重要な祭りであり、中国以外ではタイ、ミャンマー、ラオス、カンボジアの最も盛大な祭だ。メコン川流域の多民族には「同源の文化が分化していく」と「起源が多様なそれぞれの文化で融合が生じる」という両方の現象が存在する。このことがメコン川諸国の発展における協力の深い基盤になっている。メコン川の流域国の多くはインフラが脆弱（ぜいじゃく）で資金不足が比較的深刻であり、貧困人口が多く、工業化と現代化に向けての発展の難題に直面している。そのためいずれも、経済を発展せねばならないという思いは切実だ。

流域に大きな恵みをもたらし、これからももたらしてくれるメコン川には、特有の問題もある。例えば国境を越えた麻薬の密売や密輸、人身売買などだ。対策をしっかりと施すためにも6カ国は協力を強化する必要がある。また、経済発展のためにメコン川を活用したいとの考えは6カ国に共通しているが、環境保護とも調和させねばならない。6カ国は最終的に持続可能な発展をいかにして実現するかという課題に直面している。

政治面でも協力の深化を強く意識

メコン川沿岸6カ国の指導者は2016年3月23日、中国海南省の三亜市内でメコン川協力の初の指導者会議を開催して、新型の地域協力メカニズムの始動を共同宣言し、平和と繁栄に向けたメコン川諸国運命共同体の建設を一致して決定した。

メコン川についての協力は7年前からの誕生期、急速拡大期を経て、全面発展の新たな段階に入った。そして政治面の安定、経済と持続可能な発展、社会と文化の「3本柱」、相互接続、生産能力、国境を越えた経済、水資源、農業、貧困削減の「五つの優先する協力の方向」でいずれも大きな成果を収めた。デジタル経済、環境保護、衛生、税関、若者対策、持続可能な発展、地方協力、伝統医薬などの新たに組み込まれた分野での協力でも、絶えず進展が見られる。21年12月3日の中国・ラオス鉄道の全線開通は、瀾滄江-メコン川流域6カ国の相互接続分野での協力が深まりつつあることを示すものだ。

中国とメコン川流域の他の5カ国との貿易は22年に前年比5%増の4167億ドル（約61兆2000億円）だった。中国が5カ国から輸入した農産物の総額は22%増だった。

メコン川の特色を最も備えた持続可能な発展協力は、水資源での協力だ。中国は川下諸国の水資源供給を確保することに全力で努力している。また、メコン川流域諸国と中国国内部分の水量などの情報を共有するシステムを構築した。そしていくつもの実務協力プロジェクトを共同で実施することで、沿岸各国と手を携えて気候変動の課題に対応し、各国の水資源管理能力を高めている。大プロジェクトだけでなく、「小さくて素晴らしい」プロジェクトもある。例えば30カ所余りの農村飲用水安全モデルプロジェクトの展開だ。

6カ国はメコン川関連の協力によって密接に結ばれており、世代から世代へと受け継がれてきた伝統的な友好関係や、実りある互恵協力によって、「水は万物に通ず、競わず」という東洋哲学を実証している。

流域国は「互いの快適さ」に十分に配慮

メコン川協力は隣国間の友好交流の模範になっている。流域諸国は善隣友好の協力原則を貫き、国の大小、強弱、貧富を問わず一律に平等である理念を堅持し、何かあったときは相談して処理している。各国が「互いの快適さ」に十分に配慮しているわけだ。中国が新型コロナウイルス感染症との最も苦しい戦いを強いられた20年には、カンボジアなどメコン諸国は中国に貴重な支援を提供した。その次は中国が支援する番だった。中国は21年末までに、無償援助や商業調達などを通じてメコン5カ国に計約1億9000万回分のワクチンを提供した。

川を通じての協力の模範になった6カ国は、開放・包容、協力・ウィンウィンの精神を堅持し、洪水や干ばつ災害、新たなタイプの問題への対応などの課題に積極的に対応し、平和と安定、団結と調和、持続可能な発展の地域環境づくりに力を入れている。メコン川沿岸6カ国は新興国としてのメカニズムを構築し、質の高い「一帯一路」の共同建設の成功例をつくり上げた。6カ国はここ数年来、メコン川協力と東南アジア3大河川流域メカニズム、大メコン川地域地域経済協力、メコン川委員会などのメカニズムの相互促進、協調発展を積極的に推進し、東南アジア諸国連合（ASEAN）共同体の建設を共に後押しし、地域管理の改善に大いに貢献してきた。（構成 / 如月隼人）