BRICS拡大、中国主導で欧米秩序に挑む=米中、実利求め対立緩和へ―日本は「経済重視独自路線」取れ

八牧浩行    2023年9月1日(金) 9時0分

拡大

BRICS首脳会議が8月下旬、南アで開催され、新たに6カ国の加盟を認めた。「グローバルサウス」を代表する枠組みとして欧米主導の国際秩序に挑戦する姿勢を示した格好だ。

中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカで構成する新興5カ国(BRICS)首脳会議が8月下旬、南アで開催され、新たにアルゼンチン、サウジアラビア、エジプト、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア6カ国の加盟を認めた。「グローバルサウス」を代表する枠組みとして欧米主導の国際秩序に挑戦する姿勢を示した格好だ。

中国の習近平国家主席はBRICS首脳会議で演説し「20カ国以上がBRICSへの加盟を申請した。この事実は、この枠組みの活力と吸引力、国際情勢における戦略的価値を十分に示し、新興市場・途上国の共通の利益にも合致する」と強調した。

中国は加盟5カ国で世界の人口の40%以上、国内総生産(GDP)の25%超を占めるBRICSや中露主導の上海協力機構などを、主要7カ国(G7)など米欧陣営への戦略の中核に据え、新たな国際秩序の担い手となることを目指す。今回新加盟のサウジアラビアとイランに対しては、3月に国交正常化も仲介。米国の影響力が低下する中東での存在感も高めている。

中国通貨の人民元の国際的な地位向上につなげる狙いもある。これまで、ロシアではウクライナ侵攻を受けた金融制裁で米ドルの確保が難しくなったため、人民元での決済が急拡大。ブラジルや新加盟のアルゼンチンでも中国からの輸入時に新たに人民元決済を認める動きが広がる。習氏は昨年末にサウジや、同じく新加盟国のアラブ首長国連邦などに対しても、石油や天然ガス貿易での人民元利用を呼びかけていた。

加盟希望国など60カ国の首脳が集結

イランやサウジアラビアなど中東4カ国の新規加盟を認めたことで、BRICSは一気に中東地域へ拡大することになる。特に核開発疑惑を巡る米国の経済制裁に苦しむイランにとっては、BRICS加盟によりドル以外の通貨を用いた貿易や投資が拡大すれば経済復興への足掛かりとなる。


BRICS会議の議長を務めたラマポーザ南ア大統領は「BRICSは、公平で、包摂的で豊かな世界を構築する取り組みの新たな章へと乗り出した」とアピール。今回の拡大を「第1段階」とし、さらなる拡大の可能性を表明した。BRICS会議最終日の8月24日には、加盟希望国など計60カ国の首脳が集まり、さらなる発展を予感させた。

過去20年で米国の力は衰退し、力をつけた中国との対立が深まっており、ロシアによるウクライナ侵攻が重なった。世界が分断されていく中で、相対的にBRICSの存在感が増している。

日本は日米韓の連携強化や日米豪印によるQUAD(クアッド)など、対中包囲網とみられる枠組みに前のめりになっているが、欧米だけでなくグローバルサウスなど途上国との協力を推進することこそ、アジアの主要国・日本の生きる道。拡大BRICSと欧米との橋渡しを目指す「バランス外交」に踏み出すべきだ。さらに日本独自の「経済重視路線」を貫く必要がある。

米中、経済貿易分野で対話・協力

こうした中、米中対立の緩和に向けた動きが出てきた。特に積極的なのは米国だ。6月のブリンケン国務長官の訪中以来、閣僚クラスとして4人目の訪中となるレモンド商務長官が8月下旬に北京入りし8月29日、中国の李強首相と会談した。レモンド氏は「中国の成長を抑止して中国とデカップリング(分断)しようとしているわけではない」と語り、李氏も「中国は米国と経済貿易分野で対話・協力を深めることを望む」と応じた。


レモンド商務長官はカウンターパートの王文濤商務相との会談で、貿易や投資に関連する問題を解決するための協議体を設置することで合意。半導体などの輸出規制について情報共有する枠組みも設けることになった。声明によると、この協議体には次官級の政府高官と民間部門の代表者が参加。2024年以降年2回開催する。

米国は半導体製造装置の対中輸出が半減し、関連業界は大きなダメージを受けている。航空機、自動車など他の産業分野についても、米中対立による打撃が甚大なため、ビジネス機会の減少に金融産業界の不満は高まっている。「世界最大の市場(中国)を失うな」と猛烈なロビー運動を展開している。バイデン政権は半導体の対中規制をトーンダウン、軍事開発に直結する分野に限定する方針だ。

経済状況が低迷する中国にとっても米国との取引再拡大は利益に合致する。拡大BRICSを中心に米欧と一線を画す動きが広がる中での米国の「対中軟化」姿勢。米国滞在が長い日本の商社幹部は「もともと米国は金融産業の発言力が強い合理主義の国。中国の国際社会でのプレゼンスの高まりに対する米国の焦りもあるようだ。選挙に訴えるため議会など政治勢力は対外強硬姿勢を取り、対立緩和勢力を“軟弱”と批判するが、今米国にとって重要なのは経済の安定と拡大だ」と分析している。

米国では雇用関連指標が下振れし、23年4~6月期の実質国内総生産(GDP、改定値)も前期比年率2.1%増と、速報値(2.4%増)から下方修正されるなど経済低迷が継続。さらに1960年以来の米脚本家組合と俳優組合のストライキが泥沼化するなど各地で紛争が起きている。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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