<拡大BRICS>中国の影響力が増大、中東戦略も絡む―米国主導の国際秩序に対抗

山崎真二    2023年9月13日(水) 7時30分

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新興5カ国は先の首脳会議で6カ国の新規加盟を決定した。今回のBRICS拡大では中国の影響力増大が顕著になっただけでなく、中東戦略も垣間見える。写真はサウジアラビア。

中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカで構成する新興5カ国(BRICS)は先の首脳会議で6カ国の新規加盟を決定した。今回のBRICS拡大では中国の影響力増大が顕著になっただけでなく、中東戦略も垣間見える。

加盟国増加で存在感高まる

南アフリカのヨハネスブルクで開かれたBRICS首脳会議で新規加盟が認められたのはイラン、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアの中東アフリカ5カ国と南米のアルゼンチン。人口ではエチオピアは約1億2000万人、エジプトは1億1000万人、イランは9000万人を擁しており、来年1月1日に新規6カ国が正式メンバーとなれば拡大後のBRICS全体の人口は世界の46%にもなる。世界のGDPに占めるBRICSのシェアも28%に上昇する。特筆すべきはエネルギー面だ。世界の原油生産量(2022年)で見ると、BRICSの創設メンバーである中国は6位、ロシアは3位、ブラジルは9位であり、新規加盟のイランは8位、サウジは2位、UAEは7位に名を連ねている。この結果、世界の原油生産の40%強をBRICSが占めることになる。インド、ロシア、ブラジルという世界有数の穀物生産国に加え、南米の穀物大国アルゼンチンがメンバーになることも見逃せない。国際経済におけるBRICSの存在感が高まるのは確実だろう。

主導権握ったか―中国

BRICS拡大は中国とロシアが実現に向け積極的に動いてきた。中国は加盟国を増やすことで国際社会でのBRICSの発言力を強め、米国が主導する国際秩序に対抗する狙いがあるというのが一般的な見方。ロシアはウクライナ戦争での西側諸国の制裁による孤立状態から脱却を図るためBRICS拡大を支持しているとみられる。また、中国としては自らのイニシアチブで友好国を新たに加盟させることでBRICS内の主導権を確保したいとの思惑があることも確かだろう。これに対しインドは「クワッド(日米豪印戦略対話)」の一員でもあり、BRICSが米国に対抗するブロックになることには反対で、とりわけ国境紛争を抱える中国の影響力増大を強く警戒しているのも事実。また、ブラジルのルラ政権は左派色が強いものの、米国との関係にも気を遣っており、「われわれはG7や米国への対抗勢力にはなりたくない」(ブラジル外務省高官)という立場だ。

だが、今回のBRICS拡大は中国がインドやブラジルを抑えて自らの目的を達成することに成功した格好。「6カ国の新規加盟はBRICS内での中国の影響力増大を象徴する動き」(米有力シンクタンクのBRICS専門家)とみていい。

中国の「中東戦略の一環」

とりわけ注目されるのは、イランとサウジの新規加盟である。中国は過去数年間、この両国に急接近し関係強化を図ってきた。2021年に中国はイランとの間に「包括的協力協定」を結んだ。これは25年間にわたり中国がイランのエネルギー開発やインフラ整備に総額4000億ドルを投資する見返りにイランは中国に対し市場価格より安く原油を提供するというのが主な内容。今年2月、習近平国家主席はイランのライシ大統領を北京に招き、計20に上る新たな両国間の協力文書にも調印している。一方、対サウジ関係では昨年12月、習近平主席がサウジを訪問、イランと同様の協定を締結した。中国がサウジ産原油を安定的に確保するとともに「一帯一路」構想にサウジを取り込むことが最大の目的とされる。

石油依存からの脱却を図るサウジは中国からの巨額投資やインフラ支援を期待しているようだ。イランとサウジはこれまで中東の覇権争いを演じてきた。イスラム教スンニ派のリーダーを自任するサウジにシーア派の大国イランが対抗する構図である。その敵対国同士が今年3月、中国の仲介で関係正常化で合意したのは大きなサプライズである。

中東で中国の影響力拡大への動きはこれだけにとどまらない。中国はイスラエルパレスチナ自治政府の仲介にも乗り出すなど中東和平問題への直接関与にも意欲的。「イラン、サウジのBRICS加盟を中国が積極的に後押ししたのは、米国に代わり自国が中東の後見役を果たそうとする中国の戦略の一環」(米有力シンクタンクの中東問題専門家)との分析に納得する向きも多いはずだ。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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