北京が中国全国の首都になったのは1270年だ。元のフビライ帝が故郷のモンゴル高原にあるカラコルムから正式に遷都したからだった。現在から約750年前であり、中国の歴史全体を考えれば、「中国の首都・北京」の歴史はそれほど長くない。ただし現在の北京はそれよりはるか昔から、中国北部の重要な都市だった。北京はその長い歴史を通じて中国全国の首都として機能しうる条件を育ててきたとも言える。北京市考古研究院の郭京寧氏院長はこのたび、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、解明が進みつつある極めて古い北京の状況を説明した。以下は院長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

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考古学により「史記」の記述の正しさが実証

司馬遷は「史記・燕召公世家」の中で、「周武王が殷の紂王を滅ぼし、召公を北燕に封じた」と記録している。科学的な考古学がなかった時代には、この記述が北京の歴史の出発点とされた。

北京市市房山区にある瑠璃河遺跡は、3000年以上前の西周時代（紀元前1100年ごろ－同771年）の都市建設を示す遺跡だ。発見されたのは1940年代で、60年代初めに小規模な試掘が行われた。70年代からは5回の大規模な発掘が行われ、西周時代の城壁跡、上流階級の墓、宮殿建築区、手工業作業場の遺構などが発見され、多くの精美な文化財が出土した。うち伯矩鬲と呼ばれる青銅器は首都博物館の最も重要な宝となった。堇鼎は北京地区で出土した最大の青銅器だ。

2019年には瑠璃河遺跡の市街区と墓葬区の考古学作業が再開された。この作業で西周初期の墓5基、家屋跡3基、城壁の外に設けられたと見られる環壕1本が発掘され、銅器、漆器、陶器、海貝、象牙器など各種文化財100点余りが出土した。この調査で青銅器に刻まれた銘文が初めて見つかった。銘文には「築城」を意味する「墉」という文字があった。このことで、この場所で都が作られたことが判明した。銘文には「匽侯宫」の文字もあり、大きな宮殿があったことが示されている。

つまり、瑠璃河遺跡の調査により、現在の北京の地が周初期の燕国の封地であり、燕国の最初の都邑だったことが分かった。これは、史記の記述の正しさが証明されたことでもある。

北京で出土した殷代や周代の実物資料は少なく、瑠璃河遺跡で出土した伯矩鬲や堇鼎は北京の悠久の歴史の重要なシンボルだ。さらに、多くの陶器は先住民や周由来の姓を持つ人、あるいは殷の遺民など多様な文化要素が共存していた状況を反映している。また、多くの実物により西周時代の分封制度や礼楽制度についての記録が裏付けられた。

北京は3000年前の西周の封国の都であり、漢代には郡県の一つとして中国北部の統治の重要な拠点になった。唐代には辺境の軍事的要所であり、金代以降はまず地方政権の、さらには中国全国の首都として機能した。考古学は北京が小さな集落から出発してから全国の首都にまで発展した過程を明らかにしてきた。

古い歴史を探る考古学が未来に向けて進化中

瑠璃河遺跡の発掘過程はまた、新たな時代の北京の遺跡保護の理念を具体化した。考古学の重要な目的の一つに「より良い保護」がある。瑠璃河遺跡では現在、国家考古学遺跡公園が建設中だ。

瑠璃河考古学遺跡公園では科学的な考古学を通じて、地下の重要な遺構を展示し、来場者が3000年の歴史を「目撃」できるようにしていく。豊富なだけでなく、生き生きとした歴史の状況を示す。そのためには、考古学の発掘と公園建設関係者の共同の努力が必要だ。

世界文化遺産への登録も、瑠璃河遺跡の今後の努力目標だ。琉璃河遺跡は面積5.25平方キロのかなり大きい遺跡だ。世界遺産登録を契機として遺跡全体の保護を強化すれば、その歴史や文化面での価値を最大化するのに役立つだろう。

北京市は2014年に「北京市地下文物保護管理弁法」を施行した。中国全国の各省が手本にすることになった、開発の際には着工前の考古学調査を義務付けるなどの規則だ。

私が考古学に従事した20年は、北京で考古学上の驚きの発見が相次いだ時期でもある。房山では唐代の幽州節度使だった劉済とその妻の墓が発見され、延慶では科遼代の鉱山冶金遺跡群が発見され、北京都市副センター建設に先立つ考古学探査では前漢の遺跡が発見された。

北京における考古学的な方法と技術上の変化も注目を集めている。例えば学際的考古学が必須になったことだ。路県故城では、植物学の研究により漢代の人が五穀雑穀を食べていたことが分かった。学際的協力により、考古学の学術性が強化された。

北京市ではまた、大遺跡に関連する地理情報システムが構築されつつある。人工衛星から撮影された画像を用いるリモートセンシングなどにより探査や発掘の成果を統一された「1枚の図」にするとともに、カメラで発掘の全過程を記録し、層ごとに図面を描き、3次元モデルを構築する。この手法により地下の文化財資源のデータバンクを形成し、都市改造や工事の計画に参考を提供することができる。もちろん、この「1枚の図」は考古学上の発見のたびに更新されていく。

考古学の多国間協力は必須であり必然でもある

瑠璃河遺跡は中華文明の多元的な一体化の実例だ。考古学調査で発見された遺物の中には、車や馬に関連する北方の少数民族の文化を示す要素や、矛や金や銀のメッキなど長江流域由来の文化的要素もある。海貝なども見つかった。これらは、多地域の文化が交錯し、共生し、多元的要素が融合していた文化現象を示している。つまり、北京が古くから多民族融合の地であったことを物語っている。

北京は中原地区から北東へ向かう交通の要所だった。多くの出土品は韓国、日本、朝鮮、モンゴルでも同類のものが出土している。琉璃河遺跡以外でも、中国とアジアの他の地域との交流の証拠が発見されている。例えば、北京の豊台で発見された金代の貴族の墓からは「高麗青磁」が出土したが、これは当時の高麗が中国の竜泉窯を模して開発した磁器が、再び中国にもたらされたものだ。つまり当時の両国の文化交流を実証する文化財の一つだ。

文明は交流によって多彩になり、文明は相互参照によって豊かになる。中国と外国の考古学協力は必須であり、必然でもある。考古学の本質は古代人類と古代人の社会交流の歴史状況を明らかにすることであり、中国と外国が協力と交流をしてこそ、歴史に対する認識を深めることができる。（構成 / 如月隼人）