「ハープ」というと、西洋クラシック音楽の楽器を連想するのではなかろうか。西洋の楽器の先祖をたどると、多くの場合には西アジアやエジプトなどが発祥の地だ。そして、多くの楽器が東にも伝わり、中国さらには日本にも伝わった。ハープもその例に漏れずに東進して、中国さらに日本にも伝わった。ハープ系の楽器は東アジアでは「箜篌（コンホウ、くご）」と呼ばれる。中国で古い時代の箜篌が特に出土するのは、新疆ウイグル自治区などだ。新疆ウイグル自治区博物館考古部に所属する魯礼鵬氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、新疆およびその他の地域での箜篌の出土状況や、当時の社会における楽器の使われ方などを紹介した。以下は魯氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

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新疆では紀元前の箜篌が次々に出土

箜篌あるいは箜篌に相当する楽器は多くの文献や壁画で扱われている。最も古い記述は紀元前3200年ごろのシュメールのウルで発見された。新疆では4－10世紀の数カ所の石窟壁画で、箜篌の絵が見つかっている。ウルでは紀元前2500年前後の箜篌が出土している。さらにメソポタミア、アルタイ地方、パミール高原にかけて、紀元前8世紀から紀元2世紀のものとみられる箜篌が出土している。

中国では1996年に、新疆ウイグル自治区のチャルチャン県にあるザグフンルク遺跡墓地から紀元前5世紀前後の箜篌3点が出土した。

中国ではザグフンルク遺跡で箜篌が出現するまで、箜篌については壁画や彫刻、あるいはそれらから復元された楽器の研究にとどまっていた。実物の箜篌の出土には、中国の音楽史の空白を埋める画期的な意義があった。

関係者がさらに興奮したのは、ザグフンルク遺跡に続いて新疆の数カ所で箜篌の出土が相次いだことだった。うちエスケシャルル南墓地では11点も出土した。

漢族地域である中原での箜篌については、漢代の文献に記録されている。また甘粛省では敦煌の莫高窟など、陝西省では銅川薬王山石窟の壁画にも見られる。西安では箜篌の絵がある出土品もある。これらから、敦煌が仏教に伴って中央アジアから中国の新疆や甘粛省の河西回廊に伝わった過程がはっきりと分かった。

新疆で発見された箜篌は24点に達した。出土数が多く大部分の保存状態が比較的良好だ。新疆の天山以南の乾燥と雨の少ない自然環境が関係している。

西アジアの箜篌と新疆で出土した箜篌の形状には若干ではあるが明らかな違いがある。新疆で出土した箜篌はすべて同じタイプだ。新疆では箜篌の独自の様式が確立した。このことについては、新疆には箜篌の実物がもたらされたのではなく、西からの情報を吸収した地元の人たちが自分たちで作った可能性があるとの指摘がある。いずれにせよ新疆での箜篌の現地化は、文明の相互参照を如実に示す例だ。

大流行した箜篌だが、その後は失われる

箜篌は音色が清らかで、霊感を呼び起こす。中原地域では漢の武帝が箜篌の美しい音に心酔して宮廷楽師に箜篌の制作を模倣させ、改良させた。さらに楽府という音楽を扱う役所の専門家に、民間から採集した音楽を整理・編曲させたという。漢楽府の有名な長編叙事詩「孔雀東南飛」にも箜篌が登場する。

魏晋南北朝時代はさまざまな民族が融合した時代だった。中国音楽には新鮮な血が多く流れ込こんだ。西域音楽は当時の流行音楽だった。唐代でも箜篌は帝王から高く評価された。箜篌は隋・唐時代の宮廷の娯楽音楽であった燕楽の中で重要な楽器だった。李白や王維などの重要な詩人も箜篌を詠んだ。ただし箜篌は宮廷では重視されたが、民間では衰退していった。

北宋のころも、宮廷の燕楽では箜篌が流行していた。しかし明末ごろになると、史書や詩、雕刻画業にではほとんど扱われなくなった。箜篌は忘れられていった。

1930年代から中国の音楽界や学界の先輩が箜篌の再現を試みるようになった。箜篌が再び人前で演奏されるようになったのは1980年代だ。

箜篌は東西文明の交流の証人、復活への努力が続く

新疆は歌と踊りの里であると同時に、楽器の里でもある。歌と踊りと楽器演奏は、新疆の各民族の人々の生活に欠かせない。新疆のチャルチャン県では学校が箜篌を導入して普及させた。箜篌の文化を発揚し、さらには箜篌の文化遺産を保護し、箜篌文化が名声を獲得するための力強い措置だ。

新疆は中国の西北、ユーラシア大陸の奥地に位置し、古来より東西経済・文化交流の重要な通路であり集積地だった。新疆には多様な文明と宗教が伝わった。中華文明の懐の中で育まれた新疆の各民族の文化は歴代の発展を経て、中原文化との交流と融和が絶えず強化され、中華文化の構成部分となった。新疆文化は中原文化などと共に、多元的で一体的な、輝かしい中華文化をつくり上げてきた。（構成 / 如月隼人）