日本経済、ぬるま湯に安住してGDP4位転落=競争力強めるスポーツ界との違いは?

長田浩一    2023年11月28日(火) 7時30分

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国際通貨基金によると、今年の日本の名目国内総生産はドイツに抜かれて世界4位に転落する見通しだという。写真は都内。

国際通貨基金(IMF)によると、今年の日本の名目国内総生産(GDP)はドイツに抜かれて世界4位に転落する見通しだという。短期的には円安の影響が大きいが、より根本的な理由は30年以上も続く総合的な経済力の劣化だろう。3年後にはインドにも追い越される可能性があり、経済大国でございと胸を張れる時代は過ぎ去りつつあるようだ。一方で昨年から今年にかけてスポーツ界、とりわけ人気の高い団体ボールゲームでの日本勢の活躍が目立ち、アジア諸国から羨望のまなざしを向けられているという。スポーツの躍進と経済の低迷、このテーマについては昨年2月の当欄でも触れたが、改めて考えてみたい。

野球サッカー、ラグビー…アジア首位が目白押し

今春行われた野球のワールドベースボールクラシック(WBC)では、日本は決勝で米国を下し、3度目の世界一に輝いた。世界最高峰の米大リーグでは、投打二刀流の大谷翔平選手が打者として本塁打王を獲得するとともに、投手として2桁勝利を挙げ、満票で今シーズンのアメリカンリーグ最優秀選手に選出されたのは記憶に新しい。日本は、かねてから米国と並ぶ、あるいはそれ以上の野球王国だが、その地位は一段と盤石になった感がある。

世界で最もポピュラーなスポーツであるサッカーでも、昨年暮れの男子のワールドカップ(W杯)で日本はドイツ、スペインの優勝経験国を連破して決勝トーナメントに進出。今年に入っても、ドイツを敵地で返り討ちにするなど好調を維持し、世界ランクでアジアトップの座を堅持している。また、夏の女子W杯でも、中国や韓国が早々に姿を消す中、日本は優勝したスペインにグループリーグで快勝してベスト8に進出した。

秋のラグビーW杯では、日本は2勝しながら決勝トーナメント進出を逃したが、断トツのアジアトップの座は全く揺らいでいない。さらに、近年低迷した時期もあったバスケットボール、バレーボール、ハンドボールでも、今年は男子を中心にW杯やオリンピック予選で好成績を収めた。

アジアのスポーツ大国といえば人口が10倍多い中国だ。個人競技中心にオリンピックやアジア大会の金メダル数では日本を上回る。しかし団体ボールゲームでは、野球、サッカーとも日本には遠く及ばず、ラグビーではさらに影が薄い。バスケとバレーでは、女子は現在の世界ランクで中国が上だが、男子は日本の方が上位。全体を俯瞰すれば、これだけ多くのボールゲームでアジアのトップないしそれに近い順位にいる国は日本だけ。世界全体を見ても、かなり上位につけているはずだ。

日本の場合、特に男子では運動能力に秀でた優秀な人材が野球に流れている。これは、アジアでは韓国と台湾くらいにしか当てはまらない特殊事情だと思うが、それにもかかわらず他の競技でも好成績を収めている事実は、大いに評価されていい。

厳しい環境が選手を鍛える

では、日本がこのように団体ボールゲームで強みを発揮しているのはなぜか。まず考えられるのが、協調性を尊ぶ日本人の気質がチームゲームに適しているということ。選手強化の面では、学校の部活動と、地域のスポーツクラブの2つのルートで選手が育成され、切磋琢磨していることが好循環を生んでいるのかもしれない。

もう一つ、サッカーなどでは選手たちが海外に積極的に進出し、より厳しい環境でプレーしていることが大きい。これは昨年のコラムでも触れたが、現在欧州各国のサッカーリーグには60人から100人の日本人選手が在籍している。そこでは地元欧州はもちろん、中南米やアフリカなど世界中からやってきた野心にあふれた若者たちとの熾烈な競争が待っている。技術的にはもちろん、フィジカル的にも精神的にもタフでなければ評価されず、試合にも出られない。現在の男子の日本代表チームは、9割方が欧州のチームに所属している選手で構成されるが、彼らはまさにそうした競争の勝者たちだ。

野球でも野茂英雄投手以来、次々と選手たちが米大リーグに挑戦しており、最近はラグビーやバスケ、バレーでも海外進出する選手が増えてきた。彼らは厳しい環境でプレーすることで、個人としてさらに鍛えられ、その競技の代表チームの底上げに貢献している。

国民と企業を甘やかしてきたツケ

翻って低迷する経済である。実は、今世紀初頭の時点では、日本の名目GDP(ドル建て)はドイツの2倍を上回っていた。それが20年余りの間で追いつかれ、追い越されるというのはあまり前例のない事態ではないか。人口の多い中国やインドが経済発展して日本を追い越していくのはある意味で自然だ。しかし、人口が日本の3分の2しかないドイツに抜かれるとしたら、日本人は眠っていたのかと言われても仕方ない。

個人的な話で恐縮だが、私が経済記者として欧州に赴任した30年余り前、欧米では日本の経済進出にどう対処するかが大きな関心事となっていた。毎年1~2月にスイスで開かれるダボス会議は、世界の政財界トップが集まってタイムリーなテーマについて議論する場として有名だが、私が取材した1990年のテーマはそのものずばり「JAPAN」。また、90年代前半に日米関係について記事を書く際には、外務官僚の口癖を借用して「世界で最も重要な二国間関係」という枕詞をつけたものだった。そんな時代を経験した私にとって、現在の惨状は受け入れがたい。年寄りが時代遅れの大国意識を引きずっているだけと言われればそれまでだが…。

こうした日本経済の低迷の理由については、多くの専門家がさまざまに分析しているが、低金利と放漫財政で国民と企業を甘やかし続けた結果、リスクを取る姿勢が後退し、非効率な制度や本来淘汰されるべきゾンビ企業が生き残っていることが大きな要因ではないだろうか。「月刊文芸春秋」12月号に、「憂国グループ2040」という匿名の集団が「日本の危機の本質」という論考を寄稿しており、その中でアベノミクスの柱だった金融緩和について「結果として、企業や個人を長期にわたってぬるま湯に放置し、既得権を守ることに貢献してしまったことは否定できない」と断じている。その通りだろう。自らを高めるため、進んで厳しい環境に身を置くアスリートたちとは正反対の政策だったのではないか。

高齢者は資産課税強化受け入れを

最近の“ぬるま湯政策”の代表が、エネルギー価格上昇の影響を抑制するための補助金だ。ガソリン価格や電気・ガス料金の値上がりは企業や消費者にとって痛いが、別の見方をすれば、節約や省エネによりエネルギー消費を抑え、温室効果ガスの排出を抑制する絶好のチャンスでもある。実際、1970年代の石油危機の際には、日本企業は省エネ技術の開発に励み、大きな成果を収めた。しかし、値上がりの分だけ補助金をばらまくのでは創意工夫のインセンティブにはならず、温室効果ガスの排出は変わらず、財政赤字をさらに増やすだけだ。

国債発行残高がGDPの約2倍という世界最悪の財政状況を踏まえると、これ以上放漫財政を続ける余地はない。国民の側が、長年にわたりぬるま湯に慣れ切っているので簡単ではないが、金融・財政政策の転換は不可避だ。痛みを伴う選択だが、非効率な制度やゾンビ企業に見切りをつけ、日本経済の再生を図るにはそれ以外にない。

政策転換の過程では、新たな財源が必要になるだろう。しかし、働き盛りの30~50代の年収は、30年ほど前に比べ大きく減少しており、彼らに負担させるのは忍びない(昨年4月6日付当欄参照)。前述の「憂国グループ2040」は、高齢世代は日本の金融資産2000兆円の6割以上を保有するとともに住宅資産も持っているとして、「裕福な高齢世代はもっと負担を」と呼び掛けている。日本経済のこれ以上の劣化を防ぐためには、絶頂期を知る私たちやその上の世代が、資産課税の強化などを受け入れる覚悟が必要になるかもしれない。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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