地元漁民が「サケ保護施設」の責任者をたたき起こす理由とは―関係者が状況紹介

中国新聞社    2024年1月2日(火) 23時0分

拡大

中国では激減したサケの個体数を回復させる努力が続いている。漁民も極めて熱心で、特定作業の場合、「今がベストのタイミング」と関連施設の責任者を深夜にたたき起こすことも珍しくないという。写真は綏芬河。

中国では経済発展が続く一方で、環境対策が後手に回ったために、1990年ごろから問題が深刻化した。しかし現在では、環境の改善と維持に力が入れられており、成果も着々と出ている。取り組みの一つが「中国のサケを家に戻そう」運動だ。黒竜江省永続自然資源保護公益基金会の張天航事務局長は8年間余りにわたり、サケの生態保護に携わってきた。以下は張事務局長によるサケの保護状況の説明に、若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

サケの保護とパンダの保護の根本的な違いとは

サケは淡水で孵化し、海洋で成長する魚で、寿命は3-5年だ。中国ではかつて黒竜江、図們江(豆満江)、綏芬河流域に広く分布していたが、この30年ほどでさまざまな原因により激減した。

「中国のサケを家に戻そう」の取り組みが始まったのは2015年だった。河川を調査したところ、サケは黒竜江省の撫遠水系にはある程度いたが、松花江水系では基本的に絶滅したことが分かった。また、存在を確認できなくなった亜種もある。

アジアのサケはタイセイヨウサケ(大西洋サーモン)と同じサケ科に属しており、国際的なサーモンの保護と利用はわれわれのサケ保護にとって大きな参考価値がある。中国の国家一類保護動物であるジャイアントパンダやチベットカモシカとは異なり、サケは経済魚類であり、サケ漁で得られる漁民の利益などにも配慮せねばならない。そのため、中国がサケの保護で参考にしているのは、国際的に認められた「持続可能な漁業」だ。つまりサケの保護と利用を同時に行うことだ。

サケ稚魚を放流し、技術の向上で回帰数を増やす

自然界において、サケの受精率と生存率は比較的低いため、科学的な人工増殖と放流はサケの個体群資源を回復させる重要な手段の一つだ。まず設備と技術を向上させることで、サケの卵の生存率を80%以上に高めることができる。

中国各地のサケ放流ステーションでは、毎年10月から11月初めに海から戻ってきたサケを捕獲し、先進的な孵化システムにより人工繁殖を行い、翌年の4月下旬から5月初旬にかけて淡水水系でサケの稚魚の放流を行う。サケは海へと泳いでいく。公益活動の「中国のサケを家に戻そう」が長期にわたり協力してきたサケ放流ステーションは、黒竜江水系の撫遠ステーション、綏芬河水系の東寧ステーション、図們江水系の琿春ステーションの3カ所だ。


放流ステーションの繁殖技術や管理水準の向上に伴い、サケの稚魚の生存数は年々増加している。吉林省延辺朝鮮族自治州の琿春市・密江田舎窪子村にある放流ステーションは、改修や拡張を行い先進的な孵化システムを導入したことで、1回のふ化サイクルで同時に1500万個の卵をふ化させることができるようになった。同市の解放村に新設された冷水魚総合施設では1600万-2000万個の卵をふ化させることができる。

琿春市にあるステーションでは、黒竜江、綏芬河、図們江の3水系に放流を行っているが、河口はいずれもロシア領内にある。川が長くなればサケが戻って来ることは難しくなる。サケの帰り道には大型魚やタカ、クマなどサケを捕食する動物がおり、人によっても捕られるからだ。例えば、日本の多くの河川は数十キロしかないが、中国ではサケが短い場合でも100キロ以上も川を登らねばならない。黒竜江の場合には3回帰の道のりが000キロにも達する。サケが自力で泳いで出生地に戻ることは、実に困難だ。

綏芬河は比較的短いので、回帰率は1000分の3から7に達する。1匹の雌が生む卵は3000個ほどで、その中で戻ってくるサケは10匹ほどだ。国際的に3%の回帰率を得られれば良好とされる。

中国でサケの保護活動が始まったのは1950年代だ。米国、カナダ、ロシア、日本、韓国のような太平洋沿岸国は年間50億匹ものサケの稚魚を放流している。現在、中国で放流される数は毎年200万匹前後だ。中国ではサケの個体群を徐々に回復せねばならないが、その保護の技術と設備はすでに国際的な結びつきを得ている。例えば、中国のサケ保護チームは2018年に、北太平洋溯河性魚類委員会(NPAFC)に、図們江琿春放流ステーション専用の耳石番号を申請した。

耳石とは魚の頭部にある小さな部分で、飼育の仕方でマーキングをすることができる。そのため、魚を改めて捕獲してから解剖して顕微鏡で読み取ることで魚の「身元調査」ができる。国際的に番号が制定されており、各放流ステーションには特定の番号枠が与えられている。小魚を放流する前にランダムに選んでマーキングが成功したかどうかを観察して、サンプルは国際本部に送られて保管される。海洋上の科学調査船は定期的にサケを捕獲して耳石の検査も行い、どの国のどこで、どの年に放流されたかを知ることができる。

つまり中国で放流されるサケは、2018年からは国際的に通用する「パスポート」を所有するようになったということだ。耳石を用いれば、中国国内でも、同じ河川で異なる時期に放流された魚を区別することができる。このことで、どのタイミングでどの程度の数を放流すれば回帰率が高まるのかなどを、データを比較することで知ることができる。

「今がベスト!」と夜明け前に責任者を叩き起こす漁民

黒竜江省ではここ数年で、サケの放流場所が追加された。各地方の漁業当局は、サケの放流作業を重視し始めた。黒竜江では1990年代に秋の禁漁期を設けることで、繁殖のサケを保護するようになった。黒竜江省農業農村庁は2022年に、綏芬河に10月1日から10月31日までの禁漁期を設けた。秋の禁漁はその対象が川の本流から支流、ダム、湖などの水系全体に拡大された。禁漁の拡大は、サケの繁殖を増やすために有効だ。

この禁漁区設定の過程で特に感慨深かったのは、多くの漁民がサケの生態保護に自発的に参加したことだ。黒竜江省の呼瑪県を調査した際には、ある地元の漁民が「もう30年も40年もサケを見ていない。放流する時には知らせてほしい。漁師全員に、漁網を引き上げて放流した稚魚を保護するよう通達する」と言った。

綏芬河東寧ステーション

綏芬河を調査した時には、地元漁民たちがサケの「産婦人科医」にもなっていることを知った。放流するサケの稚魚を確保するには、まずサケの卵が必要だ。そのために親サケを捕獲するわけだが、この仕事は地元の漁民に請け負ってもらっている。漁民は親サケを捕る際に、常に「針」を持っているのだ。というのは、メスのサケは産卵の前に卵巣がある腹部を傷めてしまうことがある。漁民はサケのメスが腹部を負傷していると、針を取り出して傷を簡単に縫い合わせて、傷が破れて卵が落ちないようにしていた。夜明け前に放流ステーションに駆けつける漁民までいることも知った。サケが産卵の最高のタイミングを迎えたということで、よい状態でのサケの繁殖を実現するために、そんな時間でもステーション長を起こすのだ。

綏芬河東寧ステーションに駐在するの王ステーション長によると、サケの繁殖シーズンになると深夜12時、あるは午前2時や3時に地元の漁師に起こされる。服を着て繁殖用の道具を持ち、産卵場所として使っている数百メートル離れた川に向かい、凍てつくような冷たい川の中に立っていち早く作業を行う日々だそうだ。定期的にサケの稚魚を放流し、合わせて川の環境状態が徐々に回復してきたことで、川に戻って来るサケは、かつての激減状態から現在は回復に向かうようになった。(構成/如月隼人

※本記事はニュース提供社の記事であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。すべてのコンテンツの著作権は、ニュース提供社に帰属します。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携