日中自動車産業、「中国」「東南アジア」「欧州」3大決戦の行方は混沌

高野悠介    2024年4月10日(水) 7時30分

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中国メディアは「中日自動車3大決戦、日本に時間はない」という記事を掲載し、中国、東南アジア、欧州での戦いを分析した。写真は上海。

中国は2023年に世界一の自動車輸出国の座を日本から奪った。中国メディアはこの成果に湧き立ったが、春節開けにトーンダウンした。欧米による電気自動車(EV)普及目的の引き下げが相次ぎ、先行きに不透明感が漂ってきたためだ。中国メディアはそれらを否定し、「いや、大丈夫だ。なぜなら…」というスタイルの記事が増えている。その中から、日中の戦いを特集した記事を分析したい。

中国での戦い

テンセントニュースは「中日自動車3大決戦、日本に時間はない」という記事を掲載した。中国、東南アジア、欧州での戦いを分析している。

中国の自動車市場では以前、日系車が優位に立っていた。ピークの2020年には日系車のシェアは20%だった。日産ルフィは20~22年に3年連続で販売台数トップとなり、ファミリーセダンの王座にあった。しかし、23年に中国の国産車が日系車の優位をついに打ち破る。カローラレビンやシルフィは致命的な打撃を被った。記事はその姿を秦王朝を倒すきっかけとなった陳勝・呉広の乱になぞらえ、大げさに表現している。そして代わりに王座に就いたのはBYD比亜迪)の秦PLUSだった。

データを整理すると、23年の国内販売の内訳は、内燃エンジン車(HV含む)が前年比2.4%減の1382万台でシェア62%、純EVが同28.2%増の507万台でシェア22.8%、PHEVが同69%増の 178万台でシェア8%、レンジエクステンダー(エンジンは発電のみに使うPHEVの一種)が同181%増の64万2000台でシェア2.9%。

日系3大ブランドは、トヨタが前年比1.7%減の190万8000台、ホンダが同10.1%減の123万4000台、日産が同16.1%減の79万4000台だった。ほぼ内燃エンジン車とすれば、内燃エンジン車の日系シェアは30%に近い。新エネルギー車(EV、PHEV、燃料電池車)の直接の優遇策はほぼ終了したが、内燃エンジン車には高税率が課され、車両登録に高額な費用と時間を要する。いまだひどい不公平な制度に守られていても、純EVのシェアは22.8%だ。内燃エンジン車は健闘しているといってもいい。日系はPHEVやレンジエクステンダーに注力すれば十分戦えそうだ。

しかし、日産は中国生産能力を約30%削減の50万台、ホンダは約20%削減の30万台にすると伝えられている。

東南アジアでの戦い

東南アジアの主戦場はタイだ。日系はタイ市場で60年の歴史があり、圧倒的優位を築き上げた。日系には15の完成車、部品工場の集積があり、シェアはなんと90%を占める。タイ人はトラック、バスからオートバイに至るまで日本車を好む。これに対し、中国系はまだ進出したばかり。しかし、タイのビジネス界を牛耳っているのは中国系だ。そして裕福な中国系は総じて親中姿勢だ。彼らは中国車の市場開拓に骨を折るはずだ。進出は目覚ましい。

新エネルギー車トップのBYDは22年9月にタイのWHA工業団地との契約を発表した。179億バーツ(約740億円)を投資し、年産15万台規模の工場を建設する。23年3月に基礎工事を終え、24年中の生産スタートを目指している。

国有自動車企業トップの上海汽車は23年4月、「上汽正大新能源産業園区建設項目」を発表した。標準的な工場、倉庫、コンテナヤード、発電所などを12万平方メートルの敷地に建設し、EVの基幹部品の現地生産を実現し、23年10月の稼働を見込む。

その他、広州汽車傘下の広汽埃安は23年3月、64億バーツ(約265億円)を投資してEV工場を建設すると表明。長安汽車も同年4月、98億バーツ(約405億円)を投資して世界的な右ハンドル車の生産拠点を作ると発表した。

今年3月には、日系メーカーのショールームが次々に中国系に替わっていると伝えられた。タイ市場の日系シェアは22年の90%から23年には78%に低下し、中国系は5%から11%へと倍増した。タイでの成功は東南アジア全域からオセアニアまで波及効果が大きい。命運のかかる戦場だ。

欧州での戦い

欧州では基本的に地元メーカーが強い。しかし日系も50年間、市場の深耕を続けてきた。トヨタは23年に82万8000台を販売し、フォルクスワーゲンに次ぐ2位に付けた。中国は輸出世界一になったとはいえ、欧州市場のシェアは3%程度にすぎず、トヨタ1社にも遠く及ばない。

5000台以上のBVDの海豚(ドルフィン)、元PLUSを載せた船が2月26日にオランダ、ドイツ、ベルギーに寄港した。欧州メディアはこれを「東方の怪獣」と表現した。黒船来襲である。

海豚はAクラス(小型車)純EVの王者で、元PLUSはAOクラス(コンパクト)の王者だ。この2車種を皮切りに、東南アジア、中東、アフリカ、南米に続き、欧州市場浸透を狙う。記事は、日本車は欧州で利益を挙げているが、ここでも重大な挑戦を受けるはずだとしている。

失うものが大きいのはどちらか

記事は中国、東南アジア、欧州の3大決戦地で激戦が展開されるだろうとし、これは内燃エンジン車を極めた日本とEVの新技術で挑む中国との世界自動車史に前例のない変化の瞬間だと指摘。そして日本は「失われた30年」以上のものを失うかもしれないと一方的な結論へ導いている。

米国や欧州の既存メーカーは元気がなく、日中の争いが「前例のない変化」における焦点なのは間違いない。しかし、このところ世界的にEV優遇策が廃止され、目標の下方修正が進み、トヨタの言う「EVシェアの上限は30%」が現実味を帯びてきた。そうなれば競争の位相も大きく変化する。失うものが大きいのはどちらになるのか、混沌としてきた。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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