長田浩一 2024年5月29日(水) 7時30分
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核のごみの処理は原発を運用している各国に共通する難問であり、日本の周辺国、とりわけ多くの原発を保有している中国や韓国の動向も注目される。資料写真。
九州電力玄海原子力発電所を抱える佐賀県玄海町がこのほど、使用済み核燃料など高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)の最終処分場の選定に向けた文献調査の受け入れを決めた。原発立地自治体の同調査受け入れは初めてで、これを機にこの問題をめぐる議論が国民的レベルで高まることが期待される。核のごみの処理は原発を運用している各国に共通する難問であり、日本の周辺国、とりわけ多くの原発を保有している中国や韓国の動向も注目される。
玄海町の脇山伸太郎町長が日本記者クラブで5月末に行った記者会見(オンライン方式)に参加した。同町長は、「原子力は今しばらく日本には必要」との認識を示しつつ、町の面積が小さいことなどから、もともとは最終処分場の立地を認める考えはなかったという。しかし、「町内の3団体から受け入れを求める請願が提出され、それが市議会で採択されたことを重く受け止める」と言明。一部では、調査に伴い支給される交付金目当てではないかとの声もあったが、財政的には比較的余裕があるとして、「お金で文献調査を受け入れるわけではない」と強調した。
地質図などで最終処分場に適しているかを探る文献調査は2年程度かかり、その後、概要調査、精密調査と進み、最終的に処分場として決定するまでには20年程度かかる見通し。脇山町長は、玄海町が処分場に向いているとは思わないとの考えを示した上で、「この問題への関心が高まり、国民的議論に発展する一石になれば、という思い」で受け入れを決めたと語った。
確かに、核のごみの最終処分場が確保されておらず、「トイレなきマンション」とやゆされる現状が好ましくないことは明らかだが、世間の関心は問題の重要性に比べ高いとは言えない。日本は過去60年に発生した大量の放射性廃棄物を抱えており、原発推進派はもちろん、反対派も目を背けてはならない問題だ。原発立地自治体である玄海町の決断を機に、核のごみをどう処理するのがいいのか、幅広く議論されるよう期待したい。
現在、最終処分場の候補地として手を挙げているのは、玄海町のほか北海道の寿都町と神恵内村。国が予定している処分方法は、最終処分場の地下約300メートルに核のごみを埋め込むという「地層処分」だ。放射性廃棄物がほぼ無害になるまで10万年かかるので、それまでの間、人間の生活圏から遠く離れた地底に閉じ込めるというもので、2000年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」で決まった。この分野で先行するフィンランドなど北欧諸国で採用されているのと同じやり方だ。
しかし昨年10月、地質学などの専門家約300人が「日本列島は複数のプレートが収束する火山・地震の活発な変動帯。今後10万年もの間、核のごみを安定的に保存できる場所を選定できないことは地球科学を学ぶ者にとっては、容易に理解できる」として、地層処分の見直しを求める声明を発表し、波紋を広げている。
確かに、地盤の安定している北欧とは異なり、日本列島は太平洋プレートなど四つのプレートが衝突している世界でも珍しい場所。10万年前の地図を見ると、日本列島の姿は現在とは大きく異なっており、これからの10万年でも大きな変動があると予想される。また、この問題に詳しい研究者の古儀君男氏によると、今後10万年に日本列島で起こりうる自然現象として、1.東日本大震災クラスの巨大地震が数百回 2.噴出物の量が100立方キロメートル(琵琶湖の容積の4倍)を超える超巨大噴火が10回 3.地盤の隆起が最大200メートル―などが想定されるという。これらの数字を前にすると、私など「地層処分など無理!いつかは地殻変動で保管施設が破壊され、放射性物質が漏れ出すだろう」と思ってしまう。
では、地層処分以外の方法はあるのか。かつて、地盤の安定している開発途上国に核のごみを埋めてもらったり、ロケットで宇宙に運んで放出したりといった方法も検討された。しかし前者は、帝国主義の時代ならともかく、現代ではとても国際社会で受け入れてもらえないだろう。後者は良い方法のようにも見えるが、万一ロケットの打ち上げに失敗した場合のリスクが大きすぎる。
原子爆弾の父と呼ばれるロバート・オッペンハイマーは、核のごみ問題は「原子力利用の基盤が整備されれば十分に解決可能」と楽観的な見通しを持っていたという(岩波ジュニア新書「核のごみをどうするか」)。放射性廃棄物を無害化する技術が早晩実用化されると見ていたわけだ。しかし80年たっても、そのような魔法の杖は存在しない。
地層処分に代わる適当な処理方法はなかなか見当たらないが、一方で一度決めたやり方に固執するのもいかがなものか。先の専門家の声明は、最終処分法は「科学的根拠に乏しい」ため廃止し、地上での暫定的な保管を含め、中立的な第三者機関でより安全な処分法を再検討するよう求めている。玄海町の決断で核のごみへの関心が高まっている折でもあり、政府には柔軟な対応を期待したい。
核のごみの処理で苦労しているのは日本だけではない。原発保有国で、最終処分場の場所が決まり、建設工事が始まっているのはフィンランドだけ。世界最大の原発大国であるアメリカでは、最終処分場の場所は決まったが、政治的な思惑から計画がいったん中止されたり、政権交代後に再開が決まったりといった迷走を続けているという。
万一核のごみが外部に漏れだした場合、その影響は当事国だけでなく周辺国に及ぶ可能性がある。日本の場合、アジア大陸で事故が起きると、偏西風に乗って放射性物質が列島に飛来する恐れがある。それだけに多くの原発が稼働している中国と韓国の動向には関心を持たざるを得ない。
原子力発電環境整備機構(NUMO)によると、中国では現在、最終処分場の候補地として6カ所が選定され、ボーリング調査を含む地質調査を実施しており、2041年から今世紀半ばにかけての稼働を目指している。一方で韓国は、まだ文献調査にも至っていないという。
中韓両国とも日本よりは地盤が安定しているはずなので、地層処分に適した場所を見つけるのは可能かもしれない。とはいえ、本当に10万年もの間、安全に保管することはできるのか。両国に対しても、安全を最優先した対応を望みたい。
■筆者プロフィール:長田浩一
1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。
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