<皇室の課題>このままでは自然消滅も=危機回避へ国民の7割超が「女性天皇」支持、容認論に勢い

八牧浩行    2024年6月12日(水) 8時0分

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皇統は断絶の危機に直面している。現在、皇位継承権者はわずか3人だ。(出典:宮内庁ホームページhttps://www.kunaicho.go.jp/page/kaiken/show/70)

平成の天皇(上皇さま)は「戦争を2度としてはならない」との思いを常に抱かれ、戦没者慰霊の旅を重ねられた。広島、長崎、沖縄、サイパン、パラオ、フィリピンなど内外各地を訪れ、被災者に心を寄せられた。天皇として史上初の中国訪問も実現された。国際標準の「帝王学」を身につけられた現天皇に引き継がれている。

欧州で暮らすと世界を東西南北、グローバルかつ多角的に見渡す目が養われる。特に覇権国家だった英国には各地域の情報が集中し、世界中の学者や留学生、ビジネス関係者が集まる。これらの人との交流を通して、地球市民という理念を共有され、民族多様性、平和友好などの課題を地球的規模で捉えておられた。

英国留学時代の2年半、当時の皇太子夫妻(平成の天皇・皇后)が公務で世界各国に行かれた帰途、ロンドンに毎年立ち寄り、浩宮さまも交えて記者会見した。夫妻はアフリカや北欧などの印象を語り、「相互交流と平和友好の尊さ」を強調し、浩宮さまも全面的な賛意を示していた。

その後、筆者は東京で皇后になられた美智子さまと話したことがある。浩宮さまとの英国時代の思い出を披露したら、「もっと聞かせてほしい」と長時間耳を傾けてくださった。浩宮さまを気遣う深い情愛とともに「世界の人々に寄り添い平和を願う」気持ちも伝わってきた。美智子さまのようなヒューマニズム精神にあふれた温かい母親の下で、天皇陛下の資質や考えも育まれたと思う。

「憲法にのっとり責務果たす」

天皇陛下は令和元年5月1日の即位後朝見の儀で「常に国民を思い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、象徴としての責務を果たす」と述べられた。平成の天皇が即位時に「日本国憲法を守り、これに従って責務を果たす」と述べられたお言葉を引き継ぐもので、平成の時代に作り上げられた象徴像を引き継がれるお気持ちを示された。

戦後生まれの天皇として初めて臨まれた令和元年8月15日の全国戦没者追悼式でのお言葉は、上皇さまが前年の追悼式で語った内容をほぼ継承。代替わり後も平和への強い思いを受け継いでいくことを示された。

戦後70年に当たる2015年の皇太子としての会見では「戦争の記憶が薄れようとしている今日、謙虚に過去を振り返るとともに、戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切です」と言明した。2019年5月の代替わり前、戦没者慰霊が話題に上った際、「戦争を知らない世代であるからこそ、風化させないよう一層意識的にならないといけない」とかみしめるように語られたことがあった。

令和元年10月22日の即位礼正殿の儀では天皇陛下は「憲法」に2度、「平和」に3度言及され、「国民の幸せと世界の平和を願い、憲法にのっとり、象徴としての務めを果たしたい」と強調された。天皇陛下は同年5月4日の一般参賀でも、「わが国が諸外国と手を携えて、世界の平和を求めつつ、一層の発展を遂げることを心から願っております」とお言葉を述べられた。皇室外交が果たす役割は大きい。天皇皇后は、国際親善をはじめとする公務に努めておられる。

言論NPOが2019年に実施した世論調査によると、「信頼できる」と回答したのは「天皇・皇室」が87%と断トツ。「国会」「政府」「メディア」がいずれも20~30%台にとどまったのと好対照で、親しく国民に寄り添う姿勢が評価されているようだ。

日本の皇統は断絶の危機に直面している。このままでは日本の象徴天皇制は自然消滅してしまう。天皇陛下の即位に伴い、皇位継承権者はわずか3人となった。女性皇族の結婚などで皇室全体も縮小している。皇統をどのようにつなぎ、将来にわたって皇室を安定した形で維持するかが課題となる。

皇室典範は「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定め、皇位継承権者を男系男子に限定する。現在の皇位継承者は順に(1)秋篠宮さま<58歳>(2)悠仁さま<17歳>(3)常陸宮さま<88歳>――の3人で、このままでは先細りとなる。2005年11月、当時の小泉純一郎首相が設けた「皇室典範に関する有識者会議」が、女性天皇や母方が天皇の血筋を引く女系天皇を容認する内容の報告書をまとめたが、翌2006年2月に秋篠宮妃紀子さまが悠仁さまを懐妊されたことが明らかになり、議論はしぼんだ。

旧民主党政権下の12年10月には当時の野田佳彦内閣が、結婚後も女性皇族が皇籍を維持する「女性宮家」の創設案を軸とする論点整理を公表。これは同年12月の衆院選で自民党への政権交代があり、議論は宙に浮いている。上皇さまの退位に当たり17年6月に成立した皇室典範特例法は、付帯決議で「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」を代替わり後に検討し、国会に報告するよう政府に求めている。

女性宮家は女性皇族が結婚後も皇室にとどまるもの。皇族数減少への対策となるが、皇位継承を男系男子に限る現行制度では、皇位継承者の確保にはつながらない。政府は今後、本格的な議論に着手するが、保守勢力は女性天皇に反対している。

こうした中、自民党幹部から女性天皇容認論が出始めた。2019年に、甘利明税制調査会会長が民放テレビの番組で「男系を中心に順位を付け、最終的選択としては女系も容認すべきだ」と発言。二階俊博幹事長(当時)も「男女平等、民主主義の社会を念頭に置いて考えれば、おのずから結論は出るだろう」と、女系天皇を排除しない考えを示した。

7割超が女性天皇制を是認、期待される悠仁さまと愛子さま

皇室典範上の皇位継承順位とは別に、次世代の皇室の継承者として国民から期待されるのは悠仁さまと愛子さまのお二人。政府は皇位継承資格を男系男子に限っていることについて国会で「男系継承が古来例外なく維持されてきたというわが国の伝統を踏まえたもの」と答弁している。しかし、これは男系か、母方だけに天皇の血をひく女系かという点についての答弁であって、愛子さまのような男系の女性天皇の否定にはならない。男系の女性天皇は日本の歴史に例があり、政府の国会答弁は「男系」女子の愛子天皇を過去一度も否定していない。

男性天皇の継続は「男女共同参画」の風潮にも逆行する。女性が君主を務めることが多い世界の王室に比べ日本の男子に限る継承制度は異例で、男系の長子が男女を問わず継ぐことがわかりやすいとの声は根強い。各種世論調査では70%以上が女性天皇制を支持している。

愛子さまは22歳で笑みを絶やさない聡明なお人柄で、国民の間で高い信望を集めている。今春学習院大学を卒業され、4月に東京都港区の日本赤十字社に入社された。

日本の歴史上、女性の天皇は推古天皇や持統天皇など10代8人存在しており、皇室の伝統を維持するためにも新たな時代へ踏み出すべきだろう。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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