上海嘉世営銷諮詢有限公司 2024年7月5日(金) 7時30分
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中国の飲食業界は希少な成長分野の一つだが、多くの課題にも直面している。
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中国では2022年12月に、人の移動などを厳しく制限していた新型コロナウイルス感染症対策が大幅に緩和された。そのことで、外食企業などを含む飲食産業は大いに盛況となり、2023年の売上高は過去最高の5兆2000億元(約115兆円)に達した。一方で、ある産業分野が極端な盛況を示せば、その後には成長が鈍化することも珍しくない。中国の飲食業はその後、どのような状況になったのか。本稿は、上海に拠点を置いて市場分析や総合コンサルティングを営む上海嘉世営銷諮詢有限公司(MCR)による「飲食業界市場分析リポート2024」の主要部分をまとめたものだ。
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2023年には生産と生活が回復し、消費促進政策が奏功したこともあり、中国各地で飲食産業が活況を呈した。特に年初には景気の回復期待があり、2-3月の飲食企業の登記数は前年同期を上回った。しかし、その後は徐々に2022年の前年同月に近い水準まで下落した。一方で、登記抹消になった企業が5月以降に急増した。消費の回復が弱い状況にあって、新規店舗の存続力が劣っていることが反映されたとも言える。
飲食企業の1店舗当たりの売上高は2019年の水準まで回復しなかったが、上場企業はいずれも店舗数を積極的に増やしたために、多くの企業では売上高全体が2019年より大幅増になった。例としては百勝中国、海底撈、絶味、奈雪、九毛九集団などがある。
一部企業は2023年に回復力が乏しかった。例としては呷哺呷哺集団、周黒鴨、海倫司がある。利益の回復の分極化も目立つ。百勝中国、海底撈、九毛九集団の純利益は2019年同期を上回った。海倫司と奈雪的茶は黒字転換を果たした。その他の企業の純利益は新型コロナウイルス感染症の出現以前の状況に回復していない。
2023年にはほとんどの外食上場企業は店舗数を増やし続けた。例えば絶味、ケンタッキー、周黒鴨、ピザハット、奈雪的茶、太二、湊湊などだ。これらのブランドは感染症以前に比べて増加幅が大きく、店舗数が2倍ないし3倍になった企業もある。
一部の企業は2021年まで急ピッチで出店したが、2022年と2023年には調整した。海底撈や呷哺呷哺、海倫司などだ。店舗の調整はこれらの企業に大きな閉店に伴う損失をもたらした。
2023年の消費環境は、その後の出店計画にも分極化をもたらした。一部企業は従来の出店ペースを維持した。絶味やケンタッキー、ピザハットなどだ。一部企業は比較的慎重な姿勢を堅持しており、海底撈や海倫司、習黒鴨などのように出店計画を下方修正した企業もある。
高級飲食業界は人件費の高さ、家賃の高さ、利益の低さなどの苦境に直面しており、イノベーションによるモデルチェンジとアップグレードの実現が急務だ。経済情勢が全体として良好とは言えず、飲食業界の価格競争はますます激しくなっている。飲食消費では上下への二極化が発生し、価格帯の主流は、顧客が低料金で食の必要を満たせる「必需性」の領域に向かい始めた。消費者は出費にますます慎重になっており、高品質かつ費用対効果のよい飲食店が第一の選択になった。
中国の飲食業上場企業の2024年1月の累計売上高は前年同月と比べて横ばいの154億元(約3400億円)だった。前月比では15.9%増だった。
2023年には春節(旧正月)の直前の会食で小さなピークが発生したことで、1月には多くの上場外食ブランドの店舗の売上高が前月比ではやや好調だったものの、前年同月と比べれば横ばいだった(2023年の春節は1月22日、2024年は2月10日)。2024年第1四半期(1-3月)の展望では、2023年1-2月には外出規制が緩和されたことで「反動としての好調」が発生したことや、2023年下半期に多くのブランドで価格をある程度下方修正したことを考えれば、多くのブランドの飲食店が前年同期比で伸び悩む可能性がある。
中国の飲食店のチェーン化は2018年以来、加速し続けてきた。「2023中国飲食加盟業界白書」によれば、中国の2022年の飲食店チェーン化率は19%にまで上昇した。しかし米国でのチェーン化率が54%であることと比較すれば、中国の飲食店チェーン化率には依然として大きな上昇の余地がある。
中国には一線都市と二線都市以外にも、人口規模が大きく巨大な伸びしろのある三線以下の都市が多くある。一、二線都市の飲食消費市場がここ数年でほぼ飽和状態になったことから、飲食業界では三線以下の都市での発展がより注目されるようになった。一、二線都市で先行したチェーン化率の上昇はここ数年来、三、四線都市へと段階的に波及する傾向を示している。
注:
一線都市や二線都市とは、中国でよく用いられる都市の分類。ただし、分類が確定されているわけではなく、記述によって違いがある。一線都市は北京や上海など中国全国に強い影響を及ぼす都市、二線都市は一線都市に準じる広域に強い影響を及ぼす都市。三線都市以下は、地方都市と考えればよい。
2023年にはさまざまな食品偽装のニュースが報じられ、食の質に対する中国国民の疑念は間違いなく高まった。「食の安全事件」のそれぞれの事例の具体的状況は異なるが、売り手が利益追求のために消費者の利益や食の安全を顧みなかったという構図は同じだ。
アンケート調査によれば、職を持つ人の中で食の安全の問題を心配する人は、一線都市では56%、二線都市では53%、三線都市以下では39%で、大都市であるほど食の安全に懸念を持つ人が多い。年代別では1980年代生まれが54%、1990年代生まれは54%で、2000年以降に生まれた人は45%だった。
飲食業は依然として、今後5-10年における希少な成長分野だ。ただし現在は、全体としての伸びがやや鈍化していると同時に、新業態や新ジャンルの出現が相次いでいる。飲食業企業は、ジャンルの選択や販売経路の掌握などの能力がより厳しく試されている。
販売経路からいえば、大手ブランドは経営が堅実で、はっきりとした成長を維持している。一方で、サムズ・クラブ、ハンバーガーチェーンの塔斯汀、カフェチェーンのラッキンコーヒーなどのトップブランドが次々に登場している。急成長するブランドが続出していることは、飲食企業には構造的なチャンスがあることを示している。
中国では極めて多くの産業分野で、人工知能(AI)技術およびデジタル技術全般の活用が、生き残りと成長のために有効とされている。消費者を顧客とするto Cの分野では、画一な商品を大衆向けに販売するのではなく、新技術を投入して個別の顧客の要望に細かく対応する「少衆」向けの展開が極めて有望なビジネスモデルとされている。そこで、飲食産業の場合に、AI技術により何が実現できるかを考えてみた。
1)メニュー提案
AIGC(人工知能による生成コンテンツ)技術により、顧客の好みや食事制限、偏食を分析して個別化されたメニュー提案を行うことができる。このことを、顧客満足度の向上と売上高の増加につなげ、さらにはブランドロイヤルティーを向上させることができる。
2)予約と配送サービス
AIGCによってオンライン予約やデリバリー注文に対応し、顧客からの質問に答え、正確な配送時間を示すことができる。顧客はAIGCを利用したチャットを通じて、利便性の高い予約を享受することができる。
3)カスタマーサポート
AIGCはオンラインのカスタマーサービス担当者として、よくある質問への回答、サポート、顧客の問題解決を行うことができるので、顧客満足度の向上と潜在的な問題の抽出と解決に役立てることができる。
4)プロモーションとマーケティング
飲食企業はAIGCを利用して顧客とのやり取りや対話を行い、キャンペーンやクーポン、新商品の提案などの情報を提供することができる。このような個別化されたマーケティング戦略により、さらに多くの顧客を呼び寄せることができる。
5)従業員の育成
AIGCは、メニュー、食材、栄養情報、飲食物の知識などに関する従業員の教育に使うことができる。従業員はAIGCと対話することで知識を増やすことができる。
今後について、より大きな期待を持てる飲食産業ではあるが、楽観視できない問題にも多く直面している。そこで、飲食業界が抱える問題を整理してみた。
1)新たな外食ブランドの出現による競争激化
飲食業界は参入障壁が相対的に低く、市場の拡大により新たなブランドが次々に登場して業界の競争激化に拍車をかけている。同じ業界内の競争者は多く、市場シェアは分散している。技術の革新も絶え間がない。伝統的な飲食企業にとって国際的な飲食ブランドの参入は市場競争を激化させることもあり脅威だ。
2)各種コストの増大
食材や調味料など原材料価格が上昇。経済発展に伴い従業員の報酬要求が高まり、人件費も上昇している。光熱費や設備関連費用なども増大している。大都市の一等地では、物件の賃貸料と人件費の上昇が飲食企業の運営コストを増加させ、労働市場の変化も招いている。
3)健康的な食生活の志向と食の安全の問題
消費者はますます食事の健康と栄養バランスを重視して、食品添加物や防腐剤などに対する懸念を強めている。飲食企業にはより自然で安全な食品を提供することが求められている。慢性病の増加は、低油、低塩、低糖質料理への需要を後押ししている。食品安全事故が頻発したことが消費者の食の安全に対する信頼の低下を招いている。行政による食の安全に対する監督管理が強化されていることもあり、飲食企業は自主規制とリスク管理を強化せねばならない。
4)技術革新によるマーケティングの複雑化
大量情報のインターネット時代において、いかに効果的にブランドマーケティングを行い、ブランドの知名度と評判を高めるかは、飲食企業が直面することになる重要な問題だ。ソーシャルメディアとネット有名人による経済効果の上昇は、飲食企業にマーケティングとブランド構築の新たな手法を提供しているが、同時にマーケティングのコストと複雑さも増加している。
市場経済の本質の一つは、それぞれの事業者に自己責任が付きまとうことであり、各事業は自らの判断と決断によってより良い明日を築こうと努力する。しかし業界全体を見れば、今後についてどのような流れが発生しているかが分かる。そこで、飲食企業が特に注目する五つのトレンドを挙げてみよう。
1)絶え間ないイノベーションでブランドの「記憶ポイント」を創出
飲食企業はここ数年来、革新を通じて消費者にとってのブランドに対する「記憶のポイント」をもたらすことを試みている。例えば、目新しくて面白くて注目を集める料理や差別化されたサービス、非常に特色のある店舗のデザインや、他社とは大きく異なるブランド名やブランドロゴだ。
2)飲食に新たな体験を追加
もはや「満腹感」と「味」だけでは、新たな世代の顧客の求めの全てを満たすことはできない。そのため飲食に新たな体験を追加する手法が試みられている。文化と旅行、社交、芸能、ゲームなどのような追加体験で、好き嫌いの多い消費者をよりよく満足させることができる。
3)飲食業界に「スーパーマーケット風」が吹く
倉庫式焼肉、コンビニ式火鍋、菓子卸売市場、セルフ式ビストロなどが出現している。名前がスーパーマーケットに似ているだけでなく、体験感もよく似ている。開放された食品棚、倉庫式陳列、小売商品のような包装などの斬新な消費体験が多くの若者を引き付けている。
4)飲食のチャンネルが「ダブル」から「マルチ」へ
一部の飲食ブランドは過去1年の間に、それまでに成立していた「店舗での飲食+デリバリー」の方式に、さらに動画配信を追加することで「店舗での飲食+デリバリー+ティックトック」という提供品のマルチチャンネル化を成立させた。
5)科学技術による労力の削減
多くの飲食企業はすでに技術手段を導入することで店舗の運営を強化し、運営効率を高め始めている。一部の飲食企業はすでにロボットを店舗に導入して、バックヤードや接客の人による仕事の一部を代替している。(翻訳・編集/如月隼人)
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