中国経済の見通し改善のカギは「政府の手」か

吉田陽介    2024年7月17日(水) 7時30分

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コロナ後の影響や不動産業界の不振など悲観的ニュースがよく見られる中国経済だが、前向きなニュースもある。写真は北京。

コロナ後の影響や不動産業界の不振など悲観的ニュースがよく見られる中国経済だが、前向きなニュースもある。外国の金融機関が中国経済の見通しについて評価していることもその一つだ。

「中国経済の見通し明るい」外国金融機関が中国経済を評価

中国財政部は6月27日、米国に本社を置く投資情報会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が報告書を発表し、中国のソブリン格付けを「A+」に据え置き、格付け見通しも「安定」を維持したと述べた。このことはS&Pが中国のマクロ経済の優位性と潜在力を認めていることを示している。

財政部の報道官はメディアの取材に対し、「前期にムーディーズやフィッチ・レーティングスが中国のソブリン格付け見通しを引き下げた中で、S&Pが安定維持の決定を下したのは、中国のマクロ経済成長が力強く、発展の見通しが明るいことを認めたものであり、S&P格付けチームの独立性と専門性を示している」と述べ、今回高い格付けを得られたのは、中国経済自体が評価されたのであり、何者の干渉も受けたものではないと強調した。

S&Pの格付け「A+」は、中国が比較的低リスクの投資先であることを海外投資家に示している。この格付けは投資家の信頼感を高め、外国資本を中国に引き付けるのにプラスとなる。

良好な中国経済の「二つのエンジン」のパフォーマンス

どうして以上のような評価を得たか。それは中国経済のパフォーマンス、特に経済成長の二つの「エンジン」が好調だからだ。

中国の第1四半期(1~3月)の国内総生産(GDP)の成長率は実質で前年同期に比べ5.3%の伸びだった。第2四半期(4~6月)の成長率は4.7%増とやや減速したが、上半期の成長率は実質で前年同期に比べ5%増で、3月の全人代で発表された「政府活動報告」の目標値に達している。

だが、中国経済を支えてきた不動産分野は不振から脱しているとは言い難い。今年上半期の全国の新築分譲住宅の販売面積は前年同期比19%減、売上高は同25%減で、まだ回復途上にある。

その中で、経済成長の二つの「エンジン」である消費と対外貿易は好調で、今後短期的に経済パフォーマンスの向上に寄与するだろう。

まず、第一の「エンジン」である消費を見ると、コロナの影響から徐々に脱しつつある。その典型例は旅行ニーズだ。5月の労働節の大型連休には、全国の国内観光の人出は前年同期比7.6%増の29億5000人となり、2019年の同期に比べ28.2%増加した。

6月の端午節も旅行ニーズは高く、国内観光客は比較可能な枠で計算して、前年同期比94.1%増の8913万6000人で、コロナ前の2019年の同期の98.7%まで回復した。

旅行ニーズの増加は、関連消費を活発化するという効果もあり、モノだけでなく、コトを消費する段階に入っており、消費拡大の余地があることを示している。

次に、第二の「エンジン」である対外貿易も好調だ。12日の新華社の報道によると、今年上半期の中国の物品貿易総額は人民元建てで21兆1700億元となり、初めて21兆元を超えた。貿易総額は前年同期比6.1%増、うち第2四半期は7.4%増で、第1四半期と23年第4四半期(10~12月)をそれぞれ2.5ポイントと5.7ポイント上回り、中国の貿易は一段と回復している。

中国経済の見通しに好影響?中国の「政府の手」

中国が高い格付けを得られた要因として、経済パフォーマンスのほかに、安定的で強靭な金融システム、穏健な財政政策、整った経済管理システム、高い債務返済能力が挙げられるが、中国の経済政策における「政府の手」も中国経済の見通しへの「期待(予想)」に影響を与えている。

第一に、中国は安定政権であるため、中長期的な政策を打ち出しやすい。中国共産党の指導を強化する体制は諸外国から批判されているが、長期政権は政治の安定をもたらす。また、中国共産党は「人民を中心とする」「人民に奉仕する」という理念を堅持しており、国民生活の向上に資する政策を打ち出すことを目標としている。さらに、改革開放以降は「経済建設を中心とする」「改革開放を深める」という方針を堅持しているため、国レベルの政策もその方針を反映したものとなる。

中国の政策文書には「定力」という言葉が出てくるが、それは「不動心」「ぶれない力」と訳せる。つまり、一度決めた政策をぶれることなく実行するということだ。第18回党大会以降、打ち出された政策措置の「実施」が強調されている。その姿勢は、国民に目に見える形で恩恵を与えることができる。

第二に、緩和と引き締めを適度に行うということだ。中国政府は全人代の文書で、金融・財政政策について語る場合、「ばらまき」型の刺激策を取らないことを明言し、必要な分野に資金を投入することを重視している。

ただ、不景気に陥った場合、財政赤字を適度に増やして刺激策を取る可能性を残しているが、3~4%の間で推移するようにしている。

第三に、実体経済の発展をサポートするという考え方だ。中国共産党はマルクス主義政治経済学を現状に合わせて適用する方針であり、金融が実体経済から遊離し、バーチャルな投資に走ることには否定的な態度で、金融は実体経済を支援するという理念を強調している。その方針の下、中国政府は中小企業向け融資などを実施し、実体経済へのサポートを強化している。

以上のような要因が、海外の金融機関の中国経済に対する見方に影響したのではないかと筆者は考える

投資家の信頼感の高まりは、長期的な経済発展にとって非常に重要なインフラや教育、医療などの主要セクターへの投資を増やすことにプラスとなる。それは当然のことながら、生活水準の向上やイノベーションの推進を助けることができる。また、質の高い投資を呼び込む能力は雇用や新産業の発展を後押しすることができる。

信用格付けが高いことは、外国のみならず、中国国内の市場の「期待」に好影響を与える。中国で経営活動を行う企業にとって、これは予測可能な経済環境を意味し、それによって長期的な計画と投資に有利となる。中国の貿易相手国や投資家にとっては、中国でのビジネスに関するリスクが軽減され、より安定的で長期的な経済関係が保証されることになる。

中国は今後、短期的にはどのような経済運営をしていくか。全体的な短期方針は7月末の政治局会議を見る必要があるが、李強・国務院総理が9日に招集した経済情勢専門家・企業家座談会もある程度ヒントなるだろう。

李総理は現状について、「われわれは質の高い発展の推進に力を入れ、マクロコントロールの度合いを強め、新たな質の生産力の発展を加速し、経済が全体的に安定し、構造が絶えず高度化している」としており、質の高い発展のニーズに沿った「新たな質の生産力」を発展させるため、構造の行動化に取り組んでいるとしており、経済回復を前提にしている。

今後の取り組みについては、以下のように述べている。

「経済持ち直し・回復基調を強固にし、革新(イノベーション)駆動の発展を堅持し、新たなエネルギーを育て、強大にし、新たな成長空間を切り開かなければならない。現在の技術更新の一層の加速、破壊的イノベーションの一層の増加、分野を跨ぐ融合の一層の深化などの新たな特徴に合わせ、企業の主体的役割を十分発揮させ、的を絞って政策支援を強化し、より多くの基幹コア技術の新たなブレークスルーを促進しなければならない。不合理な体制・仕組みを改革し、各方面の積極性、主体性、創造性を一層引き出し、社会全体のイノベーション活力を十分喚起し、わが国の規模が大きな各種イノベーション資源を組織し、生かし、巨大なイノベーション力を持続的に引き出さなければならない。」 

ここでよく見られる言葉は「イノベーション」だ。イノベーションを進めることによって、新たな成長分野を発展させ、新たな設備投資を促すことが大きな目標だ。ドローンなどの「低空経済」はその例だろう。

「企業の主体的役割を発揮させる」とあるが、民間企業の活躍の余地もあり、雇用問題の解決にも一定の役割を果たすことができる。

その一方で、経済構造の高度化の中で「淘汰」された労働者の職業訓練も重要となってくる。

中長期的な目標は15日から開かれる第20期三中全会で決定される。本稿執筆時点で、会議のコミュニケが公表されていないため、内容が分からないが、短期的には中国は適度に景気回復のアクセルをふかしつつ、人々が中国経済に明るい見通しを持てるような「構造改革」を行っていくのではないと筆者は考える。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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