アリババはかつての栄光を取り戻せるか、大規模言語モデル「通義千問」がカギに

高野悠介    2024年7月24日(水) 6時30分

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アリババの大規模言語モデル「通義千問」に大きな注目が集まっている。アリババ復活ののろしとなるだろうか。

上海で7月上旬に世界人工智能大会(WAIC2024)が開催された。100以上の専門フォーラムが開かれ、1000人以上の著名人、テスラ、マイクロソフト、デル、アリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰訊)、バイドゥ(百度)、ファーウェイ(華為技術)など500社以上が参加した。テーマは大規模言語モデル、コンピューティング、ロボット、自動運転などだが、大方の印象は大規模言語モデルとロボットが半々だったという。そんな中、アリババの大規模言語モデル「通義千問」に大きな注目が集まった。アリババ復活ののろしとなるだろうか。

アリババは中国のDXを主導

アリババは金融子会社のアントグループと共に中国のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導した。2004年に決済ツールのアリペイ(支付宝)、2009年に11月11日の独身の日の大規模セール「ダブルイレブン(双11)」を開始した。2011年にQRコード決済を開始。2013年にMMF(マネー・マーケット・ファンド)の「余額宝」、2015年に小口金融商品の「花唄」を発売し、どちらも大ヒットした。2015~2016年には新型O2Oスーパー「盒馬鮮生」、ライブコマース「淘宝直播」、信用スコア「芝麻信用」もスタートした。2017年に研究機関「達磨院」を設立。2018年に医療共済保険「相互宝」を開始した。

アリババは斬新な商品とプラットフォームを次々とリリースし、中国社会に革命をもたらした。この頃のアリババと創業者ジャック・マー馬雲)氏は中国DXの象徴として光輝いていた。しかし2020年代に入り暗転する。

アントグループは2020年11月に史上最大規模の上場を予定していた。それが突如中止となり、世界を震撼させた。これは中国当局によるIT企業締め付けの端緒となった。翌2021年4月、アリババは独占禁止法違反で182億元もの巨額罰金を課せられ、アントグループはデータの開放と金融商品の“調整”を迫られた。IT巨頭の象徴ゆえに、最も強い逆風を受けた。

その後のアリババは業績悪化や組織変更、功労者の退任、時価総額で新興の拼多多(ピンドゥオドゥオ)に抜かれるなど、マイナスの話題ばかりだった。

アリババの「通義千問」は唯一のオープンソースモデル

中国電子技術標準化研究院は2023年12月、AI業界の健全で秩序ある発展のため、大規模言語モデルの適合性評価を行い、アリババの「通義千問」、百度の「文心一言」、テンセントの「Hunyuan(混元)」、三六零安全科技(360セキュリティー・テクノロジー)の「360智脳」の4モデルが合格した。

通義千問はアリババのクラウドコンピューティング子会社「アリクラウド(阿里雲)」が開発した。アリクラウドはダブルイレブンと同じ2009年にスタートした。アリババグループはもとより、国家鉄路集団、中国石化、中国石油、中国煙草総公司など国有中央企業のDXにも大きく貢献した。さらに世界中に開発者と企業ユーザーを持つ。

「通義」とは一般的、合理的な正義といった意味合いで、通義千問はAI Generated Content(AIGC、AI生成コンテンツ)と呼ばれるタイプの大規模言語モデルだ。

通義千問の最大の強みは四つの中で唯一のオープンソースモデルであることだ。パラメーター数(外部要素の処理数)が18億、70億、140億、720億の四つの大規模言語モデルをオープンソース化した。その結果、権威ある世界10種の評価基準で最上位にランクされ、メタ社のオープンソースモデルLlama2を上回った。

静止画をアニメーションへ変換

通義千問は複数データを一括処理できる。複数の対話、コピーライティング、論理的推論、多言語サポートにより、小説の続きやEメールを書いたり、コピーを作ったりできるのだ。アリババはWAIC2024の会場で「通義12時間、AIアシスタントが付き添う1日を体験しよう」をテーマに掲げた。対話、効率、インテリジェンス、ビジョンの四つを中心に、仕事、学習、生活のシーンにおいてAIアシスタント機能を提供する。あらゆる静止画像をダンスアニメーションに変換でき、兵馬俑が踊りだしたり、名画「韓熙載夜宴図」を復活させたりと、インパクトの強いデモンストレーションを行った。参加者は「パーソナルボイス」や「大学100万人クリエーター」などのツールのほか、AI絵本やデモンストレーションの鑑賞、うちわやポストカード作りなどを体験した。

大規模言語モデルはアリババの切り札になるか

2009年にスタートした大規模SNSの微博(ウェイボー)は通義千問の草創期からの顧客だ。微博のトップは、「生成AIは想像を超えるスピードで発展している。この間、多くの大規模言語モデルが登場したが、これらは百科辞典のようなもので、何個も必要ない。微博では、通義千問のような優れたビッグモデルを使用しつつ、独自データをより精緻にカスタマイズしたい」と述べた。ユーザーサイドのニーズをよく表している。

一方、アリクラウドのトップは、中国の大規模モデルの進歩と社会実装にはオープンソースモデルのエコシステム構築が不可欠だと述べ、外部との連携を強調した。また、演算能力、AI、生成モデルの形成など、フルスタックの技術革新を通じてクラウドコンピューティングシステムをアップグレードする。通義千問はAI時代に最もオープンかつ競争力のあるクラウドとしてユーザーニーズに応えるという。

唯一のオープンソースモデルであることや国内外多数の優良顧客の存在により、四つの国家認定大規模言語モデルの中でトップランナーなのは間違いなさそうだ。ただ、2010年代に道なき道を切り開いた王者の輝きはない。かつてと違い、独創的なプラットフォームとはいえないからだ。

しかし、この通義千問の動向は今後のアリババを左右しそうだ。長年のライバルのテンセントはともかく、台頭著しいバイトダンスTikTok運営)や拼多多(Temu運営)にここで差をつけられるかどうか。アリババは正念場を迎えている。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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