中国の地方財政は土地財政依存から脱却できるか

吉田陽介    2024年7月30日(火) 7時30分

拡大

中国経済の行方を語る場合、不動産業界の動向は重要だ。この業界は関連する産業も多く、不況に陥ると、消費者のマインドが悪化し、経済の回復も力強さを欠くようになる。写真は安徽省合肥市。

中国経済の行方を語る場合、不動産業界の動向は重要だ。周知のように、この業界は関連する産業も多く、不況に陥ると、消費者のマインドが悪化し、経済の回復も力強さを欠くようになる。

中国政府はここ数年、不動産業界への規制を強化していたが、経済の減速傾向の緩和ペースが緩やかなことから、政治局会議の報道文では不動産業界への規制に関する記述が少なくなり、活性化させる方針となった。

中国政府は昨年来、未完成の住宅の工事を完了させて顧客への引き渡しを保証する「保交楼」といわれる措置などを講じているが、不動産市場の不振はまだ続いており、政策効果が本格的に現れるのはまだ先のようだ。

不動産業界不振の打開策を示した三中全会の措置

不動産市場の不振は、必然的に不動産企業への投資に消極的となり、体力があるといわれる中央企業の土地取得も減少する。これにより、土地譲渡金が大幅に縮小することから、地方財政が懸念されるようになる。

15~18日に開かれた中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会)は中長期の経済戦略を示した「改革をいっそう全面的に深化させ中国式現代化を推進することに関する党中央の決定」を発表し、海外メディアの注目を集めた。「決定」には不動産に関する記述もあった。内容は以下の通り。

1、賃貸・購入両方を奨励する住宅制度の確立を急ぎ、不動産業界の新しいビジネスモデルの構築を加速する。

2、保障型住宅の建設と供給を拡大し、給与生活者層の住宅需要を満たす。

3、都市・農村住民の多様な住み替え需要をサポートする。

4、不動産市場に対するコントロール自主権を各都市政府に十分に与え、各地の実情に合わせた施策を取り、関係都市による住宅購入規制政策の撤廃もしくは緩和、住宅の区分基準の廃止を認める。

5、不動産開発の融資方式と分譲住宅の前売り制度を改革する。

6、不動産関連税制を整備する。

「決定」には、これまで政策文書に登場していた「住宅は住むためのものであって、投機のためのものでない」という文言は書かれていなかったが、「給与生活者層の住宅需要を満たす」などと書いてあるように、その考え方が反映されたものとなっているといえる。1と2は「人民を中心とする」という中国共産党のモットーを反映しており、一種の「福祉」的色彩を帯びた政策だ。

3は今年の全国人民代表大会(全人代)で打ち出された「買い替え・下取り」政策を住宅に適用したものとなっている。特に、不動産業界はリフォームなど関連業界が多く、同業界の不振は雇用情勢にも大きく影響する。そのため、「住み替え」に関する措置を打ち出したものと思われる。

このように、今後の不動産業界の発展はこれまでのように別の事業に手を出さず、本業に立ち戻るという基調になっている。

地方財政が逼迫?不動産市場の不振が原因

ただ、現在の中国経済の構造はまだ投資けん引型であるため、不動産業界の不振は企業だけでなく、地方の財政にも影響をもたらす。

華泰証券が7月半ばに発表した研究レポートによると、2024年第1四半期(1~3月)、全国の成約土地建築面積は前年同期比29%減の約9億9000万平方メートル、成約金額は同35%減の約1兆1000億元(約23兆1000億円)だった。

中国の土地市場の契約数は減少しているが、中でも住宅用地の減少が最も大きい。同社の研究レポートによると、第1四半期の住宅関連用地の成約建築面積は前年同期比35%減の約1億8000万平方メートルで、成約額は同42%減の約6694億元(約14兆574億円)だった。

このことは、住宅在庫の活性化政策の効果がまだ顕著に見られていないことを意味する。

同研究レポートは、「ほとんどの都市で成約規模が減少し、一部の都市では土地供給を停止した。2024年第1四半期の355都市のサンプル都市のうち、成約額が100億元(約2100億円)以上の都市は前年同期比12都市減の15都市で、2020年上半期より47都市減少した。成約ゼロの都市は前年同期比11都市増の39都市に達した」と述べ、不動産関連の消費マインドの改善が遅れていることを示している。

土地市場の不振は不動産業界の流動性危機に関係している。2021年は中国の不動産業界にとって困難な1年といわれた。住宅価格抑制政策の影響などにより、不動産企業の資金調達環境が悪化し、資金繰りが悪化した。中国政府はその悪影響を緩和するために、調整政策を講じた。

粤開証券が6月23日に発表した研究レポートによると、全国の土地譲渡金は2020年の8兆400億元(約168兆8400億円)から2023年の5兆600元(約106兆2600億円)に下落し、累計下落率は37%だった。同レポートによると、2024年の全国財政の土地譲渡収入は前年比19%減の4兆7000億元(約98兆7000億円)になる。

粤開証券首席エコノミストの羅志恒氏が6月24日に発表した文章は、「財政収支の面から言うと、不動産市場の低迷は地方の利用可能な財力を減少させ、財政支出が力を発揮するのを妨げる」と述べた。

文章は、収入面では、地方財政の土地財政への依存度が低下し、上級からの移転支出への依存度が高まり、中央にプレッシャーが波及している」としている。支出面では、地方財政が積極的な財政政策を実施するのは難しくなり、一部の公共政策目標の実現に影響を与えると指摘する。

民生証券が6日に発表した研究レポートは、中国の29省の上半期の土地市場状況の統計を取った。統計に含まれていない2省はチベット自治区と海南省だった。この研究報告書によると、2024年上半期の土地譲渡金の減少幅は広東省が64%、寧夏回族自治区が62%、天津市が60%と最も大きかった。

「経済大省」といわれる土地市場も楽観できない。2024年上半期の土地譲渡金の前年同期比減少幅は、沿海地域では江蘇省が52%、浙江省が37%、福建省が1%、山東省が18%だった。直轄市では北京が16%、上海が19%だった。

土地依存型財政からの脱却を目指す三中全会の措置

地方財政にとって土地譲渡金は重要で、地方政府は通常、土地純収益から教育資金、農地水利建設資金、住宅保障支出などを計上しているため、土地財政に依存している地方財政のあり方を見直す必要がある。

地方財政について、三中全会では以下のような措置が打ち出された。

1、地方の自主運用可能な財政資金を増やし、地方税源を広げ、地方の租税管理権限を適度に拡大する。

2、財政移転支出体系を充実させ、特別移転支出を整理・規範化し、一般的移転支出を増やし、市・県の財政力と権限との適合度を高める。

3、質の高い発展を促すための移転支出インセンティブ・制約メカニズムを確立する。

4、消費税の課税段階の繰り下げを推進して徐々に地方税に切り替え、未控除仕入増値税還付政策と税額控除の仕組みを見直し、共有税の分割比例を適正にする。

5、都市整備税、教育費付加、地方教育付加の地方付加税への統合を検討し、地方政府に一定の枠内で具体的な適用税率を決定できる権限を付与する。

6、地方政府特別債の適用枠を適切に拡大し、プロジェクト資本金に用いる分野、規模、割合を適度に拡大する。

7、政府債務管理制度を整備し、包括的地方債監視・監督管理体系と隠れ債務リスク防止・解消のための長期的かつ効果的な仕組みを確立し、地方融資プラットフォーム会社(地方政府系資金調達受け皿会社)の改革・業務転換を急ぐ。

8、税外収入の管理を規範化し、一部の税外収入の管理権限を適度に地方へ委譲し、地方によって現地の実情に応じた管理を実施する。

地方財政が土地譲渡金に頼り、地方融資プラットフォーム会社を通じて財政収入を得る方法は、投資主導型から消費主導型の経済構造の転換にマイナスとなるため、新たな地方財政のあり方を模索したのが今回の「決定」で盛り込まれた措置だと筆者は考える。

1の「地方の自主運用可能な財政資金を増やし、地方税源を広げる」という措置はその典型だろう。「新たな質の生産力」関連の産業が集中している深センなどはまだいいが、財政力の弱い地域は中央の移転支出に頼りがちになる。そのため、地方の優位性を生かした産業の発展を図ることが求められる。

消費税は個人が消費する財やサービスに課せられるもので、一定の税収が見込まれる。ただ、逆進性があるため、税率をどうするかは経済状況を見て検討する必要があるだろう。

さらに、地方への交付金は「ひも付け」で、特定の事業にしか使えないなら、余った財政資金は「ストック化」する。全人代の「財政報告」は2014年ごろから「ストック資金の活性化」を強調している。この措置はこれまでの「財政報告」の基調に沿ったものといえる。

地方の債務は以前から議論されていたが、6で挙げられた措置のように、確実な利益が見込まれるプロジェクトを選定して債券発行を行えば、債務拡大の抑制に一定の効果がある。

現在は2013年に始められた「改革の全面的深化」の成果をより深める段階にある。中国政府は現政権になってから政策の「貫徹・実施」を強調しているため、改革は一定の成果を挙げられると筆者は考える。

地方財政の面からいうと、安定的税収が見込まれれば、土地財政への依存度は低下し、地方の行政サービスの充実にもつながる。

また、固定資産投資で景気浮揚を図る経済構造から消費主導の構造に転換する道筋が付けられるだろう。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携