中国の新エネ車市場がプラグインハイブリッド車の天下に、EVは現実的選択でない?

高野悠介    2024年8月12日(月) 7時0分

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中国で電気自動車一択に賭けた企業は軒並み苦戦し、メディアもPHEVこそ現実的選択という論調に変化してきた。写真はBYDの「秦PLUS DM-i」。

中国の新エネルギー車は電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)を含む。EVにばかり光が当たっているが、実はPHEVの存在が大きい。EV一択に賭けた企業は軒並み苦戦し、中国メディアもPHEVこそ現実的選択という論調に変化してきた。その実情を探ってみよう。

新エネルギー車の4割がPHEV

中国乗用車市場信息聯席会の最新データによると、上半期の乗用車の販売台数は982万8000台で、前年同期に比べて3%の微増だった。新エネルギー車は同33%増の411万9000台だった。

電動汽車用戸聯盟の資料によると、6月に売り上げを計上したPHEVは130車種あった。上半期の販売台数は合計160万3163台。つまり、新エネルギー車の4割弱はPHEVが占めている。PHEVの車種別トップ10は以下の通り。

BYD「秦PLUS DM-i」15万2533台

BYD「宋PLUS DM-i 」11万9269台

BYD「宋Pro新能源」11万9225台

鴻蒙智行「問界M7」11万1294台

BYD「駆逐艦05」9万6926台

理想汽車「理想L7」6万4992台

BYD「唐DM」5万5893台

BYD「漢DM」4万8659台

鴻蒙智行「問界M9増程版」4万6087台

理想汽車「理想L9 」4万4391台

トップ10うち6車種がBYDで、理想汽車とファーウェイ系の鴻蒙智行がそれぞれ2車種ランクインした。

BYDはPHEVの王者

BYDの2024年上半期の販売台数は前年同期比28.46%増の161万3000台で、うち純EVは同17.73%増の72万6200台、PHEVは同39.54%増の88万1000台だった。PHEVの構成比は55%になり、業界平均を大きく上回る。実はBYDの屋台骨を支えているのはPHEVだ。

販売台数トップの「秦PLUS DM-i」は全長4765mm、全幅1785mm、全高1495mm、ホイールベース2718mmの4ドアセダンで、パワーユニットに+1500ccエンジンとDM-iと呼ぶハイブリッド用ブレード形電池を用い、最高出力は110ps、航続距離は1245km。2024年型の価格は8万~15万元(約160万~300万円)とボディサイズにしてはかなりお値打ちだ。

理想汽車はPHEVのSUVに絞って成功

理想汽車は李想氏が2015年に設立した。新エネルギー車製造のために設立された企業群「造車新勢力」の代表格で、蔚来汽車小鵬汽車と共に「蔚小理」と並び称された。2018年に大型SUV「理想ONE」を発表した。PHEVの一種で、エンジンは発電のみで動力には使わないレンジエクステンダーだ。2022年に同じくレンジエクステンダーの大型SUV2車種、35万元(約700万円)クラスの「理想L8」と45万元(約900万円)以上の豪華SUV「理想L9」を発表した。L9は1000万円近い高額ながらヒットした。2023年には30万元(約600万円)クラスの中型SUV「理想L7」を発表した。こちらは同クラスSUVナンバーワンとなる。2024年4月には25万元(約500万円)クラスのSUV「理想L6」を投入し、ラインナップを強化した。

理想汽車は車型を中大型のSUV、動力をPHEVに絞り、中高級車クラスで販売台数を稼いだ。理想汽車の上半期の販売台数は18万9000台で、小鵬汽車の5万2100台、蔚来汽車の8万7400台と大差をつけた。

小鵬汽車と蔚来汽車は資源を純EVに集中し、さらに自動運転など将来を見据えたスマート技術の開発にこだわった。しかし、小鵬汽車は2024年の販売目標が28万台なのに対し、上半期の進捗率はわずか18.6%だった。蔚来汽車は目標23万台に対し、進捗率は38%だった。

理想汽車は2024年3月にようやく初の純EVの7人乗りミニバン「理想MEGA」を発売した。しかし、55万元(約1100万円)と高額のため、さすがに販売台数は伸びていない。PHEVで成功したように、これから順次下のクラスへ展開するのだろう。

鴻蒙智行、PHEVとEVで三つの「界」シリーズを展開

鴻蒙智行(鴻蒙智能汽車技術生態連盟)はファーウェイ(華為技術)が主管するスマートカーブランドの連盟で、2024年6月に「問界」「智界」の2ブランドを編入したと発表した。中国メディアはこれまでセレス(賽力斯)の台数として表記していたが、最近は鴻蒙智行に変更している。

問界ブランドはSUVで統一されている。問界M5は純EVでデビューし、後にレンジエクステンダーを追加した。価格は25万~31万元(約500万~620万円)。問界M7はレンジエクステンダーのみで、価格は25万~32万元(約500万~640万円)。問界M9はレンジエクステンダーと純電動の2種を展開し、価格は47~57万元(約940万~1140万円)。

智界ブランドは奇瑞汽車との共同開発車で、ファーウェイ系として初のセダン「智界S7」を発売した。純EVで、価格は25~35万元(約500万~700万円)。

さらに第3の「界」として「享界」が登場した。8月上旬に北京汽車集団傘下の北汽新能源との共同開発車「享界S9」が発表された。こちらも純EVの中大型セダンだ。

EVの用途はいずれ限定的に

2024年上半期に市場をリードしたのは売れ筋のPHEVを持つメーカーだった。BYDはフルラインでPHEVを持ち、他社を圧倒している。新勢力では、理想汽車が中高級PHEVに絞り、EVを後回しにして成功した。異業種参入組は純EVに集中したが、鴻蒙だけはPHEVをラインナップし成功した。

そんな折、中国メディアの騰訊網は「EV市場は冷めつつある、『蔚小理』は名ばかりの存在に」と題する記事を掲載した。充電池やバッテリーステーションがどれだけ発達しても、純EVは一般家庭にとって現実的ソリューションにはならないと指摘した。組み合わせはどうであっても、新エネルギー車のトレンドはハイブリッドになるとした。記事はさらに踏み込み、EVの生きる道はシャオミ(小米)の「SU7」のような高性能スポーツカーか上汽通用五菱汽車の「宏光MINI」、BYDの「海鷗(シーガル)」のような通勤短距離用途しかないとまで述べている。中国メディアのスタンスもかなり変化してきた。今後の展開に目が離せない。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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