夏まつりと「南男北女」、北朝鮮の酒席で金メダルを取る方法

北岡 裕    2024年8月24日(土) 20時0分

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北朝鮮で笑いを取るテクニックの一つに、落として上げるという方法がある。写真は答礼宴で熱唱する女性接待員。楽しい時間の後にはスピーチが待っていることが多い。

「在日社会にはいまだに男尊女卑の気風がはびこっている」。そう強く語ったのは、今は朝鮮総連や在日社会とは一定の距離を置いている50代の在日コリアンの女性だ。「あなたは大丈夫よね?」とわが家の夫婦の家事分担に関していくつか質問をされて答えると、「大丈夫そうね」とうなずいた。

さて夏休みが始まると、各地の朝鮮学校で夜会が開かれる。夜会といっても歌手の中島みゆきさんとは全く関係ない。つまりは夜に行われる盆踊り抜きの夏まつりだ。ビールにジュース、七輪を貸し出して焼肉キムチやキムパブ(海苔巻き)などが売り出され、大抽選会で豪華景品が当たる。私は当たったことがない。

在日の方はもともと気前がいいのに加えて、夜会の売り上げは朝鮮学校の経営につながる。補助金の問題などでどこの朝鮮学校も経営が苦しい。だからどんどん売れて、目の前のテーブルの上の隙間はあっという間に消える。

私が足しげく通ったのは、某所で行われていた通称「肉まつり」というイベントだ。知己の在日コリアンの方から「焼肉食べ放題、飲み放題で3000円ポッキリ。来ませんか」という、まるで夜の街の客引きがささやくようなお誘いを受けて、半信半疑で訪問してみたら、ある朝鮮総連支部の建物にテーブルが並び、七輪が置かれ、食肉関係の会社に勤める人が仕入れてきたというカルビにすっぽん、犬肉にイノシシ肉、そしてたくさんの缶ビールとチューハイ、清涼飲料水が並んでいた。焼肉を食べてみんなで元気になろうというのが開催の意図なのだが、量も質も大満足だった。残念ながらコロナを境に開かれていない。

肉まつりが終わりに近づいても、男性たちはいつまでもだらだらと焼肉を食べ、お酒を飲み、話し続けている。女性たちは後片付けに追われていた。

「これはまずいなぁ。お手伝いした方がいいのでは」と思ったが、私の立場は客人のため、何も言うことができなかった。そして冒頭の女性の「在日社会にはいまだに男尊女卑の気風がはびこっている」という言葉を思い出したのだった。

さて、パリ五輪が終わった。北朝鮮・朝鮮民主主義共和国は8年ぶりの参加。銀メダル2個と銅メダル4個を獲得した。卓球の混合ダブルス、女子シンクロ高飛び込みで銀、ボクシング女子54キロ級、女子高飛び込み、レスリング女子53キロ級、レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級で銅メダルを獲得した。メダル獲得数は女子選手の方が多い。

スポーツの国際大会で女子の方が男子より良い成績なのは長年の北朝鮮の特徴で、サッカーは特に顕著。FIFAランキングも女子は9位(8月16日付)、男子は110位(7月18日付)とその差は歴然だ。

もちろん自国の代表は応援するが、女子に比べ男子がふがいない状況は現地の女性の留飲を大きく下げているという。「何よ、普段は何もしないでえらそうにしているのに、スポーツでは女子の方が強いじゃないの」というわけで、北朝鮮の男性たちも国際大会の結果が出ると少し肩身が狭くなる。今回もたぶんそうだろう。「女子はいい。男子はもうちょっと頑張らないとなぁ」というため息まじりの声は在日コリアンの友人たちからもよく聞く。

北朝鮮では女性を持ち上げると場の空気が良くなる。だが、あからさまなヨイショ、ゴマすりはむしろ白けてしまう。

では、どうすればよいか。訪朝した際に答礼宴の席で、朝鮮語で簡単なスピーチを北の当局者、案内員からお願いされた。案内員と私たち日本の訪朝団、答礼宴で見事な公演を披露してくれた歌手らが僕の方を見ていた。

北朝鮮で笑いを取るテクニックの一つに、落として上げるという方法がある。私はこう話し始めた。「朝鮮語は難しいですね。そして平壌にたくさん飾られているスローガン、あれはなかなか理解が難しい」。

場の空気が明らかに冷えた。「おまえはいったい何を言っているんだ?」という刺すような視線を日朝両側から感じた。しかしこれも想定内だ。続ける。

「しかし今日この答礼宴を通じて、私はかつて日本で習ったある朝鮮語のことわざが間違っていないことを確信しました。それは『南男北女』です」。

ここでどっと場が温まった。女性の参加者が特に愉快そうに笑っている。南男北女とは、男は南の方がイケメン、女性は北の方がきれいという意味だ。ルッキズム、コンプライアンスが問題になる今の日本ではアウト、炎上発言かもしれないが、北朝鮮ではウケた。北朝鮮の男性案内員がすねたふりをしながら言う。「北の男ですまんね」と。

ここでさらに畳み掛けた。「女性の皆さんに聞きたいのですが、ここで男性に配慮する必要はないですよね」。女性の参加者からはさらに拍手をいただいた。これは賛同と受け取った。男性案内員も苦笑いしていた。

落として上げて、女性を持ち上げて。そういえば今回のオリンピックには北朝鮮の強豪選手が多い重量挙げの選手が出ていなかったが、重量挙げの要領でよいしょと女性たちを上げれば、平壌の酒席での金メダルは間違いないのだ。

■筆者プロフィール:北岡 裕

1976年生まれ、現在東京在住。韓国留学後、2004、10、13、15、16年と訪朝。一般財団法人霞山会HPと広報誌「Think Asia」、週刊誌週刊金曜日、SPA!などにコラムを多数執筆。朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」でコラム「Strangers in Pyongyang」を連載。異例の日本人の連載は在日朝鮮人社会でも笑いと話題を呼ぶ。一般社団法人「内外情勢調査会」での講演や大学での特別講師、トークライブの経験も。過去5回の訪朝経験と北朝鮮音楽への関心を軸に、現地の人との会話や笑えるエピソードを中心に今までとは違う北朝鮮像を伝えることに日々奮闘している。著書に「新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮」(角川書店・共著)。

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※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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