高野悠介 2024年8月26日(月) 18時0分
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中国で新エネルギー車の7月の販売シェアが50%を超えた。中国メディアではこのタイミングでそのメリットとデメリットについて再考する議論が盛んになっている。写真は「領克06PHEV」。
中国で電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車などの「新エネルギー車」の7月の販売シェアが50%を超えた。中国メディアではこのタイミングでそのメリットとデメリットについて再考する議論が盛んになっている。新エネルギー車のメリットとは何か。
中国乗用車市場信息聯席会(乗聯会)によると、7月の乗用車販売台数は172万台、うち新エネルギー車は87万8000台で、シェアは51.1%だった。前年同月比15%増で、単月として初の50%超えを達成した。中国汽車流通協会の関係者はメディアのインタビューに対し、「多くの消費者が新エネルギー車のスマート化、コスト低下、利便性を認識し始め、購入を希望するようになった」と答えている。その要因として、補助金、豊富になったラインナップ、充電インフラの充実を挙げた。補助金とは買い替えを促す「以旧喚新」政策の強化で、2018年4月30日以前に登録した新エネルギー車に対する買い替え補助金が出る。2024年末までの期限内なら最高2万元(約40万円)がもらえる。
一方、乗聯会は中国メーカーによるPHEV技術の革新が世界的な普及を押し上げたと見ている。7月の新エネルギー車販売台数87万8000台のうち、純EVは前年同月比14.3%増の48万2000台だった。PHEVは同80.4%増の39万6000台で、伸び率は段違いだ。今やPHEVが新エネルギー車の45%を占め、市場全体をけん引している。
現在の議論の的は自動車保険だ。新エネルギー車の所有者は保険料が非常に高いとの不満を抱えている。H氏の場合、1年目の保険料は4600元(約9万2000円)で、2年目には6000元(約12万円)に上がり、3年目に保険を解約したという。新エネルギー車の保険料が2年目に上がるとは知らなかったという。
2023年版「新能源汽車保険市場分析報告」によると、新エネルギー車の保険料は内燃エンジン車に比べ平均21%高い。純EVに限れば、内燃エンジン車より平均1687元(約3万3700円)高いという。
主な理由は二つある。
第一に、新エネルギー車はペダルやボタンなど操作モードが異なる上、トルクが強く、走行性能が高い。そのため乗り換え当初には事故が多発する。また、物流事業に乗り出すなど、走行距離が増えるケースが多く、これも事故につながっている。
第二に、新エネルギー車はスマート化が進み、多くの光学装置や精密部品が組み込まれているため、事故が発生すると修理コストが高額になる。テスラのような一体成型ダイキャストボディもそうだ。そのため、保険会社は高額の保険料を設定しても利益は出ていないと主張する。
保険料が高額なら、燃料代など維持費の安さでカバーするしかない。あるメディアの試算によると、次のようになる。内燃エンジン車の燃費を100km当たり8リットル、つまり1リッター当たり12.5キロ、ガソリン代はリッター当たり8元(約160円)とする。一方、純EVは100km当たり15kwh、充電料金は充電当たり1.2元(約24円)とする。この仮定で比較すると、ガソリン車のキロ当たりコストは0.64元(約12.8円)、純EVのコストは0.18元(約3.6円)となる。他の要素を考慮せず、年間走行距離が3700kmなら、保険料はカバーできる。
他の要素を考慮すればどうなのだろうか。純EVはトルクが強く、車重が重い。そのため専用タイヤを履いていても摩耗が早く、タイヤ交換コストは高い。現状では純EVには8年保障が義務付けられているため、メーカーが義務を果たせば、バッテリー交換コストは許容範囲に収まるだろう。すると、一般に走行距離が年間1万km以上ならコストカットできる計算になる。
商品価値の下落も問題だ。中国汽車流通協会のレポート「2024年7月中国汽車保値率研究報告」によると、3年落ちの価格維持率、つまり中古車価格は全面安となっている。小型車、中型車、大型車、コンパクトSUV、中大型SUV、MPVのどのカテゴリーをとっても前月比で微減となった。
高級車で価格維持率が高いのは、ポルシェ71.3%、レクサス58.4%、アウディ56%だ。合弁ブランドは日系が強く、トヨタが60%、ホンダが55.7%、日産が53.1%。外資系で上昇したのはレクサスとアウディのみで、他は全て下降した。
中国車では、広汽集団の「トランプチ(傳祺)」が61.6%と高いが、吉利は55%、奇瑞は52.6%、BYDは50.7%で、やはり全ブランド下降した。
新エネルギー車はさらに低く、大きな問題だ。PHEVは47.9%、純EVは48.5%。比較的維持率が高いのはModel X 、Medel Yなどのテスラ車で、国内ブランド車はみな厳しい。
商品価値の棄損に追い打ちをかけているのが厳しい価格戦だ。今年は春節前からテーブルをひっくり返すようなセール合戦が始まった。BYD「秦」シリーズの最新バージョンはPHEVも純EVもおしなべて前バージョンより2万元(約40万円)も安くなっている。その上、最新型には豊富なカラーバリエーションや数々の最新スマート機能が付加されている。セールの影響で中古価格はさらに下落し、旧車オーナーはBYDに背中を刺されているという他ない。
こうした環境でユーザーは純EVを積極的に購入するだろうか。地方都市では充電インフラも未整備だ。そこで、従来の給油インフラを使いながら新エネルギー車扱いを受けるPHEVに人気が集まっている。今や新エネルギー車の4割を占め、そのシェアは連続して上昇している。中国でもPHEVこそ現実的選択となっているのだ。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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