中国、ペルーを南米戦略拠点に―リマ郊外の新港運営権を獲得、「一帯一路」構想の一環

山崎真二    2024年9月9日(月) 9時30分

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中国が南米ペルーとの経済関係強化に動いており、ペルーを南米戦略の拠点にするのではないかとの見方が強まっている。写真はペルー。

中国が南米ペルーとの経済関係強化に動いており、ペルーを南米戦略の拠点にするのではないかとの見方が強まっている。

両首脳が経済協力強化で合意

中国がペルー進出に熱心になっていることは数年前から中南米関係者の間でよく指摘されていた。中国の南米戦略の最重点国はブラジルに次いでペルーという見方が有力になっている。中国企業はペルーの鉱業分野やインフラ部門を中心に積極的に投資しており、今や「ペルー経済の発展は中国の存在を抜きにしては考えられない」(ペルーの有力エコノミスト)といった声が聞かれるほど。両国の緊密な経済的結び付きを象徴するのは、今年6月末、ペルーのボルアルテ大統領が中国を公式訪問し、習近平国家主席と会談したこと。両国のメディア報道によれば、双方は2国間の経済・貿易面での強化関係をもう一段格上げすることで合意した。また、この首脳会談で両国間の自由貿易協定(FTA)の拡充を目指す交渉も事実上完了したと伝えられる。習近平主席は鉱業のほか電力・通信・港湾などのインフラ分野でも経済支援を拡大すると述べたという。

ペルーの主要メディアによると、ボルアルテ大統領は中国企業の投資がペルーの経済・社会発展に大いに貢献していると謝意を表明した上、インフラ部門への一層の投資を歓迎し、新エネルギーや教育分野への中国の支援も要請した。同大統領の訪中にはペルーの鉱業、電力、港湾事業に携わるビジネスマンが同行し、中国側の関係者と会談したことが確認されている。

対ペルー投資は南米戦略の一環、ファーウェイが存在感

ペルー経済財政省などの資料によれば、両国の経済関係が緊密化する契機になったのは2009年のFTAの締結。2000年代前半まではペルーの最大の貿易相手国は米国だったが、2019年以降は対米貿易の割合が徐々に減少し、逆に対中貿易のシェアが着実に増加した。さらに2013年には中国とペルーの間で「包括的・戦略的パートナーシップ」協定が結ばれた。これ以降、ペルーの鉱業やインフラ部門への中国企業の進出や投資が本格化した。中国企業はペルーの主要産物である鉄鉱石のほぼすべて、銅の4分の1、石油の約3分の1の生産に関与しているといわれる。

通信分野では中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)が存在感を示す。ペルー国内の通信インフラや携帯電話の分野ではファーウェイが最有力企業となっている。在リマ外交筋は「中国の対ペルー投資が習近平主席の唱える『一帯一路』構想の南米戦略の一環として行われている点に注目すべきだ」と強調する。ペルーは2019年に中国との間で「一帯一路」構想への参加を表明する「了解覚書(MOU)」を取り交している。

11月に習主席が新港落成式に出席の情報も

こうした中、中国の新たな南米戦略の重要拠点がペルーになるのではないかとの見方を裏付けるようなプロジェクトが進行中である。首都リマの北方約70キロのチャンカイ市で中国の巨額支援で総額35億ドル規模の大型港湾建設が進められている。これが完成すれば、ペルーから鉱産物など主要産品を中国や東南アジア諸国に大量に運ぶことができ、輸送時間も2週間短縮されるというメリットがある。一方、中国にとってはチリ、ボリビアなど他の南米諸国や中米各国へのさらなる進出のハブ港にすることができる利点があるとされる。

実はこのプロジェクトの協定締結まで紆余曲折があった。同プロジェクトのペルー側関係者によれば、2000年に中国国営の海運大手「中国遠洋海運集団」の子会社である「中遠海運港口有限公司」が新港の管理会社の株式の60%を取得、翌21年にペルーの国立港湾局(APN)と新港の独占的運営権に関する協定に調印した。ただ、その後、APNが「行政上のミス」を理由に協定無効を主張する異例の事態が起きた。ペルーの政治アナリストは「ペルーが中国に向こう30年間の運営権を与える上、その後も中国が運営権を維持できるといった協定内容にペルー国内で反対論が起きため、APNが『行政上のミス』として協定をご破算にしようと試みた」と推測する。中国側は一時、契約違反と非難し、国際裁判に持ち込む動きを見せた。

しかし今年6月、ペルー議会で協定の締結を事実上容認する法案が成立、問題解決への道が開かれた。ボルアルテ大統領は同法案に署名し、訪中の際の“手土産”にしたとの見方が専ら。習近平主席は11月にペルーで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議に出席の折、チャンカイ新港の落成式に臨むとの情報も流れており、そうなれば中国の南米戦略に一段と弾みがつくことになろう。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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