高野悠介 2024年10月8日(火) 7時30分
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中国の外資合弁自動車企業は強引な新エネルギー車普及政策により悪戦苦闘中だ。メルセデス・ベンツ、合弁からの完全撤退、ゼネラル・モーターズ、ホンダなどの大幅前年割れなどが伝えられた。
中国の外資合弁自動車企業は強引な新エネルギー車(EV、PHEV、燃料電池車)普及政策により、悪戦苦闘中だ。メルセデス・ベンツ、合弁からの"完全撤退"、ゼネラル・モーターズ、ホンダなどの大幅前年割れなどが伝えられた。ベンツBYD合弁の騰勢汽車は、すでに持ち株比率は10対90だったが、今回残る10%もBYDが買い取り、さすがBYDだという高揚感に包まれた。その他外資合弁の不調に関する報道が非常に多い。その代表的存在、ホンダに関する記事に注目してみたい。
中国市場には二つの合弁企業を持つ強力な多国籍自動車企業が三つある。フォルクスワーゲン(上汽大衆、一汽大衆)、トヨタ(一汽豊田、広汽豊田)、ホンダ(広汽本田、東風本田)だ。ホンダは、中国市場では長くトヨタを上回っていたが、今や最弱と目されるようになった。
ホンダ中国の2020年販売台数はコロナ禍にもかかわらず前年比4.7%増の162万7000台を記録した。翌2021年から減少し、同4.0%減の156万1540台、2022年は同12.1%減の137万3122台、さらに2023年は同10%減の123万4181台(広汽本田62万469台、東風本田61万3712台)と2年連続2桁減だった。2024年に入りさらに悪化し、1~8月の販売台数は前年同期比27.2%減の52万5432台だった。8月単月では44.3%の大幅減となった。深刻さが増している。
本田合弁2社の歴史は以下の通り。
広汽本田は1998年設立。広州汽車とホンダの50%折半出資、合弁期間は30年。設立以来10年間で生産能力は1万台から36万台にまで急拡大し、2008年には累計生産販売150万台を突破。これは中国で5番目の速さだった。アコード、オデッセイ、フィット、シティの四大ブランドを中心に、高中級、中級、ベーシック、MPVまでカバーした。現在では、ヴェゼル、BREEZE(SUV)、アヴァンシア、インテグラを追加。看板車種はアコード。
東風本田は2003年設立。東風汽車とホンダ、50%折半出資。三つの生産工場と研究開発センターを持つ。まず世界戦略車CR-Vの生産をスタート。CR-Vは2004、2005年とCCTV(中央電視台)による年間ベストSUVに選出された。2006年にはシビックを導入。
以来、SPIRIOR、CIIMO(自主開発セダン)、エリシオン、XR-V、UR-V、インスパイア、LIFEなどを生産している。看板車種CR-Vは2024年には累計販売台数300万台を突破した。
販売縮小を受け、合弁2社は人員整理に着手した。東風本田は2000人の人員整理を発表した。退職金としてN(就業年数)+2+1カ月分が支給されるため、2500人が殺到した。広汽本田もN+2+1.8カ月分と、いずれも好条件を提示した。勤続10年以上の従業員は20万元(約420万円)近く支払われる可能性がある。そのため従業員による苦情は、ネット上ではほとんど見られないという。
これに対し、造車新勢力などの国内自動車企業の労働環境は、不当な方向へと向かっている。理想汽車は解雇時に合意された退職金を支払わず、一部の解雇スタッフを呼び戻したりしてお茶を濁している。小鵬汽車も、解雇時の退職金は勤続年数にかかわらず1カ月分しか支給していないことが明らかとなった。また奇瑞汽車は、違法な残業で従業員らから告発されている。国内系は、従業員を使いつぶすつもりのようだ。ホンダとは対照的だ。
中国メディアは、自動車産業界は外資合弁の苦境を強調しつつ、その手厚い退職処遇をうらやんでいると報じている。
ホンダ中国合弁事業は、広汽本田のアコード発売、東風本田のCR-V発売以来、永遠に発展するかに見えた、ホンダ中国事業の象徴として、広汽本田整車(車両)製造と東風本田発動機(エンジン)製造の二つの製造子会社がある。これらは合弁企業の単独設立工場としては他に例を見ない成功を収めた。しかし今回、構造調整の一環として、東風本田発動機製造を広汽本田に完全合併した。そして両合弁とも2024年中にEV専用新工場を稼働する。ただし純EVは2022年から発売している。
広汽本田は2022年6月、初の純EV、ヴェゼルクラスの小型SUV、e:NP1極湃1を発売した。2024年5月にはe:NP2極湃2を追加した。東風本田も同時期にそれぞれデザインの違うe:NS1、e:NS2を発売した。
しかしe:NP1極湃1の2024年9月の販売数は101台、累計837台、e:NP2極湃2の9月は341台、累計は1104台と芳しくない。e:NS1は9月11台、累計2172台、e:NS2は9月169台、累計378台とこちらも寂しい。競合の激しい小型SUV分野で存在感を示せていない。
2024年9月末には、東風汽車のEV生産プラットフォームを利用したセダン、霊悉Lを発売した。年末には、新シリーズの第1弾、燁S7、燁P7を、2025年には第2弾として、燁GT CONCEPTを投入、2027年には6モデルとなる予定だ。
現況は、アコード、CR-Vといった世界戦略車の落ち込み分を、新EVの投入でカバーできていない。さらに気になる点はいくつもある。これまで投入した中国専用モデル、凌派、哥瑞、UR-Vなどは成功したとは言い難い。新EVシリーズもほぼ中国市場専用だ。中国消費者の望みはやはり世界戦略車ではないか。世界戦略EVが必要だろう。さらに昨今の新エネルギー車の売れ筋は、純EV市場は10万元(約210万円)クラスの小型車と30万元(約630万円)以上の高性能車に二極化する傾向にあり、ボリュームゾーンはPHEVが伸びている。しかしホンダ中国のラインアップはこれらの市場変化にうまく対応していない。合弁相手の思惑や、資本構成など外資企業の制約を乗り越え、品ぞろえ改革をできるかどうか。当面いばらの道が続きそうだ。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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