長田浩一 2024年10月10日(木) 7時30分
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11月5日に予定される米国の大統領選挙まで1カ月を切った。カマラ・ハリス副大統領、ドナルド・トランプ前大統領の有力候補2人の支持率は拮抗しており、選挙当日まで予断を許さない緊迫した展開が続きそうだ。
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11月5日に予定される米国の大統領選挙まで1カ月を切った。民主党カマラ・ハリス副大統領、共和党ドナルド・トランプ前大統領の有力候補2人の支持率は拮抗(きっこう)しており、選挙当日まで予断を許さない緊迫した展開が続きそうだ。「アジアの窓」の視点からは、英国に続いて、アングロサクソンの大国にインド系のトップが誕生するかに関心が集まる。そして懸念されるのが、2021年1月にトランプ支持派によって引き起こされた国会議事堂襲撃事件のような、民主主義を否定するトラブルの再発だ。
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8月から9月にかけてロサンゼルスなどを訪れたエコノミストによると、大統領選は大変な盛り上がりの中で展開されているらしい。9月10日の両候補によるテレビ討論の際は、空港はじめ市内各所でパブリックビューイングが実施され、多くの有権者が熱心に見入っていたという。日本でも、9月に自民党総裁選、立憲民主党代表選が行われたが、参加できるのは国会議員のほかは党員など党の関係者だけ。全有権者が投票できる米国の大統領選挙とは、国民の関心や熱気という点で違いが出るのはやむを得ない。
良く知られているように、ハリス氏はジャマイカ出身(アフリカ系)の経済学者の父親と、インド出身の科学者の母親の間に生まれた。その意味ではアフリカ系とも、インド系とも言える。アメリカの大統領は長く白人男性に限られていたが、2009年(選挙は08年)にアフリカ系のバラク・オバマ氏が就任してその伝統は破られた。もしハリス氏が当選したら、初の女性大統領となるのはもちろん、初めてのインド系大統領になる。
インド系といえば、今年7月まで英国の首相を務めたリシ・スナク氏(保守党)を思い出す。経済政策の失敗によりわずか1カ月半で退任したリズ・トラス氏の跡を襲って、22年10月に首相に就任。両親は共にインド系で、英国初の非白人首相となった。今夏の総選挙で保守党が大敗したため1年半余りの在任にとどまったが、長く英国の植民地だったインドから首相が生まれたのは画期的な出来事と言っていいだろう。そして、もし米国でハリス氏が当選したら、アングロサクソンの二大大国である米国と英国にインド系のトップが生まれることになる。
ただ、インド系だからこその理由で、ハリス氏の資質を疑問視する向きが一部にあるという。ご承知のように、インドにはカーストと呼ばれる身分制度が存在する。バラモン(司祭)、クシャトリア(王侯・士族)、ヴァイシャ(庶民)、シュードラ(隷属民)の四つに分かれているが、ハリス氏の母親は最上位のバラモン階級の出身。したがってハリス氏もバラモン階級の意識や環境のもとで育ったため、「上から目線」が目立ち、一般人を見下したり、庶民感情に無頓着だったりするという。
私はこの指摘が正当なものかどうかは分からない。しかし、ハリス氏の資質が疑問視されるなら、トランプ氏はどうなのか。大統領経験者で初めて複数の罪状で起訴され、不倫口止め事件では有罪判決も受けた事実についてはとりあえず横に置いておく。私が何より危機感を覚えるのは、彼が民主主義のルールを守ろうとしない点だ。
4年前の大統領選、ジョージア州でジョー・バイデン氏に僅差で敗れたトランプ氏(当時は大統領)は、敗北を認めずに州務長官に電話して投票結果を覆すよう求めたと伝えられる。また、上院議長でもあるマイク・ペンス副大統領(当時)に、バイデン氏の勝利を認めないよう圧力をかけた。さらに21年1月6日には、「選挙結果を盗まれた。議事堂へ行こう」などと支持者をあおり立て、国会議事堂襲撃という前代未聞の大事件を引き起こした。
選挙結果の尊重は、民主主義の基本中の基本というべきルールだろう。それを平気で破ろうとするトランプ氏がまたも共和党の候補になったことが、私には信じられない。岩盤支持層と言われる白人労働者層はともかく、米国の知識人と呼ばれる人たちの一部も、そうしたルール破りを不問に付している事実は全く理解できない。それとも、私の民主主義への理解が間違っているのだろうか。
そうした中、10月初めに気になるニュースが流れた。バイデン大統領が、「(選挙戦が)自由で公正なものになると確信しているが、平和的かどうかは分からない。トランプ氏のこれまでの発言や、前回の大統領選挙の結果が気に入らなかったときの発言は非常に危険だ」と語ったという(ワシントン4日発ロイター電)。意訳すれば、トランプ氏が敗れた場合、4年前のように選挙結果を覆すよう画策したり、国会議事堂襲撃事件のような暴動をあおったりする可能性があるということだろう。もちろんバイデン氏は、ハリス氏の援護射撃の一環としてトランプ氏を批判しているわけで、多分に政治的発言だが、現職大統領が大統領選を前にルール破りへの懸念を公言するというのは異常だ。
10月4日に日本で封切られた映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」を鑑賞した。米国で半年前に公開された映画が、日本ではなぜ大統領選直前に封切られたのかはよく分からないが、カリフォルニア州とテキサス州が同盟して連邦政府と戦うという構図は現実的とは言い難く、いかにもフィクションという感じがする。しかし、それは大した問題ではない。この作品が訴えるのは、現実の米国で社会の分断が深刻化しており、それが暴力の行使に発展する危険性が排除できないという点だろう。
同盟軍(映画では「西部勢力」と呼ばれる)と連邦軍の戦いの描写は生々しく、観客は自分が銃撃戦に巻き込まれたような錯覚を覚える。ネタバレになるので詳しくは書けないが、アジア系のジャーナリストが射殺されるシーンは衝撃的だ。そして最後は、首都ワシントンで戦車や装甲車を動員した激しい市街戦が展開される。
今年の大統領選後、この映画のような内戦が起きることはないだろう。しかし、たとえ小規模であっても、4年前のように選挙結果を覆そうとしたり、暴力に訴えたりする場面は見たくない。それは民主主義への信頼を低下させ、世界的に民主主義勢力の退潮を招きかねないためだ。選挙が平和的に行われ、どちらが勝とうとも秩序だった形で新大統領が就任することを願うばかりだ。
■筆者プロフィール:長田浩一
1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。
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