高野悠介 2024年11月8日(金) 8時30分
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コラム9月の販売数と販売増のトップ3のデータを基に2025年の中国乗用車市場を展望する。写真はBYDのEV「海鷗」。
9月の販売数と販売増のトップ3のデータを基に2025年の中国乗用車市場を展望する。政策の影響は排し、車の魅力にフォーカスした。すると電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車などの新エネルギー車、内燃エンジン車を問わず、はっきりした傾向が見て取れる。
9月の販売台数トップ3は以下の通り。
1位 Model Y(テスラ) 4万8202台 EV、小型SUV 24万9900~35万4900元(約500万~710万円)
2位 海鷗(BYD) 4万7915台 EV、小型2BOX 6万9800~8万5800元(約140万~172万円)
3位 宋PLUS新能源(BYD) 4万2382台 EV+PHEV、小型SUV 12万9800~18万9800元(約260万~380万円)
1位 Model Y
テスラのModel Yは2023年に120万台超を販売し、世界一となった。中国では2024年1~9月に33万7648台を販売し、BYDの秦PLUSの36万2721台に次ぐ2位、SUVでは1位だった。しかし、国内勢がModel Yをターゲットとする製品を続々投入した。极氪(吉利系)、智己(上海汽車系)、楽道(蔚来系)、阿維塔(ファーウェイ系)、智界(奇瑞系)、小鵬の6大ブランドが激しく争う。中でも低価格路線の极氪7X(22万9900元=約460万円~)、智己LS6(21万4900元=約430万円~)が絶好調で、Model Yに強いプレッシャーをかけている。これらのブランドはBBA(ベンツ、BMW、アウディ)のシェアも浸食し、高級車マーケットを一変させつつある。
2位 海鷗(シーガル)
海鷗は2023年4月発売の「新世代主流モビリティースクーター」を標榜する3780mm×1715㎜×1540mm、ホイールベース2500mmのコンパクトカー。BYDのEVではボトムラインに位置する。それでも自社開発のインテリジェントネットワーク「DiLink」を搭載し、自慢の自社製ブレードバッテリーを採用しており、航続距離は305~405km。通勤や短距離移動のニーズなら海鷗のベーシックグレードで十分だろう。1万ドル以内という価格のメリットは大きく、海外でも注目されている。
3位 宋PLUS新能源
2021年に発売されたBYDのエース級の新エネルギー車で、2024年7月に累計販売台数が100万台を突破した。EVとPHEVがあり、さまざまなタイプを含むが、基本は4705mm×1890mm×2765mm、ホイールベース2745mmで、中国では小型SUVに属する。発売中の2025年バージョンはEVが航続距離520km版2グレード、同605km版1グレード、PHEVが電池航続75km版1グレード、同112km版2グレード、同160km版2グレードで、1車種で合計8グレードという大ファミリーを形成している。
ニューメディア「優視汽車」は「9月に3車種が販売数激増、一体誰が購入しているのか」との記事を発表し、詳しく分析した。
1位 シルフィ(東風日産)
3万3404台 ファミリーセダン 前月比9601台増 内燃エンジン、レンジエクステンダー 6万9800~14万1900元(約140万~284万円)
2位 MONA M03(小鵬汽車)
1万23台 小型セダン 前月比9506台増 純EV 11万9800~15万5800元(約240万~312万円)
3位 宋L DM-i(BYD)
2万2677台 小型SUV 前月比6927台増 13万5800~17万5800元(約272万~352万円)
1位 シルフィ
シルフィ(軒逸)は日産の合弁企業の東風日産により2006年に投入された。日本では2020年に生産終了し、日本人の記憶からは遠のいているが、中国では高い人気を保っている。2020年から2023年まで4年連続でセダンの販売台数トップを維持し、10万元(約200万円)前後のお値打ちファミリーセダンの象徴的存在となっている。中国メディアはシルフィについて、仕上がりや乗り心地など細部には賛否両論あるものの、安定性、信頼性、耐久性、低燃費に関しては文句なしと称賛している。
そのシルフィが8月と9月に新型を発売し、販売台数を大きく伸ばした。10万元以下でコスパの良い内燃エンジン車を望むユーザーにとって有力な選択肢であり続けている。
2位 MONA M03
小鵬汽車は理想汽車、蔚来汽車と並ぶ「造車新勢力」の雄だ。PHEVで先行した理想汽車を追いかけ、蔚来など他社を抑えるため、低価格車が求められていた。MONA M03はそれに応えた切り札だ。8月末に発売され、当月の販売は517台だったが、9月に1万23台と躍進した。中国メディアはコスパの高さを理由に挙げている。ファッショナブルなエクステリアとスマートなインテリアは特に傑出したものではないが、ユーザーは評価したようだ。量販EVにおける抗力係数ではトップで、航続距離はベーシックグレードで515km。これが11万9800元で手に入る。スタイリッシュなEVを望む25~35歳の若い男性の心を捉えた。
3位 宋L DM-i
7月25日に発売され、8月に1万5750台、9月に2万2677台と販売台数が激増した。5月に発表した最新のPHEVシステム、第五代DM技術を採用した。世界最高のエンジン熱効率46%、100Kg当たり燃費2.9L(リッター当たり34.5km)を達成し、航続距離は2100kmにも及ぶ。スペック通りのパフォーマンスを発揮するとすれば、現在世界最強のPHEVだろう。
■コスパの高さで後悔しない選択
内燃エンジン車…シルフィ
EV…MONA M03
PHEV…宋L DM-i
高級車…Model Y、极氪7X、智己LS6
ミドルクラス…宋PLUS新能源
コンパクト…海鷗
いずれのカテゴリーでも高コスパ車が売れている。中国メディアはこれこそ昨今の後悔しない正しい選択だとしている。メーカーの生き残りは高コスパ車の投入にかかっている。
EVは高級車とベーシック車に二極化し、ミドルクラスはPHEVやレンジエクステンダーがシェアを伸ばしている。この傾向は当面続くとみられ、こうした状況に対応することが重要だ。EVのシェアは頭打ちから下降へ向かい、当初想定された新エネルギー車の市場構成とは異なるものになりつつある。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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