日本僑報社 2024年11月10日(日) 17時0分
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「皆さんは独立して考えるようにしてください」。目の前の霧が晴れていくように、眼には新たな世界がありありと見えてきた。
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「逢うべき糸に出逢えることを 人は仕合わせと呼びます」
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この作文を書き始めようとする時、中島みゆきの「糸」という歌を聴きながら、学部生時代の指導先生――張淑靖先生の思い出が次から次へといっぱい浮かんできた。
「初めまして、先生、袁Xと申します」「初めまして、袁君、私は袁君の指導先生ですよ。日本語が好きですか、日本の漫画あるいはアニメが好きですか」。私は顔に苦笑いを浮かべながら、首を横に振った。「特に好きではありません。私は歴史に興味があります。しかし、あれこれの事情により日本語専攻がとなりました」「歴史が好きですか。偉いですね。でも、日本語も面白いですよ、絶対に歴史の知識に負けないよ。日本語専攻の世界へ、ようこそ」。
それは、新入生の私と先生の初めての会話だった。その前の長い間、日本語専攻に入ったために、私はずっとくよくよしていた。だが、優しい先生の暖かい言葉を聞いたら、なんと日本語への抵抗感を乗り越えることができた。張先生との出会いがきっかけで真面目に日本語を勉強するようになった。
「先生、この物語の真相は一体なんですか」。それは、2年生の授業中だった。授業中、私たちは一緒に芥川龍之介の『藪の中』という物語を読み、『藪の中』を原作として、同作者の『羅生門』を加えて映画化された『羅生門』という映画を見た。授業の最後、私は手をあげ、前文にあるような質問を出した。
「真相は君達の考え方次第ですよ」。私は首をかしげた。「どういう意味ですか」。先生は微笑んで、このようなことを述べた。「真相は重要ではない。一番重要なのは、問題を考える立場です。事実は一つだけど真相は無数にありますよ。今の時代、皆さんの目に触れるニュースの何もかも他の人が見せたがるものだ。皆さんは独立して考えるようにしてください」。
目の前の霧が晴れていくように、眼には新たな世界がありありと見えてきた。初めて日本語あるいは日本文学に魅力を感じた。
4年生の時に、新型コロナウイルスの影響で計画留学ができなくなり、中国の大学院の入試に参加した。残念ながら、面接試験で緊張し、失敗した。その時に、落ち込んで、人生が終わった感じがした。復習の資料を全て捨て、自分の部屋に引きこもっていた。なかなか自分の失敗を許せなく、自分自身のことを疑い始めた。
その時、先生から電話がきた。「大丈夫ですか」「先生、大丈夫ですよ。ごめんなさい、私は失敗しました」「謝る必要はありませんよ。袁君はもう最善を尽くしました。カルテットというドラマを見たことがありますか」「いいえ、見たことはありません。面白いドラマですか」「ええ、面白いよ、とりあえず、休みとして見てみよう。見た後、自分の気持ちを整理し、また頑張りましょう。袁君はやればできる子ですから。私はずっとそのことを信じていますよ」。このドラマを見た後の翌日、私は浪人生向けの自習室に入り、また受験の準備を始めた。
今、日本文学専攻の院生として勉強している私は学校の図書館で、またそのドラマの主人公のセリフを思い出した。――「人生には、三つの坂があるんですって。上り坂、下り坂、まさか」。そうだね。先生がおっしゃった通り、誰にしても、失敗は、それを認める勇気さえあれば、いつでも許されるものだ。重要なのは、もう一度やり直す勇気だ。
確かに、人と人との出会いは、中島みゆきの歌詞のように、仕合わせと呼ぶのだ。人々は互いに出会う理由やタイミングは知らないが、それでも出会いは起こる。そして、その出会いが織りなす布は、いつか誰かを暖めたり、傷をかばったりするかもしれない。人と人との出会いは偶然ではあるが、大切なものだ。
ありがとう、先生。日本語に会えて、よかった。日本文学に会えて、よかった。先生にも会えて、よかった。
■原題:糸
■執筆者:袁傑(天津外国語大学)
※本文は、第19回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「囲碁の智恵を日中交流に生かそう」(段躍中編、日本僑報社、2023年)より転載・編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
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