日中有識者などによる「東京-北京フォーラム」閉幕、東京宣言で「紛争回避と安全に向けた努力と官民対話促進」求める

八牧浩行    2024年12月7日(土) 6時0分

拡大

日中両国の有識者や政財界人が政治・外交や経済を議論する「東京―北京フォーラム」が5日、東京宣言を発表して閉幕した。

日中両国の有識者や政財界人が政治・外交や経済を議論する「東京―北京フォーラム」が5日、東京宣言を発表して閉幕した。宣言は「北東アジアは紛争回避と安全に向けた努力を一層強化すべきだ」と強調、「この地域に必要なのは対立ではなく、安全の維持と協力のための努力だ」と訴えた。このフォーラムは言論NPOと中国国際伝播集団が主催し、「多国間協力に基づく世界秩序と平和の修復に向けた日中協力」をメインテーマに3日間にわたって都内で開催された。

岩屋毅外相と中国の王毅外相は開会式のあいさつでそれぞれ、相互訪問への意欲を語った。岩屋氏は中国による日本人の短期滞在ビザ免除措置の再開などで「日中関係は再び前に力強く進み始めた」と評価。「この歩みをさらに推し進めるため、できるだけ早く中国を訪問したい」と意欲を示した。

王氏もビデオメッセージで岩屋外相の訪中を歓迎した上で「適切な時期に日本を訪問する」と呼応。米国トランプ次期大統領を念頭に保護主義が台頭していると批判し、「日中は共にアジアの団結と協力を守り、外部勢力が対立をあおるのを阻止しなければならない」と呼び掛けた。

5日の全体会議で中国の呉江浩駐日大使は両国の協力強化について「国民世論を前向きなものにするためには両国の指導者の共通認識を速やかに実行に移すことが大事だ」と指摘。1972年の日中共同声明など四つの政治的文書の原則を厳守するとともに、「歴史問題や台湾問題など両国関係の政治的土台に関わる重大な問題において約束を守り、信用を重んじる必要がある」と強調した。その上で「政治的な相互信頼を深め、互恵的な協力を深化し、民間交流を強化し、中日関係の長期的健全で安定した発展を推進していくべきだ」と呼び掛けた。さらに「国際法を基礎とした国際秩序、国連憲章の諸原則を土台とする国際ルールの順守が必要だ。ウクライナ、中東、朝鮮半島、強権政治の横行、覇権主義の台頭、関税戦争の勃発、エネルギー・食糧安全保障、人工知能など世界に存在しているさまざまな課題や懸念を、日本と全ての国と共に真の多国間主義を実践し、グローバルガバナンスをより公正で合理的な方向に向けて発展させていきたい」と語った。

日本の金杉憲治・駐中国大使はビデオメッセージを寄せ、「国際社会の多くの地域で混沌とした状況が生じている」と指摘した上で、「アジア地域、特に東アジアはさまざまな課題はあるが、全体として見れば平和と安定、そして経済的繁栄を享受している」と評価。「こうした状況を次世代に必ずや受け継いでいかなければならない。そのためには、日中両国が緊密に意思疎通を図り、2国間関係をできる限り安定させる努力が欠かせない」と訴えた。日中両国の首脳もそれをよく理解しているからこそ、11月に首脳会談が実現したとの認識を示しつつ、そこで再確認された戦略的互恵関係について「一言で言えば、日中間のさまざまな懸案は適切に管理して、それが両国関係の大局に悪影響を与えることを避けつつ、共通する課題についての協力を深化させることだ」と解説した。同時に、「これを一つ一つ具体的案件で実現していくことが私たち外交官の仕事だ。日中関係が発展して良かったと両国民が実感できるような具体的成果を積み上げていきたい」と意気込みを語った。さらに、「中国について(日本で)悪いニュースばかりが大きく取り上げられる傾向がある中で、実際に中国に来て、現場を見て、そして関係者と意見交換することが重要」だと強調した。

政治・外交、経済、安全保障、デジタルなど8分野の分科会報告を経て、川島真氏(東京大学大学院教授)の司会進行の下、工藤泰志(言論NPO代表)と高岸明氏(中国国際伝播集団総編集長)による「次期10年座談会」が行われた。「次の10年」について工藤代表は、戦争や気候変動など課題が山積みであるにもかかわらず、世界で国際協力が後退している現状を強く懸念した上で、「単なる日中2国間だけではなく、世界に視線を向けることが重要であり、新しい人材、とりわけ若い世代を取り込んでいきたい」と語った。

高氏は、日中2国間から地域、そして世界に視野を広げ続けてきたのがこの20年間のフォーラムだったと振り返りつつ賛同。「戦略的にテーマ設定をデザインし直し、重要な国際課題解決に乗り出していく。そのためにはフォーラムのブランドを高めて、政策への影響力を高めていく必要がある」と課題を述べた。

工藤代表は記者会見で「協力が必要な局面で世界が力を合わせられていない」とし、多国間協力には日中の協調が重要だと強調。「日中には決定的な対話不足がある。違いを乗り越えるための議論をしなければいけない」と述べ、政府が対話や交流を主導するよう求めた。高氏は「もうすぐトランプ米政権が始動する。新たな世界情勢の中、世界の持続可能な発展のために日中が協力できることは何かを検討すべきだ」と語った。

東京-北京フォーラム

日中防衛関係者の頻繁な定期協議と青年交流強化が喫緊の課題―東京宣言

「東京宣言」の要旨は次の通り。

世界は対立を深め、本来、協力が必要な局面で世界が力を合わせられない事態が続いている。気候変動をはじめとする危機が複合化し、貧困の削減、開発問題が重くなり、国際法と国連憲章は試練にさらされ、戦争が長期化している。こうした世界を修復できるのか、そのための日中協力は可能なのか。私たちがこの会場に集まったのは、こうした歴史的な課題に真剣に向き合うためである。

日中の世論調査では克服すべき新しい課題も明らかになっている。世界は協力すべきとの強い共有した意識を持ちながら、日中両国民の認識にこれまで以上の亀裂が広がっている。

これらにどう取り組むのか、次の2点である。

(1)協力して世界の未来に向き合うためには、感情的な対立を乗り越える必要があり、日本と中国は課題解決の意志を持つ輿論の喚起のために力を合わせる必要がある。

(2)この対話がこれまでの20年で作り上げた膨大な財産を踏まえながら、世界の未来に責任を果たす対話に脱皮させることである。

この使命のため、以下の点で合意した。

第一は、私たちの決意である。私たちは間もなく新しい年を迎える。2025年は第二次世界大戦が終わり、その深い反省から世界の戦争を防止し、世界が力を合わせて平和と繁栄を実現するために国連が創設されて80周年となる。歴史の逆行を許すべきではなく、国連システムの機能や多国間主義に基づく世界は守らなくてはならない。それこそが、私たちの未来に向けた決意、だということである。

第二は、私たちが協力して目指す世界経済とは、あくまでも自由で開放的な経済だということである。自国第一主義と保護主義が世界で高まっているが、ルールに基づいた開かれた世界経済しか、持続可能な未来は描けない。他国への依存が強まりすぎることは自国経済の安全の障害になることは理解するが、経済の分断やブロック経済を加速させることは避けるべきである。日中経済はあくまでも協力発展を目指すべきであり、そのためにも相互信頼に基づいてビジネス環境を改善するとともに、企業活動を制約する規制の透明性と予見可能性を高めることが協力の前提である。

第三に、北東アジアは、紛争回避と安全に向けた努力を一層、強化する局面にある。この地域に必要なのは対立ではなく、安全の維持と協力のための努力であり、この地域の信頼醸成の仕組みである。この地域の危機管理の仕組みをより有効なものにするため、日中の防衛関係者の頻繁な定期協議は急務である。

第四に、今回、改めで考えるべきことは、世論の環境がインターネット主導に変わる中でも相互理解の決定的な要因が国民の交流にある、ということである。政府間が合意した戦略的互恵関係は、国民の理解と信頼があってこそ実現するものであり、今回の世論調査で見られた国民感情の悪化と意識の変化を修復する作業は優先すべき課題である。両国は世界の未来に向けた協力を考える上でも、まずあらゆる対話の拡大と国民間の交流の促進にこれまで以上に本気で取り組むべきであり、青年交流の強化が喫緊の課題であることは論を待たない。(以上)

11月の日中首脳会談で、習近平主席が「中日両国はアジアと世界の重要な国であり、2国間の発展は枠組みを超えた重要な意義がある」と強調し、石破茂首相も「日中両国は地域の平和と繁栄に対して重要な責任がある」と表明した。今回のフォーラムでは多くの有識者から、国際秩序を共に維持し、さまざまなグローバルな挑戦に協力して対応すべきであり、戦略的互恵関係を発展させるべきであるとの方向が示された。「多国間協力に基づく世界秩序と平和の修復に向けた日中協力」というテーマはその趣旨に合致した格好だ。また、中国側から要人が多く参加し、前向きな議論が展開された。日中首脳会談での石破・習会談が後押しした一方、米国のトランプ次期大統領を念頭に保護主義が台頭していることへの危機感共有も背景となったと言えよう。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携