内戦・難民、核、中東…難問山積の国際社会=24年暮れの三つの記者会見に参加して

長田浩一    2024年12月31日(火) 19時0分

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日本記者クラブで行われた三つの記者会見に参加した。内戦が続くスーダンの臨時代理大使、ノーベル平和賞を受賞した日本被団協代表委員ら3人、シリア情勢に詳しい教授の会見だ。写真はスーダン。

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2024年の暮れ、クリスマスの週に日本記者クラブで行われた三つの記者会見に会場またはオンラインで参加した。内戦が続くスーダンのアリ・モハメド臨時代理大使、ノーベル平和賞を受賞したばかりの日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の田中熙巳代表委員ら3人、そしてシリア情勢に詳しい東京外国語大学の黒木英充教授の会見だ。内戦とそれに伴う難民の発生、核の脅威、不安定な中東情勢という国際社会が今まさに直面している難問がテーマだっただけに、それぞれに興味深く聴いた。

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スーダン、国際社会の無関心が障害に

東アフリカのスーダンでは、昨年春から政府軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で戦闘が続いている。アリ大使によると、RSFは橋梁などのインフラや一般市民が暮らす村落への襲撃、略奪行為などを繰り返しており、これまでに6万人余りが死亡。さらに290万人が国外へ逃れたほか、1090万人が国内難民となっているという。会見では、RSF自ら撮影したという一般市民への暴行、拷問の動画も上映された。女性への性暴力も深刻だ。強姦の事案は確認されているだけで966件に及び、性奴隷としての拉致や少女への暴行なども多数報告されている。

同大使によると、RSFにはアラブ首長国連邦(UAE)が支援を行っており、武器や弾薬が同国からチャドを通じてRSFに渡っているといい、「兵器の流れを止めることは重要だ」と、国際社会がUAEにRSFへの支援を見合わせるよう圧力をかけてほしいと訴える。もちろん、アリ大使は政府側を代表して発言しており、RSFやUAE側には彼らなりの言い分があろう。ただ、人口5000万人の国で難民が1000万人を超えるというのは極めて異常であり、「世界最大の人道危機」と呼ばれるのも納得できる。


ただ、会見を聴いていて、問題解決への最大の障害は国際社会の無関心ではないかと感じた。この日の会見に出席した報道関係者はわずか6、7人で、これまで私が参加した日本記者クラブの記者会見では最少。私自身、これまでスーダンの危機についてほとんど知らなかったのだから、偉そうなことは言えないが、日本におけるこの問題への関心の低さを象徴する出席者数だった。

アリ大使は「ウクライナ、ガザ、シリアなどは注目されているが、スーダン(の内戦)は忘れられた戦争だ」と寂しそうに語り、「これまでの日本の支援には感謝しているが、一層のサポートをお願いしたい」と、切実な表情で訴えていた。

「核の恐ろしさを知ってほしい」

アリ大使の翌日に行われた日本被団協の会見には、前日とは打って変わって多数の報道関係者が詰めかけた。10日にノルウェー・オスロでノーベル平和賞を受賞したばかりで、いわば凱旋会見だったのだから、当然かもしれない。

代表委員の田中氏は、92歳と高齢ということもあり、少しお疲れの様子だったが、「被爆80年を前にノーベル賞をいただいた。もう少し頑張らないといけない」と、核廃絶に向け今後も活動を続ける意向を表明。また、ノルウェー・ノーベル賞委員会のフリードネス委員長らとの会食の際、「被団協へのノーベル賞は来年を考えていたが、それでは遅くなると思い、今年授与することにした」と告げられたという内幕話も披露した。来年では遅いという理由についてそれ以上の説明はなかったが、私は、ロシアの核の脅しに対抗するために反核世論を早急に盛り上げる必要があること、そして被爆者の高齢化が進んでいること、この2つがノーベル賞委員会の念頭にあったのではないかと推測した。

個人的には、同席した児玉三智子事務局次長の悲痛な訴えが心に残る。7歳で被爆したという同次長は、「両親や弟など、家族はがんで亡くなった。放射能には勝てない。放射能を浴びた私たちは、一生被爆者から逃れることはできない」と心中を吐露。ロシアのプーチン大統領が核兵器使用の脅しを口にしていることについて「本当の核の恐ろしさを知らないのだろう」と切り捨て、「世界の人たちに本当の核の被害を知ってもらいたい。命ある限り伝えていきたい」と続けた。

アサド政権崩壊、中東は一層不安定に?

黒木教授の会見では、2011年から内戦が続いていたシリアで、父子2代にわたって独裁的に権力を握っていたアサド政権が崩壊し、シャーム解放機構(HTS)を中心とした暫定政権が形成されようとしている現状と、今後の見通しについて聴いた。同政権があっさり崩壊した理由としては、後ろ盾となっていたロシアや、協力関係にあったレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが、それぞれウクライナやイスラエルとの戦いで手いっぱいで、同政権を支え切れなかったためと言われている。しかし黒木教授は、シリアへの経済制裁や、クルド人支配地域にある油田からの石油収入が途絶していたことで「(経済的に)ガタガタだったことが大きい」と指摘。軍人の給与も低く抑えられており、「軍の人的弱体化があった」ことが、政権軍の総崩れの大きな要因だったと語った。

これまでアサド政権は、イスラエルとの対立の激化は避けつつも、イランからヒズボラへの武器などの輸送は認めてきた。同政権の崩壊で、その供給ルートが無くなったわけで、イスラエルの立場は一段と強まった。「いまや一強状態にあるイスラエルが、イランの現体制にとどめを刺そうとするのではないか」との質問に対し、黒木教授は「その可能性はある。イスラエルと(イスラエル寄りの人物で固めた)米国トランプ次期政権がどう出るか。ただ、イランは軍事的解決を回避するために最大限の努力を払うだろう」と答えた。

一方で黒木教授は、これまでもシリア北部を占領していたトルコが、さらに勢力を伸ばそうとしてイスラエル、およびその背後にいる米国と衝突する可能性にも言及した。トルコは北大西洋条約機構(NATO)に加盟している地域大国であり、もしそのような事態になれば世界に激震が走る。

こうしてみると、アサド独裁政権の崩壊はシリア国民にとっては良かったかもしれないが、中東地域を一段と不安定化させる可能性がある。既にウクライナなど世界の各地で紛争が続いている中で、これ以上争いが広がらないよう願うばかりだ。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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