日本僑報社 2025年2月16日(日) 14時0分
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主人の中国愛がムクムクと膨らんできた。子供達にも、お隣中国という国を見せたいらしい。子供達のパスポートを作り、8月初旬に3泊4日のツアーで、北京旅行に行く事となった。写真は万里の長城。
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主人が「家族で中国に行きたい。」と言ってきた。子供達にとって初めての海外旅行だ。2009年、今から14年前のことである。3人いる子供の末っ子長男はまだ3歳で、手がかかるし、私も中国には行ったことが無い。どのような国だろう。少し心配になった。
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主人は、2002年に仕事で初めて北京、上海へ行った。国交正常化30周年記念を祝う観光業界の交流イベント参加のためだ。人民大会堂で開かれたレセプションは華やかで素晴らしく、料理もとても豪華で美味しかったらしい。その後、数々の世界遺産を見学し、すっかり中国のファンになった。帰国後中国語を習い始め、その後も2度ほど赴いた。
2008年に北京オリンピックが開催され、広大な土地での多くの人の熱い戦いを目の当たりにし、主人の中国愛がムクムクと膨らんできた。子供達にも、お隣中国という国を見せたいらしい。子供達のパスポートを作り、8月初旬に3泊4日のツアーで、北京旅行に行く事となった。
中2日の北京観光では、故宮、万里の長城、天壇公園、頤和園、明の十三陵の5か所の世界遺産を回った。子供のころから、歴史の教科書などで知っていた万里の長城を特に楽しみにしていた。人類史上最大の建造物。日本列島より長い建造物など、想像もできなかったからだ。
バスでの道中、標高が上がるにつれ、心の心拍数も早くなってきた。万里の長城の八達嶺は多くの観光客で賑っていた。曇って霧がかかっていたが、木々の緑とともに長城はそこに存在していた。一歩石畳に足を踏み入れると、身震いがした。何千年もの昔に生きていた多くの人、一人一人の思いと努力が作り出した城。今、ここに自分が立っている。そしてこの城壁は山の形状にそってどこまでも続いている。
歴史の重みに思いを馳せている私に、かまうことなく3歳のやんちゃな長男がどんどん先を行く。アップダウンの激しい石畳をアスレチックの遊具に挑戦するかのように生き生き足を運んでいく。一方で慎重派の次女が「怖い。」と私にしがみつく。一気に現実に引き戻された。「待って!」叫んだ私の声は長男には届かない。主人は異次元の景色に心奪われ、写真撮影に夢中だ。次女の手をしっかり握り、必死で追いかけた。石畳は階段だったり、坂道だったり、途中に楼があったり。頑丈なその道は自然と一体化し、くねくねと続いている。
すると、高校生ぐらいの年の男の子が、長男と手をつなぎ歩いてくれているのが見えた。軍服のような制服を着ている。修学旅行だろうか。同じ制服を着ている男の子が沢山いた。近づくと、2人はニコニコ楽しそうではないか。言葉が通じないであろう2人。まったく違和感のない空気が流れていた。年の離れた弟でもいるのだろうか。握っている手は優しく愛情に包まれて見えた。感謝の言葉を伝えられないもどかしさがあったが、「謝謝、謝謝。」連呼した。小さな男の子が一人急な坂を行くのは危ないと、手を差し伸べてくれたのだろうか。なんと声を掛けてくれたのだろう。ホッとしたのと同時に、この温かい行為に胸が熱くなった。
その後すっかり疲れた長男は観光バスの中でぐっすり寝てしまった。次の目的地、天壇公園に着いた。「見学した事あるから、行ってきていいよ。」と主人は長男とバスに残ってくれた。娘2人と巡った公園は、小雨が降っていたが、とても思い出深いものとなった。七十二長廊という屋根付きの長い回廊には、多くのご老人達が、輪になり雑談したり、トランプや将棋を楽しんでいた。隣に座って見学したいほど盛り上がっている。これが日常の風景なのだろう。とても素敵な場所だ。また祈年殿の円いフォルムと藍色の瑠璃瓦は、雨に濡れて尚とても美しかった。思う存分カメラに収めた。
子供達がとても喜んだのはスーパーマーケットだ。見たことない商品や、見覚えのある商品。中国語の勉強にもなった。可愛いイラスト入りのお菓子や、ノートなどの文房具、絵本、中国語の練習帳などのお土産も買った。四川料理や広東料理、北京ダックなどおいしい料理も堪能し、あっという間の3泊4日だった。
スマホも持っていない時代の中国旅行。とても新鮮で楽しかった。近代的な中国に驚き、ダイナミックで活気のある国だった。政治や歴史、文化、言語など全く違っても、人間としての本質、大事なことは同じなんじゃないか。万里の長城で助けてくれた男の子。優しく明るかった。そして大切な物を持っていた。長男は今、彼と同じくらいの年になる。異国の小さな子が危ない時、手を差し伸べ助けてあげる事ができるだろうか。
■原題:温かさに触れた中国旅行
■執筆者プロフィール:芹澤 暁子(せりざわ あきこ)主婦
1970年茨城県生まれ、埼玉県川越市育ち。日本女子大学家政学部卒。会社員の夫と結婚し、さいたま市在住。一男二女の母。趣味は編み物と、エッセイを書くこと。
※本文は、第6回忘れられない中国滞在エピソード「『香香(シャンシャン)』と中国と私」(段躍中編、日本僑報社、2023年)より転載したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
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