戦争で妻を失ったおじいさんの目が潤んでいた理由―中国人学生

日本僑報社    2025年3月9日(日) 18時10分

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おじいさんはにこにこ話しながら日記をめくっていた。だが、ほどなくしておじいさんの手の動きがぴたりと止まった。資料写真。

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「愛する妻亡くなってからもう75年も経ち」

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それは、私がまだ桂林で勉強していた4年前、「老兵訪問」というボランティア活動に参加した時、ふと目にした王甦というおじいさんの日記の冒頭である。光陰矢の如く、あっという間に4年が過ごされたが、なぜか最近、あの時おじいさんが話してくれたあの言葉、あの目を思い出さずにはいられなかった。

あの日、軍服をまとったおじいさんの胸元には、いくつか勲章が輝いていた。おじいさんは木製ソファに座って杖を片手に私たちに向かって微笑みながら、親切に軍隊の入隊から、黄埔軍官学校での勉強、そして胸元についた勲章の由来までの逸話を話してくれた。おじいさんはいつも言いきれないことがあるようで、初めて会った日に私たちは何時間も話して、出発する前に自分の日記さえ取り出して見せてくれた。

「歳をとって物覚えも悪くなってきたので、普段のことや考えを忘れないように日記や詩を書くのが好きだ」。おじいさんはにこにこ話しながら日記をめくっていた。だが、ほどなくしておじいさんの手の動きがぴたりと止まった。私の目はすぐに日記の内容に惹かれた。

日記に「愛する妻亡くなってからもう75年も経ち」と書かれたのだ。ざっと目を通しただけで、内容もよく覚えていなかったが、日記の行間に戦争への嫌悪感、亡くなった肉親への思いが溢れていることを今でもはっきり覚えている。しかし、おじいさんはただ「家族も新妻も戦争で亡くなった。思えばずいぶん前のことだったね。今は平和になってよかったね」と日記を閉じながら言った。

それまでの積極的な相槌とは打って変わって、それを聞いた私は言葉が出なくなった。おじいさんを覗き込むと、にごった目が少し光っていて、まだ少し潤んでいるのに気がついた。この発見には驚いた。何事もなかったかのように話しているおじいさんの目が、なぜ潤んでいるのか、その時の私はピンとこなかった。しかし、おじいさんの言葉、涙ぐんだ目は、私にとって忘れられないものとなった。

だが最近、私は日本の都留文科大学の学生と一緒にオ ンラインで日中国際授業を受けていた。小さいことだが、この授業を通して4年前のことを新たに感じることができたようだ。授業は日中ホットな話題の紹介、グループごとで短編小説への討論の形式で展開されていた。このような授業に初めてなので、最初少し不安だった。

けれど最初のグループディスカッションでは組長の大高さんが不安を解消してくれた。「素晴らしい発想だね」「斬新なアイデアだね」といった、大高さんの真剣な聞き入りと絶え間ない賞賛で、みんなも笑い声が絶えなかった。スクリーン越しに、みんなの明るい笑い声を聞いて、その時、妙に「今は平和になってよかったね」というおじいさんの言葉も涙ぐんだ目も胸に浮かべた。その関連付けなさそうな二つのことだが、私の頭の中をぐるぐると回って、回って回って目の前のスクリーンから平和が溢れ出たようだ。

戦争の時代から数十年が過ぎ、今年は日中平和友好条約が結ばれて45周年になった。今日の平和や素晴らしい生活がこの条約から生まれたとはあえて言えないが、この条約の締結には、先人の平和への憧れや、おじいさんのような人々の戦争への嫌悪感が込められているのではないだろうか。この条約のような平和のシンボルがあったからこそ、おじいさんはそう微笑んで言いながら目に涙を浮かべたのだろう。平和への願いがあったからこそ、この条約が生まれ、そして45年も存在してきた理由だろう。

おじいさんの涙ぐんだ目と、日中国際授業の時のみんなの明るい笑い声とのことから、私は平和の深い意味をしみじみと感じた。そのため、中国の若者としての私は、微力であっても、これからも日中平和友好条約が末永く有効であるように、奮闘していきたいと思っている!

■原題:再発見! 涙ぐんだ目や明るい笑い声からの平和

■執筆者:何紫怡(湖南師範大学)

※本文は、第19回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「囲碁の智恵を日中交流に生かそう」(段躍中編、日本僑報社、2023年)より転載・編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。

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